第24話 怪奇現象の正体
各仕事の手伝いを終え、
だが、その表情はやりきった感のある物ではなく、納得がいかないという不機嫌な表情だった。
目付きが悪いのも相まってその表情は周りを威圧するには十分すぎる物であり、そんなナキの様子を見たアネーロは、クルークハイトに声を掛けた。
「なぁ、ナキの奴なんであからさまに不機嫌なんだ?」
「いやぁその、傷薬作りでちょっとね……」
「もしかして上手くいかなかったとか?」
「上手くいかなかった訳じゃないんだけどそのぉ、なんて言ったら良いのかな~?」
クルークハイトは調合小屋での出来事をどのようにして説明するべきなのか悩んでいた。
ナキが不機嫌な原因は、調合小屋で起きた自分が作った傷薬のみ変色するという現象にあった。
最後は通常の傷薬を作る事が出来たのだが、最初に作り始めた時は何故かピンク色になるという現象が起きたのだ。
恐らく自分に原因があるのではないかと思ったが、結局根本的な原因は分からずじまいになってしまったのだ。
それだけでなく、部屋の外に出られるようになってからナキの周りでは不自然な事ばかり起きているのだ。
(可笑しい、色々と可笑しすぎる。
制限されてるとはいえ外に出られるようになってから訳の分からない事が起きている、傷薬に至ってはさいごで成功するし、なんかなっとく出来ない……)
ナキは傷薬の件についてかなり引きずっており、自分の何が原因だったのか全く分からず不完全燃焼の状態だったのだ。
ナキが自分の周りで起きている事について考え込んでいると、食事を配膳していたローロがナキに声を掛けてきた。
「ナキ、なんでそんな顔してるのよ?
折角のキレイな顔が鬼の形相になってて崩壊してるわよ?」
「え? 俺そんなにひどい顔してたか?」
「酷い顔と言うより、怖い顔になってたぞ。
見ろよ、イーサン達が凄く声を掛けずらそうな表情してる」
そう言うとクルークハイトは視線でイーサン達がいる方を指した。
ナキも視線でイーサン達の様子を確認すると、クルークハイトが言った通りナキの方を見て困惑した様子のイーサン達の姿が見られた。
「あ~、ワリィ。色々考え込んでた」
「まぁ気持ちは分からないでもないけど、昼食の時くらい考え事はしなくて良いと思うぞ?
考えすぎて味が分からなくなったらもったいないし」
「そうそう、お昼ご飯くらい楽しまなくっちゃ! ハイこれ、ナキの分よ!」
そう言いながらローロは配膳していた食事をナキに手渡した。
ナキに手渡されたのは、村で収穫された
大海の森の中ではパスタ類はそう簡単に作れる物ではないのだろうが、金糸瓜がパスタとしての役割を担っているようだ。
「へぇ~、金糸瓜でパスタを作るなんて、結構しゃれ込んでるな」
「ふっふ~ん、そうでしょう? 大きな街とかじゃなくてもオシャレな料理は出来るのよ!」
「スープもあるから沢山食べてね~」
「ありがとうアミ」
ナキは金糸瓜を使ったパスタを目の当たりにして、思わず関心の声を上げた。
そんなナキの反応に対し、ローロは自慢げに話した。
ローロと同じように料理を配膳していたアミも、配膳していたスープをクルークハイトに渡した。
ナキは野菜パスタを食べながら広場を観察すると、村人の大半が広場に集まっている事に気が付いた。
「メシって、いつもここに集まって食べるのか?」
「うん、この村の人数はせいぜい百人くらいだからな、昼とかは大体集まって食べるのが当たり前かな?
全員集合って訳にはいかないけど、一人で食べるとしたら自宅で朝と夜の時だけだよ」
「きほんは一人じゃ食べないんだな……」
基本的に昼食は集まって食べると知ったナキは、小学校に通っていた頃、優のせいで給食の時間や理科の実験といった団体行動が出来なかったため、現在の状況があまり信じられなかった。
ふとこちらに来てからは、食事の際は常にアリョーシャがいた事を思い出した。
(そういえば、
祖父ちゃんが死んでからはずっと一人でメシ食ってたし……)
おそらくは定期的に自分を見張るために食事を共にしていたのだろうと思ったが、一人で食べていた頃よりも味気のある食事だった気がした。
ディオール王国に向かっている時もそうだったが、一人で食べる食事はどうしても物足りなさを感じていた。
そんな事を考えながら食事を食べていると、朝に広場に集まったメンバーで午後からどうするか話し合いが始まった。
「それじゃあ午後からどうする?」
「一応午後からは手伝う事はないから、今朝言ったように遊ぼうぜ!」
午前の内に手伝う事が終わったため、ようやく遊ぶ事ができると喜ぶルオに対し、ナキを含めた子供全員が何言ってるんだという表情をしていた。
自分達より年上のルオが自分達より年下のような発言をした事で、かなり呆れた反応になったようだ。
ルオに至っては何故ナキ達が自分を見ながら呆れた反応をしたのか、理解していなかった。
「とりあえずルオさんの発言は置いといて、何して遊ぶ?」
「そうだな、かくれんぼとかはどう?」
「それだとルオさんに有利になっちゃうよ、だってセイレイが沢山いるんだもん!」
「チビ達は探すの好きだからな〜。
いざかくれんぼ始めたら速攻でかたがつくんだよ」
「かくれんぼとして成立してねぇよ!
っていうかセイレイに見つけさせる気まんまんじゃねぇか⁉」
かくれんぼになると周囲にいる精霊達が
そんなルオにしか有利にならない遊びをしても、遊びとしては成り立たないしつまらない。
そのため
次に提案されたのは、定番の鬼ごっこだ。
「やっぱり鬼ごっこが妥当だね」
「でもここ最近オニゴッコばっかりでつまんないよ」
「そうは言っても仕方ないだろう?
他の遊びにしたら精霊達がルオさんに有利になるよう動いちゃうんだから」
「ルオさん、遊んでいる間だけでも精霊さん達を大人しくさせられないかなぁ?」
「そうは言ってもなぁ、チビ達も参加したいらしいんだよなぁ」
鬼ごっこは精霊達が見守るだけのようで問題はないようだ。
そのせいで大抵の遊びは鬼ごっこに集中しているらしく遊び飽きているようだ。
だからといって他の遊びにすれば、精霊達がルオのためにと動いてしまうらしい。
アミが他の遊びをしている間だけでも精霊達を大人しくさせる事はできるかとルオに訪ねたところ、どうやら精霊達も参加したいらしく、大人しくさせるのは難しいようだ。
クルークハイト達の話を聞いていたナキは、少し考えてからある事を提案した。
「それなら、ケイドロって遊びはどうだ?」
「「「ケイドロ?」」」
「って何?」
ナキからケイドロを提案されたクルークハイト達は、聞き覚えがなかったらしく揃って首を傾げた。
ケイドロを知らない様子を確認したナキは、わかりやすいように説明を始めた。
「ケイドロっていうのは、二つのグループに分かれてあそぶオニゴッコだ。
あらかじめ指定した場所を牢屋として設定して、追いかける側がケイラタイ、にげる側がドロボウになるんだ。
ドロボウが一定時間にげ回って、ケイラタイがそれを追いかける。
ケイラタイがドロボウを五
「それだとドロボウが全員つかまったらすぐ終わっちゃうんじゃない?」
「そこに関しては問題ねぇよ。
まだつかまっていないドロボウ側が捕まったヤツをタッチすればにげられる」
「つまり、警邏隊は時間以内に泥棒を全員捕まえれば勝ち。
逆に泥棒は誰か一人でも逃げ切れば勝ち、って事だな」
ナキは異世界での言葉を混ぜながら、ケイドロについて説明をした。
そしてナキの説明を聞いたクルークハイト達の話を聞いていたナキは、ケイドロに興味を示した。
「オニゴッコの上位互換って事ね! 面白そう!」
「二組に分かれて追いかけたり捕まえたりって、なんか新鮮だな」
「うん、楽しそう」
「それじゃあ今日はケイドロに決定だな。
組分けはどうする?」
「えーっと、一、二、三、四……、ルオさんとティアさんも入れたら十一人になるよ?」
ケイドロに興味を示したクルークハイト達は、ケイドロをする気満々のようだ。
そこで問題になったのは組分けだ。
広場にいるのは全部で十一人、奇数の人数である。
そのため、
何か解決方法はないかと考えていると、様子を見ていたナキが少し呆れた様子で再びある提案を出した。
「それなら、ケイラタイの人数をへらして、ドロボウの人数をふやせば良いだろう?」
「つまり、どういう事?」
「警邏隊の人数を四、五人にして、泥棒の人数を七、八人に振り分けてバランスを取るんだよ。
そうすればゲームがすぐに終わる事もないだろう?」
「それならすぐに終わる心配はなさそうね。
それなら牢屋はこの李の木にしましょう、丁度村中から見れる位置にあるから良いんじゃないかしら?」
ナキの意図を理解したティアは、牢屋として樹と花の精霊が生やした李の木を指定した。
ティアが言った通り、李の木は村中から見れる位置に生えていた。
それに関しては誰も異議を唱えなかったため、すんなりと決まった。
そして肝心のチーム分けだが泥棒側がアネーロ、クライム、レーヴォチカ、ルオ、シャーロット、イーサン、ローロの八人。
警邏隊はナキ、クルークハイト、アミ、ティアの四人の組み分けになった。
そして昼食の時間が終わり、樹と花の精霊が育てた
「それじゃあ制限時間は五刻み間、審判はプルプルがしてくれる事になったわ」
「ミュミュウ!」
「待て待て待て待てっ! ちょっと待てっ!」
ケイドロを行う際の審判として、どういう訳かティアの腕の中にいるスライムが担当すると知ったナキは思わず声を上げた。
「なんでスライム⁉ っていうか今までどこにいた⁉」
「プルプルは僕たちよりもちっちゃい子達のお世話担当だよ。
今日は仕事がひとだんらくしたから、お母さん達の手も空いてプルプルも自由時間が出来たんだって」
「ちなみにプルプルは私の使い魔なの。今日はよろしくね、プルプル」
「ミュウミュウ!」
保護される前までの間、野生のスライムにしか遭遇した事がなかったため、従魔としてのスライムがいると思っていなかったナキはかなり困惑していた。
村の年少の子供達の世話をしているというティアの従魔、プルプルは任せておけという感じで鳴き声を上げた。
少々不安は残るが、クルークハイト達の反応を見るに問題はなさそうなので、そのままケイドロを行う事になった。
警邏隊側が李の木の近くに立ち、泥棒側がその手前に立って逃げる準備に入った。
『ケイドロにおけるルールのおさらい。
① 参加人数は三人以上とし、オニ役は警邏隊、トウボウシャ役は泥棒とする。
② あらかじめ牢屋としての役割を担う場所を決めておく。
③ 行動範囲は村の中、村の外に行く事は禁止。また、畑や建物の中に入るのも禁止とする。
※ただし物陰に隠れるなどは問題なし。
④ 制限時間は五刻みとする。
⑤ 警邏隊が十音間数えている間に泥棒はその場から逃げる。
⑥ 泥棒が警邏隊に五音間タッチされた場合は逮捕され牢屋で待機、泥棒は味方が捕まった場合は牢屋まで向かい、味方にタッチする事で捕まった味方を逃がす事が可能となる。
⑦ 制限時間以内に泥棒を全員捕まえれば警邏隊の勝ち、逆に一人でも逃げ切る事が出来れば泥棒の勝ちとする。
⑧ 精霊に力を借りたら不公平になるため、精霊の協力を得るのは禁止とする。
※特にルオは厳重注意。これ重要』
「ビックリするくらい説明がわかりやすいな!
っていうか最後の注意事項で名指しされるってどれだけやらかしたんだ
わかりやすすぎるプルプルによるケイドロの説明に、ナキはたまらずツッコミを入れた。
特にルオが注意事項に名指しで出て来たため、どれだけやらかした前歴があるのかに対してもツッコまざるを得なかった。
「まぁまぁ、細かい所は気にすんなよ。ってな訳だから今回は全員見学しててくれ」
ルオは周囲にいる精霊達に見学してくれと頼んでいたが、精霊達が不満を覚えたのか少々困った表情をしていた。
それから少しして、プルプルが警邏隊側と泥棒側の間に居座る。
「ミュウミュウ、ミュウミュミュウ!」
「全員位置に着いたのを確認したから、合図したら私達は十音間数えてから動いてねだって」
(ジュウマケイヤクしたらイシソツウが出来るようになるのか。
それ以前に本当にシンパンやるんだな……)
「ミュミュウ、ミューミュウ、ミュイ!」
プルプルは体の一部を伸ばして、それを腕のように扱いケイドロ開始を告げた。
それと同時に泥棒側は一斉に村中に散っていった。
「え、今のが合図? 今のが合図なのか⁈ っていうか本当にコイツがシンパンするのか⁈」
「落ち着けよナキ、もうケイドロは始まってるんだぞ?!」
「いや確かにそうだけど、そうなんだけど、色々ツッコミどころが多すぎるんだよ!」
プルプルがケイドロ開始を告げた事で始まったものの、ナキとしては気になる所が多すぎで既にそれどころではなくなっていた。
ナキがそれどころではなくなっている中、アミがしっかりと拍数を数えていた。
「九、十! 十拍経ったから、逃げた皆を追いかけられるよ?」
「それじゃあ全員バラけて捕まえに行きましょう。
泥棒チームは皆バラけて逃げたみたいだから、全員で一箇所を探すよりかは良いわ」
「(もはやスライムがシンパンするのは当たり前なのか⁉)
いや、全員この場をはなれたらつかまえたヤツににげられるのがオチだ。
最低でも一人はのこしておかないとこっちが負ける」
「なるほど、一理あるな。誰が残る?」
「それじゃあ私が見張りで残るわ、捕まえる方はお願いしても良い?」
李の木にはティアが一人で残る事になり、ナキ、クルークハイト、アミの三人が泥棒側のメンバーを捕まえる事になった。
クルークハイトは畑方面、アミが民家方面を探しに行き、ナキは解体小屋方面に向かった。
(ルールの都合上、小屋の中には入れない。その代わりにモノカゲにかくれる事は出来る、あそこは確か木箱とか外にも置いてたから、かくれるには打って付けだ)
ナキは今日訪れた場所の特徴を思い出し、逃げた泥棒側のメンバーがかくれられそうな場所を探す事にした。
解体小屋に着くと、周囲には後片付けをしている獣人の大人達の姿があった。
(ひとまず大人達が持ってる物は除外、地面に置いてある物とかべぎわに置かれてる物を重点的に調べよう)
ナキは除外する物、調べる物をすぐに決めて物陰を調べ始めた。
解体小屋から離れている木箱の方には誰の姿もなかったため、次に解体小屋周囲を調べ始める。
すると裏の方に置かれていた木箱の山の一部が微妙にずれている事に気付き、なるべく物音を立てないように近付き、木箱の山を確認した。
ふと木箱の山に僅かな隙間が出来ているため、その隙間から中心部分を覗き込むと、レーヴォチカの姿があった。
どうやら木箱の一部をどかして、木箱の山の中に隠れたようだ。
レーヴォチカを見つけたナキは、隙間とは反対の方向に回り靴を脱いで木箱の山に登ると、天辺部分の木箱を音を立てず異常な程ゆっくり動かす。
手が入るくらいの隙間が空いたのを確認すると、ナキはレーヴォチカの頭目掛け、一気に手を伸ばし鷲掴みにした。
「うわぁっ! 何? 何ぃ⁉」
「一、二、三、四、五! 良しタイホだ!」
レーヴォチカの頭を鷲掴みにし、五拍間数え斬ったナキは見事レーヴォチカを捕まえる事に成功した。
捕まった事よりも頭を鷲掴みにされた事に対して驚いたレーヴォチカは、捕まったとわかり木箱の山の中から出て来た。
「ひどいよ、いきなり頭をわしづかみにするなんて!」
「センリャクテキ作戦だよ、バーカ。さっさと
靴をはき直したナキは、捕まえたレーヴォチカを連れて一旦広場に戻る事にした。
広場に戻ると、既にローロとシャーロットの二人が李の木の下におり、その近くでクルークハイトに追いかけられているルオの姿があった。
ティアがクルークハイトとルオの攻防を見守りながら周囲を警戒していたが、その背後からアネーロがゆっくりと近付いていた。
その事に気が付いたナキは、大声でティアにアネーロの存在を知らせた。
「後ろからアネーロが近付いてるぞーっ!」
「いけない、それっ!」
「うわっ! 危ない!」
ナキのおかげでアネーロの存在に気づけたティアだったが、すんでの所で距離を取られたため捕まえる事は出来なかった。
ティアに見つかったアネーロはその場からすぐに逃げ出し、それを見たナキはレーヴォチカをティアに預けるとアネーロの追跡を開始した。
(このままじゃ追いつけない、何か方法を考えないと!)
「あれ? ナキ君!」
アネーロを追いかけていると、途中でアミと合流した。
ナキは走りながらアミに話しかけた。
「アミだったか? お前ここで何やってるんだ!?」
「クライムくんを追いかけてたんだけど途中で見失っちゃったの。
見かけてない?」
「いや、見てないぞ。でもちょうど良かった。
今アネーロを追いかけてるところなんだ、悪いけど捕まえるの手伝ってくれないか?
俺が追いかけてあの家の方に追いつめるから、アミは反対側に回りこんでつかまえてほしい」
「わかった、任せて!」
ナキはアミの協力の下、アネーロを追い詰めて捕まえる作戦を考えた。
アミはナキに指定された民家に向かい、ナキは再度アネーロを追いかけ始めた。
「待ちやがれーっ!」
「待てと言われて待つ泥棒はいないぞ!」
追われながらもそう答えるアネーロは、余裕そうに走って逃げる。
魔法が使えない事で
(身体ノウリョクの差で追いつけない!
マホウを使わずに追いつく方法は……、アレだ!)
ナキは何かないかと周りを確認し、近くにあるロープと持ち手の短い熊手を見つけた。
ナキはすぐさまその二つを回収すると、大急ぎで二つの道具を組み合わせ、即席の鉤爪ロープを作り上げた。
そしてアネーロの進行経路を確認すると、近くの木によじ登りアネーロの進行経路先にある木の上部分の枝目掛けて鉤爪ロープを投げた。
鉤爪が引っかかったのを確認すると、持ち手となるロープの長さを調整し、そのまま木から飛び降りると、木の枝に引っかかった鉤爪ロープの反動を利用し、アネーロがいる方向へ移動した。
アネーロの頭上を通り過ぎたのを確認すると、ナキはロープを手放してそのまま勢いよくアネーロの前に着地した。
「そんなのアリかよ⁉」
予想外の方法で先回りしたナキに驚いたアネーロは、ナキが予定していた民家の方向に進路変更して逃げようとしたが、そこに先回りしていたアミが飛び出した。
慌てて逃げようとサイド方向転換したが、その先には追いかけ的なナキが待ち受けていた。
その場で立ち往生している内に背後からアミが近付いてアネーロに触れた。
「一、二、三、四、五! やった、捕まえた!」
「あ~、しまったぁ」
「大体三刻み経過したころだな、この辺りにダレかかくれてないか俺が探すから、コイツの連行頼むぞ!」
「お願いねぇ~」
捕まえたアネーロの連行をアミに任せると、ナキは民家の物陰を確認し始めた。
一つ一つ見逃さず、けれども急いで探すが特にダレも見つけられない。
現在いる位置から李の木に誰がいるかを確認すると、クライム以外の泥棒側のメンバーが集まっているのが分かった。
(のこるはあと一人、アミが見失ったのは確か、クライムって奴だったか?
民家の方から他の場所に移動したなら、ティアさんやクルークハイトが気付くはずなのに見つかってない。
そうなるとどこかにかくれてるはず、でも何処に……?)
クライムがまだ民家のどこかに隠れていると考えたナキは、もう一度民家の方を見回すが、探した場所以外では何処にも隠れられそうにない。
何か見落としていない確認していると、とある民家の壁際に寄せられている木箱の上に足跡のような物を見つけた。
「このあしあと、まだ新しいな……。まさかっ!」
足跡を見たナキは何かに気付き、木箱を伝って民家の上に登り始めた。
そして屋根に上り、そこから周りを確認すると近くの民家の屋根にクライムの姿があったのだ。
「やっべ見つかった!」
「あのやろう! 建物の中にかくれられない代わりに屋根の上にかくれてやがった!」
民家の屋根の上に隠れていたクライムを見つけたナキは、助走を付けてクライムがいる屋根の上に飛び移った。
ナキが追いかけてきたのを見たクライムはすぐさま別の民家に飛び移り逃亡を開始した。
「おいコラ待て! 屋根からおりやがれ!」
「おりたらつかまるだろう!」
そこからはナキとクライムによる屋根伝いの追いかけっこが始まった。
二人は周りの事などお構いなしに屋根伝いに移動し、追いかけ続ける。
村では一番端になる民家までクライムを追い詰めたナキだったが、諦めの悪いクライムは民家から一番自覚に生えている木に飛び移った。
それを見たナキもクライムの後を追って木に飛び移り、追跡を続ける。
ナキに追いつかれそうになったらクライムが別の木に飛び移り、ナキも飛び移るのいたちごっこ状態だ。
木の上で追いかけ合っている二人に気付いたクルークハイト達も心配になり、李の木から離れて地上から追いかけ始めた。
「へっへ~ん、どうだ! ここまで来てみろ!」
「クッソ~、いいかげんにつかまりやが、れっ⁉」
クライムの挑発に乗ったナキは、クライムを捕まえようと腕を伸ばした時だった。
腕を伸ばした弾みで足場にしている枝から踏み外してしまい、そのまま落下してしまったのだ。
ナキが落下した事に気付いたクルークハイト達は急いでナキの元まで走り出し、クライムも手を伸ばすが届かなかった。
(あ、これ、ヤバいかも……)
魔法は使えない、クルークハイト達も間に合わない、おまけに落ちたのはかなり上部で既に地面が近い事からナキはこれは助からないと他人事のように悟った。
半場諦めかけた時、ナキの身に不思議な事が起きた。
体を誰かに支えられるような感覚がし、一気に落下速度が落ちたのだ。
そのまま座り込む形で地面に着地し、結果的にナキは助かった。
一体何が起きたのかと呆然としていると、クルークハイト達がナキに駆け寄ってきた。
「ナキ、大丈夫か⁉」
「大丈夫? 怪我してない? 痛い所ない?」
「木から落ちたの見て心配したぞ⁉」
「ゴメンつかみそこねた!」
「あ、あぁ、俺は無事、だけど落下してる時に誰かに支えられたような……」
クルークハイト達が落下したナキが無事なのがわかり安堵していたが、ナキは自分の身に起きた感覚に困惑していた。
朝から起きている怪奇現象の回数を合わせるとこれで四回目になる。
何故自分の身の回りで怪奇現象が起きるのかと考えていると、ルオが驚くべき事を口にした。
「それにしてもさっきのは本当に危なかったな、お前にくっついてる精霊が助けに入らなかったら頭から落っこちてたぞ⁈」
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