第25話 心に刻まれた傷

 ルオとティアの二人を加えた保護された村の子供達とケイドロで遊んでいた最中、泥棒側のメンバーであるクライムを追いかけた事で木の上から落ちたナキだったが、午前中の作業に起きた怪奇現象によって事なきを得た。

 だがそこで、ルオの口からナキにとって信じられない事を告げられた。


「俺にくっついてるセイレイって、俺の周りにもセイレイがいるのか?

 アンタにくっついてる奴じゃなくて⁇」


「今でも心配そうにくっついてるぞ? っというか村に運び込まれてからもかなりの数がずっとくっついてたぞ」


 ルオから保護される前から自分の周りに精霊がいる事を知らせれたナキは、信じられないという表情をしていた。

 異世界に来てから、精霊らしい存在を一度も見た覚えがないのだ。

 驚いているナキの表情を見たルオは、ナキに精霊の認識について質問してきた。


「もしかして、チビ達が見えてないのか?

 周りで飛んでる赤ん坊くらいの連中や今もお前にくっついてる子の事も?」


 ルオにそう聞かれたナキは、首を縦に振った後に自分の周囲を見回した。

 自分の周りに精霊がいると言われても、それらしい物は見当たらず、信じられないでいた。

 するとそこに、民族衣装を着た男に連れられたヴァンダルが慌てた様子でやってきた。


「坊主、大丈夫か⁉」


「ヴァンダルさん、なんでここにいるの?」


「坊主とクライムが屋根や木の上を飛び回ってるって聞かされて来たんだよ!

 あちこちで目撃情報が上がってるもんだから村中大騒ぎだぞ!」


 ナキとクライムによる屋根伝いから木の上枝の追いかけっこは、ヴァンダルに報告が行くほど村中で騒ぎになっていたようだ。

 加えてクルークハイト達に囲まれる形でナキが座り込んでいた事から、ナキが木の上から落ちたのだという事を悟ったらしい。


「なぁ、それよりも俺の周り……」


「ところでさ、この場合ケイドロの結果ってどうなるの?」


「あ、確かに! この場合はクライムが逃げ切ったって事で、泥棒の勝ち?」


「ミュミュウ、ミュウ! ミュウミュウ!」


「どう考えてもドロー、引き分けだって。

 人が一人落ちたのに勝ち負け決めてる場合じゃないって言ってるわ」


「ミュウミュウ!」


 ナキが精霊の事についてヴァンダルに尋ねようとした所、レーヴォチカがケイドロの勝敗を気にする発言をしたため話が逸れてしまった。

 一見クライムが逃げ切った事で泥棒の勝ちかと思いきや、ナキが木から落ちて勝敗を決めてるヒマはないとティア経由でプルプルが主張したため、必然的に引き分けになった。


「え~、勝ち負けなしかよ」


「なぁ、それよりも……」


「仕方ないよぉ、ナキ君が落ちてそれどころじゃなかったから」


「おい……」


「実際の所残り時間も数え忘れてたし、分からなくなってたよな」


「ちょっと……」


「とりあえず、安全がサイユウセン、だね」


「なぁ……っ!」


 精霊の事について話題を変えようにも、ルオ達はケイドロの結果に夢中で誰もナキの言葉に耳を傾けようとしない。

 ナキにとってその事実は元いた世界で誰からも無視されていた時を彷彿とさせ、いらだちを募らせるには十分だった。


「しゃあない、今日の遊びはここま……」


「人の話ムシするなよ! なんのイヤがらせだ⁉ イヤがらせも体外にしろよ‼」


 誰も話を聞いてくれそうになかったため、とうとうナキは耐えきれずその場にいた全員に怒鳴り散らしてしまった。 

 突然ナキが怒鳴りだした事に対し、その場にいた全員が驚いていた。


「どうしたんだよ、急に大声出して?」


「どうしたもこうしたもお前らが俺の話を聞こうとしないのが悪いだろう!」


「え? なんか話しようとしてたのか?」


「なんども声かけてただろう! 人が聞きたい事聞こうとしたシュンカンに話題変えやがって!」


「話題って、ケイドロの勝敗の事か?」


「僕達が話してのってケイドロの話題だけだよね?」


 ナキに話題について指摘されたルオ達の中では、話題の内容はケイドロになっていた。

 話題の内容がナキの周囲に精霊がいる事からケイドロの勝敗に変わっている事に気付いたナキは、その事を許す事が出来ず、追求しだした。


「全然ちげぇよ! 俺が木から落ちた後にセイレイの話してただろう!

 最初はセイレイの話だったのに途中で話のコシを折って話題を変えただろう⁉

 話題を戻そうと何度も声かけてたのに勝手に話を進めて、あげく話を終わらせようとしてたじゃねぇか‼」


「ちょ、ちょ、ナキ、落ち着けって。 な?」


「落ち着いてられるか! 本当にいい加減にしろよ! どれだけバカにすれば気が済むんだ⁉

 結局はお前らも優達と同じじゃねぇか、クソッタレ‼」


 そう言い切るとナキはそのまま勢いよくその場を飛び出してしまった。

 背後からクルークハイトやヴァンダル達が静止する声が聞こえてきたが、頭に血が上った状態のナキにその声は届いていなかった。


 その結果、移動範囲は村の中までと言うヴァンダルとの約束を破り、大海たいかいの森に飛び出していしまった。

 勢いよく飛び出してしまったという事もあって自分がどう走ってきたのかも分からず、保護された村に戻るのも困難な状況になってしまった。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……。ヤバい、しくじった。

 優達といた時と状況が似ていたとはいえ、完全に逆ギレじゃん……」


 先程までのやり取りが惨めで不遇な立場優といた時と重なって感じたとはいえ、完全に逆ギレしてしまった事には気付いていた。

 しかし不遇な環境で過ごして来た時の事はそう簡単には消えず、ナキの中で抑えが効かなかったのだ。


「はぁ、どうしよう……」


 ナキは周囲を確認し、自分がどう進んできたのか把握しようとしたが森独特の特徴ともいえる風景のせいで完全に方向角を失っていた。

 地面を見て足跡などはないかと期待したが、ここ最近雨は降っていなかったというのもあるが、地面は乾いていたため足跡などは残っておらず、村に戻るすべはなかった。


(どっちにしても、マホウが使えない今の状況じゃキケンすぎる。

 まずは身の安全をカクホしないと……)


 急性魔力マナ過多症を発症したせいで魔力回路が壊れ、魔法が使えない状況はキケンであると理解して稲ため、まずは自分の身を守る事を優先する事にした。

 この状況でナキが抱えている問題は、他にもあった。


 魔法が使えない事に加え、ナキの手元には必用な道具が一つもないのだ。

 道具の一つくらいあれば簡易的な弓を作る事も食料を取る事も可能だが、手ぶらな状態で箱は上手く運ばない。

 一から作る必要があった。


 一年前に元同級生達によって無実の罪を着せられ、ディオール王国から追放された時も真っ先に武器作りを行った。

 あの時は運良く食料と飲み水にありつけたため、すぐに武器作りに取りかかる事が出来た。

 今も昼食を食べた後という事もあり、空腹感はなかったため周囲を見回して素材を探し始めた。


(マジはナイフだ。少し薄くて、叩いて高い音が鳴る石……。この石がいけそうだな)


 ナキは近くに転がっていた薄い石と、先端が少し尖っ小石を手に取ると近くに作業台代わりになりそうな物はないかともう一度辺りを見渡すと、近くにナキの腰くらいの高さまである岩を見つけた。

 少し近付いて上部分を確認すると、程良く平らになっていたため作業台としては打って付けだ。


「よし、あの岩なら作業台変わりに使える」


 そう判断したナキはすぐさま作業に取りかかろうと岩に近付くが、そこで警告音が聞こえてきた。

 久方ぶりに警告音を聞いたため、どこに魔物が潜んでいるか把握するために身構えて周囲を確認する。

 が、それらしい魔物の姿は何処にも見当たらない。

 次に考えたのは自分の行動。そこに警告音が鳴るきっかけがあると判断した。


 ナキが行動した理由は、作業台に使用と岩に近付いた事。

 警告音が鳴ったきっかけは岩にあると考えたナキは、右手に持っていた小石を岩の方に投げた。

 小石が岩にぶつかった瞬間、岩が左右に揺れ出したかと思いきや、その下から甲殻類に似た生き物が姿を現した。


「なんだあれ⁉ ヤドカリか⁉」


 自分が作業台変わりにしようとした岩の下から、ヤドカリに似た生き物が出現した事に驚いたナキ。

 普段ならすぐに警戒するのだろうが、元いた世界で知っている掌サイズと違い自分の身長と同じくらいの大きさをしていたため、思わず動揺してしまった。

 眠っていたのか知らないが、小石を投げつけられた事でかなり不機嫌になっている様子だった。


「さっき小石を投げたからコウフンしてる、けど今ならまだキョリがあるからにげられるかも?」


 ヤドカリに似た生き物との距離に余裕があると考えたナキは、今の内に逃げるべきだと判断し背を向けた。

 その瞬間だった。ヤドカリに似た生き物はナキ目掛けて突撃してきた。

 異変に気付いたナキは背後を振り向いた直後、意識が飛んだ。



*****



 その時ナキは、幼い頃の記憶を夢で見ていた。

 時期は夏、夕暮れ時の公園、幼いナキの手には単眼鏡と呼ばれる小さな望遠鏡が握られていた。

 単眼鏡を覗き込めば、公園の木々に止まっている小鳥達の姿が映り込んでいた。


『えっと、この辺りがこうで、ここをこの色にすれば……、できた!』


 ナキは小学生初めての夏期休暇の工作の課題として、鳥の絵を描いていた。

 まだ幼いという事もあり、形の歪さはあるが当時のナキとしては頑張ったかいがあったという物だ。

 絵を描き終えたナキは、画用紙とクレヨン、単眼鏡を鞄にしまうと、自宅の帰路についた。


⦅がんばってかいたから、こんどこそお父さんとお母さんにほめてもらえるかな?⦆


 当時のナキはまだ五歳で、まだ両親に期待の念を抱いていた。

 沢山頑張ればいつか優のように褒めてもらえると思い込んでおり、肩下げ鞄の持ち手を両手で握りながら帰路を歩いていると、取り巻きを連れて同じように帰路についていた優とばったり遭遇してしまった。


『あれ? ナキだ』


『あ、優……』


 優と遭遇してしまったナキはあからさまに嫌そうな表情をした。

 優といればいつも酷い目に遭うため、この頃から優と一緒にいる事は避けていたのだ。


『もしかして、ナキもうちにかえるところ?』


『まぁ、そんなかんじ……』


『なんだよそのたいど、ナマイキだぞ』


『そうよそうよ』


 優の問いに対しナキが曖昧な返事で返すと、ナキの心境を知ってか知らずか、優の取り巻き達が不服そうな様子を見せた。

 理不尽な対応に対し、ナキはなるべく早く優から離れたかったため夏期休暇の宿題を理由にその場から離れようと試みた。


『ぼく、シュクダイがあまりすすんでないから先にかえるね……』


『おい待てよ、かってにかえるんじゃねぇよ!』


 ナキの態度か気に入らなかったのか、取り巻きの一人がナキの肩下げ鞄の持ち手を掴んで引っ張った。

 その拍子に単眼鏡がナキの肩下げ鞄から落ちてしまった。

 単眼鏡は優の足下まで転がって行き、優は転がって来た単眼鏡を拾い上げた。


『これなぁに? かわった形のボウエンキョウだね、これぼくがつかっても良いよね?』


 そう言いながら優は勝手に単眼鏡を使用し始めた。

 優はもう単眼鏡が自分の物であると思っているようだ。


『まってよ! それはじいちゃんからかりてるだけでぼくのじゃないんだ、返してよ!』


『ナキ、何するの⁉』


 実はナキが持っていた単眼鏡は、祖父から借りた物で正式なナキの所有物ではなかったのだ。

 単眼鏡が優の手に渡ってしまったため、ナキは単眼鏡を取り返そうと優につかみかかった。

 ナキの行動に驚いた優も抵抗し、そのまま取っ組み合いになった。


 しかし、この場にはナキと優だけではなく、優の取り巻き達もいる。

 単眼鏡を取り替え相当つかみかかった泣きを見た取り巻き達は、ナキを引き離そうと二人の取っ組み合いに介入してきた。


『優クンに何するんだこのサイノウナシ!』


『きたない手で優クンにさわらないで!』


『う、うわぁっ!』


 優の取り巻き達が優からナキを引き離すと、そのままナキを車道に突き飛ばした。

 だがその拍子に優は単眼鏡を手放してしまい、単眼鏡も車道の方に放り出されてナキの近くまで転がっていく。


『いったぁ……、あっ! じいちゃんのタンガンキョウ!』


 自分の近くに祖父の単眼鏡が転がっている事に気付いたナキは、再び優の手に渡る前に回収しようと手を伸ばした時、すぐ近くからクラシック音が聞こえて来た。

 ナキが今いる場所は車道、当然車も通る。

 ナキのすぐ近くまで車が迫っていたのだ。


『えっ?』


 あまりにも突然の事に、ナキはその場で硬直しすぐに逃げ出せなかった。

 走ってくる車がナキに接触しようとしたその時、突然現れた人影がナキを抱え車道から歩道に飛び込んだ。


 車は単眼鏡を粉々に引いて大きくスリップし、近くの電柱にぶつかった。

 その光景を目の当たりにしたナキは、誰かに抱えられている事に気付き顔を上げると、自分を助けてくれたのが祖父である事に気付いた。


『ナキ、ナキ、大丈夫か⁉』


『じい、ちゃん……?』


 祖父はナキを下ろすとどこか怪我してないかを確認した。

 何もかもが突然の事過ぎて、祖父の質問にまともに答える事が出来ずそのまま放心状態だった。


『うわぁーん、ぼくのボウエンキョウこわれちゃったーっ!』


『おいサイノウナシ、なんてことしてくれたんだよ! 優クンがないちゃっただろう!』


『ほんとうにさいていね! 優クンにあやまりなさい!』


『馬鹿もぉん! 謝るのはお前達の方じゃ!

 お前達は自分が人一人を殺そうとしたんじゃぞ、それがどういう事かわからんのか⁉』


 自分達の方が被害者だと言わんばかりに主張する優達に対し、祖父はナキが優達が原因で死にかけたのだと怒鳴り散らした。

 それを聞いたナキはそこで始めて自分が車に轢かれて死にかけた事を自覚し、あまりのショックでそのまま気絶してしまった。



*****



「う、うぅ……。い、てぇ……。ここは?」


 車に轢かれて死にかけた時の夢から覚めたナキが真っ先に感じたのは、腹部から来る強烈な痛みだった。

 ナキは腹部を押さえ起き上がりながら、自分の身に何が起きたのかを少しずつ思い出し始めた。


「(確か、岩に近付いたらケイコクオンが聞こえて、それで拾った石を投げたらヤドカリみたいなのが出て来て……)

 思い出した、にげようとしたシュンカンに体当たりされたんだ……。

 そのせいであんなイヤな事ユメで見る羽目になるなんて、マジさいあくだ……」


 少しずつ思い出していく内に、ナキはヤドカリに似た生き物に体当たりをされた事を思い出した。

 ヤドカリに似た生き物が近くにいないか周囲を確認すると、今いる場所がヤドカリに似た生き物と遭遇した場所とは別だという事に気が付いた。


(体当たりされた時にふっとばされたのか。そりゃあイシキもふっとぶわな……)


 ヤドカリに似た生き物の体当たりを受けた衝撃で遠くの方に吹っ飛ばされた事に気付いたナキは、腹部から伝わる痛みに耐えながら立ち上がり、移動し始めた。

 空を見上げると茜色に染まっていた。

 意識を失っている内に時間が経過し、夕暮れになっていた。


三重時みえどき近く経ってそうだな、どこか安全な所を探さないと」


 このままでは危険だと判断したナキは、身の安全を最優先に動く事にした。

 移動している中、頭にも僅かに痛みを感じたため、思わず頭を押さえた。


「……っ! ふっとばされた時に、頭ぶつけたかも……」


 そう自覚してからは頭の痛みを強く感じ始めた。


(なるべく早く、身の安全をカクホできるところを探さないと……)


 吹っ飛んだ際に頭をぶつけた事で、脳震盪のうしんとうを起こした可能性を危惧し、一刻いっこくも早く安全を確保し安静に出来る場所を探す必要があった。

 本当はすぐにでも横になって安静にしたいが、大海の森にいる以上安全を確保する必要があった。


(火、を起こそうにもちょっとよゆうがないな。一か八か、マホウを発動させて助けを呼ぶか?)


 一か八か魔法を発動させ、自分の居場所を伝えようかと考えたナキだったが、ケイドロ終了後に自分がクルークハイト達に八つ当たりをしてしまった時の事を思い出した。

 仮に魔法を発動させる事ができて、居場所を伝える事が出来ても助けが来ないかもしれないと思った。


(そうだ、セイレイの事で逆ギレして飛び出したんだ。

 居場所を伝えたとしても、元いた世界みたくそのままムシされる可能性の方が高い……)


 ナキがそう思ったのには理由があった。

 ナキがまだ五歳だった時、幼稚園に通っていた際に自分の不注意で花瓶を割ってしまった事があった。

 優ではなく自分がやらかしたため、その時は素直に謝罪をした。


 だが花瓶が割れたその場に運悪く優も居合わせていたため、優が怪我をしたらどうするんだと周りから理不尽に怒鳴り散らされた。

 それから一人で割れた花瓶の片付けをした後、道具を倉庫に片付けている最中に扉を施錠されてしまい閉じ込められたのだ。


 外から話し声が聞こえて来たため、幸いと思い扉を叩き大声で助けを求めた。

 だが、激しく自分がいる事を主張していたにも関わらず、扉が開くどころか誰かが来る気配もなかった。


(あの時、カビンをわった事を根に持たれて、意図的に助け出されなかったんだよな……)


 その後も扉を叩いても誰も助けてはくれず、結局迎えに来てくれた亡き祖父が駆け付けるまで倉庫からは出られなかったのだ。

 それ以降、たった一度のミスで無視されるという認識がナキの中に根付いたのだ。


(どう助けを求めれば良いかなんて、全然分かんねぇよ……)


 幼い頃から受けてきた仕打ちの数々により、助けを求める方法が分からないナキ。

 そうやって考えている内に、視界がぼやけ始めた。


「ヤバい、ちょっとクラクラしてきたかも……」


 やはり脳震盪を起こしていたのか、段々意識が遠のき始めたナキ。

 身を隠せる安全な場所を探したくても、これ以上動く事が出来ない。

 ナキはその場に膝をつき、仰向けに寝そべった。


(完全にハンダンミスったな、キケンなのはショウチの上であの場にとどまるべきだった)


 身の安全を優先するあまり、自分の状態をちゃんと確認せずに動いた事を後悔するナキ。

 だが、今更後悔してもどうしようもない。


(こうやって体調不良で動けなくて、周りに助けてもらえなかったのはあの最悪な七歳の誕生日以来、だな……。

 あの時はまだじいちゃんが元気だったからすぐ病院に連れて行ってもらえたけど、今回ばかり助からないかもしれないな)


 誰かに助けを求める事が出来ない以上、最悪死ぬだろうと考えた。

 意識が遠のいていく中でふと思い浮かんだのは、大海の森に追放した元同級生とディオル王国国王、信託を下ろした月の至高神しこうしん、そして全ての元凶である優の存在だった。


 同じように異世界に召喚されたにも関わらず、適性がないとはいえ自分だけおざなりな対応をされ、無実の罪をでっち上げられて追放されたのだ。

 元いた世界に変えれなくなった点に関しては同じだが、優と元同級生達は手厚く歓迎されていた。


 自分だけが酷い目に遭っているという理不尽な状況を思い出したナキは、優達への憎しみは決して失う事はなかった。

 理由はどうあれ、優のせいで祖父以外に頼れる人物を作る事が出来ず、ナンドも命の危険に晒されてきたのだ。


「アイツら、もし俺が死んだら化けて出て、孫の代までたたってや……る……」


 その言葉を最後に、ナキの意識は途切れた。



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