第21話 制限された外へ
シャーロットの誕生日から一日が経ち、水張月の十三刻になった。
盛大に祝われてるシャーロットを見た事で、幼い頃からの自分の境遇を思い出し急激なストレスを受けて寝込んでいたナキは、今は落ち着いていた。
倒れていた所を早めに発見されたため事なきを得たが、目を覚ました時に“特別な人間が優先されるのは当たり前”という歪んだ認識の発言をした事からヴァンダル含めた保護された村の大人達を騒然とさせ、大人達の反応を見たナキ自身も、自分の中に歪んだ常識が存在する事に初めて気が付いた。
(長年れつあくな環境にいたせいで、ぬれぎぬを着せられたり死にかけたり、かなりひどいめに合ってきた。
でもそれだけじゃなく、俺自身ゆがんだじょうしきを持ってた。
おっさんが子持ちの親を集めて話し合いをするほど、俺の特別なヤツに対するにんしきがゆがんでたんだ……)
ナキは元いた世界での環境の影響によって自分の中に歪んだ常識がある事を自覚した途端、どれだけ自分の中の常識が正しいのか、その事が一番の不安だった。
普通の小学生が弓で動物を狩ったり自力で火を起こすというのは流石に普通ではないという事は分る。
『日常では必要ないだろうが、何かあった時は役に立つ。覚えていて損はないだろう』
亡くなった祖父の日常では必要ないと前もって言っていたため、小学生がサバイバル術を使えるというのは普通ではないとちゃんと理解できた。
だからこそ、亡くなった祖父がサバイバル術を含めた護身術を叩き込んでくれたおかげで、ナキは今こうして生き延びる事が出来ているし、やっていい事、やってはいけない事の区別も出来ている。
それでも無自覚に歪んだ常識がナキの中に存在しているため、その事が一番不安だった。
(優たちにふくしゅう出来たとしても、もう元いた世界には帰れないんだ。
その事を考えると、俺の中のじょうしきがどこまでゆがんでいるのちゃんと再かくにんしないと……)
自分の中の常識が何処まで正しく何処まで歪んでいるのか確認する必要があると考えていると、ヴァンダルとフォディオが部屋に入ってきた。
「坊主、調子はどうだ?」
「とくに問題はないよ。それでなんのよう?」
「要件ってのはこれだ」
そう言いながらヴァンダルが差し出したのは、子供用の服だった。
ヴァンダルから子供服を渡されたナキは首をかしげながら不思議そうに見ていると、ヴァンダルと一緒に来たフォディオからある事を言われた。
「今日から外に出てもいいぞ」
「え、外に出られるの⁉」
外に出てもいいと言われたナキは、自由に出歩けるとは思ってもみなかったため驚いていた。
フォディオの言葉にヴァンダルが幾つか補足を足した。
「正確には村の中だけだ。村の外、つまり大海の森に行くのはダメだ」
「なんでさ?」
「お前さんの魔力回路がまだ完全に治った訳じゃねぇからだよ。
そんな状態で大海の森に行ってみろ、たちまち魔物の餌食になるぞ」
まだ魔力回路が治りきっていないとヴァンダルから告げられたナキは、未だに魔法が使えない状態である事に落ち込んだ。
確かにヴァンダルが言った通り、魔法が使えない状況で大海の森に行けばブラッディ・ベアーと鉛色のリザードマンに再び襲われる危険があるのだ。
ブラッディ・ベアーと鉛色のリザードマンと思い浮かべ、連鎖的にある事を思い出した。
「そういえばあのスライム、いまごろどうしてるんだろう?」
「なんだ、スライムがどうかしたのか?」
「いや、こっちの話。それよりもカイチュウドケイはまだ見つからないの?」
「そっちも探してはいるが、ナキが潜伏していた場所や倒れていた付近を探してみたが見つからないんだ」
懐中時計が未だに見つからないと聞いたナキは、顔を俯かせた。
懐中時計意外にも祖父からの誕生日プレゼントはあるが、それらはディオール王国に取り上げられ、元いた世界に置いてきた。
だからこそ祖父からの最後の誕生日プレゼントである懐中時計だけは、どうしても手元に取り戻したのだ。
「とりあえず着替えたらどうだ? 外に出れば多少なりとも気分転換にはなるだろうし」
「まぁ、うん、そうする」
フォディオに促され、ナキは手渡されてた子供服に着替える事にした。
Vネック状の水色のTシャツにグラスグリーンのクロップドパンツと動きやすさを重視した服装だったため、動きやすさを重視しているナキにとってはありがたかった。
「それにしても、なんで今更俺を外に出そうと思ったんだよ?」
「見たところ大分良くなったみたいだからな。これ以上部屋にいても逆に体が鈍るだろう」
「という事は普通に連れ回しても問題ないって事だな?」
ヴァンダルが話をしていると何処からともなくルオが現れた。
恐らく精霊経由で話を聞きつけてきたのだろうが、扉が開く音も窓から何かが入ってくる音も聞こえなかったため、ナキはいきなり現れたルオに驚いた。
「ギャアッ⁉ 何処から出て来た⁉」
「普通に出て来た!」
「そうじゃないだろうルオ」
「おいコラ、お前また精霊の力悪用しやがったな⁈」
いきなり現れたルオの姿を見たヴァンダルは、すぐにルオが精霊に頼んでこっそり入ってきた事を看破した。
精霊の力を悪用したと判断されたルオは、ヴァンダルに注意されてもこれと言って気にする素振りを見せなかった。
「まぁまぁ、そう細かい事は気にするなよおっちゃん。
とりあえずナキはもう外に出しても大丈夫なんだよな?」
「魔法さえ使わせなければな。魔力回路の方がまだ完治していねぇし」
「わかった、じゃあナキは連れてくな。おーいチビ達頼む」
魔法を使わせなければナキを外に出しても問題がないと聞いたルオは、最初の時のように精霊達に頼んでナキを宙に浮かばせた。
「またこのパターンかよ⁉」
「という訳で、早速出かけるぞ~」
「コラ⁉ 待て! 勝手に連れて行くんじゃない!」
ヴァンダルの制止を無視してルオの先導の元、ナキは精霊達によって外に連れ出された。
村の全員が精霊の姿を認識できている訳ではないらしく、精霊に運ばれているナキの姿を目撃した者達の中には、ナキが一人でに空中に浮いているように見えているらしく初めて外にすれ出されたとき以上に悪目立ちしてしまった。
「ちくしょう、なんでこうなるんだ⁉」
「まぁ気にするなって。よーし着いたぞ~」
そう言ってルオが連れてきたのは、最初に連れ出された時に連れてこられた広場だった。
広場には樹と花の精霊が生やした李の木が立派に育っており、横に広がる枝全てに
そして李の木の下ではこの広場で出会ったティアと獣人の子供達が集まっていた。
「おーいお待たせ~」
「あ、ルオさん……って、ナキが宙に浮いてる⁉」
「違うわ、精霊達がナキを運んでいるのよ……」
ルオの呼びかけに反応して自分達の方を向いたレーヴォチカが、精霊に運ばれているナキの姿を見て宙に浮いていると驚いていたが、精霊を認識できるティアが精霊達に運ばれているのだとレーヴォチカに伝えた。
ナキとしてはこのような形で再び外に連れ出されるとは思ってもみなかったため、かなり気が滅入っていた。
「もう少し他に方法はなかったのかよ?」
「いや~チビ達に運んで貰った方が移動するの早いからな、チビ達、広場に着いたからナキを下ろしてやってくれ」
ルオがそう言うと宙に浮いていたナキはそのまま地上に降ろされた。
ナキが地上に降ろされると、李の木から一つの李が自分の方に落ちてきたため、ナキは慌てて落ちてきた李を受け止めた。
「精霊達からの贈り物だ」とルオから伝えられたため、ナキは精霊達の好意に甘え、李を一口囓り、前に食べた時よりも熟していたのか酸味よりも甘みが勝っているように思えた。
「そんじゃあ一昨日忘れてた自己紹介するぞ~。まずは誰から行く?」
「それじゃあ改めて、俺はクルークハイト。見ての通り
最初に名乗りを上げたのは、初めてルオに連れ出された際にキノコ狩りの班にナキを誘ったクルークハイトだ。
子供達のまとめ役なのか、クルークハイトはそのまま隣にいた最年長と思われる同じ狼族の少年に少年の紹介をした。
「こっちにいるのは俺と同じ狼族のアネーロ、俺たちの中では最年長になるな」
「アネーロだ、よろしく」
「僕はレーヴォチカ、見ての通り
クルークハイトに紹介されたアネーロは、刈上げられた焦げ茶色の髪に黒目の外見、最年長という事も相まってナキより身長が高かった。
続いて自己紹介をしたレーヴォチカの手の中には、李がたくさん抱えられていた。
続いて、アネーロの少し前にいた
「私は狐族のアミ、よろしくね」
「私はローロよ!」
アミと名乗った狐族の少女は、青い垂れ目をナキ向けてラベンダー色のセミロングを揺らしながら、おっとりした雰囲気で微笑みかけた。
ローロと名乗ったキャラメル色の三つ編みお下げをした狼族の少女は若竹色のどんぐり目を爛々とさせていた。
このローロという少女は、湖で前髪で隠れたナキの顔を見た際にベタ褒めしていた人物だ。
そのため顔とはいえ自分の事を褒めてくれた人物に対し、ナキはどのように反応して良いのか分からなかった。
「俺はクライム、よろしくな!」
「私はティア・ティンカーベルよ」
「私、シャーロット、よろしく」
「俺はイーサンだ」
クライムは笑顔で答え、ティアは上品な動きで自己紹介を終える。
この中でティア以外の人間であるシャーロットは、茶髪のセミロングを揺らしながら落ち着いた様子で自己紹介をした。
少し眠いのかその茶目は寝ぼけ眼だ。
最後にイーサンと名乗った狼族の少年は、黒髪茶目でアネーロの次に身長が高いのが特徴だ。
「よし、これで全員自己紹介できたな。じゃあ早速遊ぶぞ~」
「その前に村のお手伝いがありますよ?」
子供達が自己紹介を終えたのを確認したルオは、早速ナキ達を連れて遊ぼうとするが、その前に村の手伝いがあるとティアに指摘されたため、その場で崩れ落ちた。
自分よりも年上だというのに仕事よりも遊ぶ事を優先するルオの姿を見たナキは、大の大人が何を考えているんだと呆れた様子でルオを見た。
よく見ると
「お前ら、いつもこんな調子なのか……」
「まぁ、そうだね、うん……」
「それじゃあ気を取り直して、それぞれお手伝いが終わったらまたここに集合ね?」
「「「はーい」」」
村での手伝いが終わり次第、再び広場に集合するという事になったため子供達はそれぞれのグループに分かれて村の手伝いに向かった。
村で何をしているのか知らないナキは、これからどうしようかと悩んでいるとクルークハイトが声をかけてきた。
「俺は今から解体作業の手伝いに行くけど、良かったらナキも一緒に来るか?」
「かいたい作業って、マモノやモウジュウのか?」
「あぁ、解体した肉は村中に配るから、一日一回は解体作業があるんだ」
「一日一回って、そんなにマモノやモウジュウ狩って大丈夫なのか?
毎日してたら、ここら一帯の生き物がいなくなる気がするんだけど……」
毎日かいたい作業をしていると聞いたナキは、村周辺の魔物や猛獣がいなくなって生態系が崩れないかと心配したが、その心配は杞憂に終わる事となった。
「大丈夫だよ。俺達ここに二年前から住んでるけど、魔物や猛獣が減るどころか逆に増える時期もあるくらいだよ」
「ふっ増えるのか、さすがは大海の森……」
魔物や猛獣が減る心配が無いと知ったナキは、大海の森の生態系に驚き顔を引きつらせた。
どちらにしても村についてそれほど詳しくはなかったため、ナキはクルークハイトについて行く事にした。
広場から少し歩いた先に、他の建物よりも一回りくらい大きな小屋に着いた。
小屋の中に入ると、ナキの目に体長三m近くある巨大な鹿のような魔物が逆さまにぶら下がっていた。
「うわっ! でかっ⁉」
「ここは狩ってきた魔物や猛獣を解体する解体小屋だよ。
目の前にぶら下がってるのはソード・ディアっていう、鹿型の魔物なんだ。
ソード・ディアの角は武器にも加工できるし、肉の方も上手いから良く狩ってくるんだよ」
「結構ばんのうなマモノなんだな。これだけでかけりゃ二〇人分以上は取れるんじゃ……?」
小屋の中に逆さまにぶら下がっているソード・ディアを目の当たりにしたナキは、その大きさから鹿の基本的な体重を例えてソード・ディアの体重を計算し、焼き肉の一人前二〇〇gで例えて大体の重量を計算し始めた。
「えっと、オスのエゾジカが大体九〇~一四〇㎏でソード・ディアの体長は三mくらい。
それで三倍で計算して、一人辺り二〇〇gとして四二〇㎏をわったら、大体二一〇〇人分……え、二一〇〇人分?
あれ、どうしてこうなった? どこで計算まちがえた?」
二一〇〇人分という、あまり馴染みがない計算結果が自分の中で出て来たため、ナキは思わずコンラしどの辺りで計算を間違えたのかを考え始めてしまった。
ソード・ディアの肉の量でナキが混乱していると、解体小屋に数人の獣人の大人が入ってきた。
「……入り口で何を突っ立っている?」
獣人の大人の内一人がナキとクルークハイトに声をかけてきたため、混乱していたナキは思わず反応して後ろを振り返ると、そこにはしっかりしたガタイで他の大人の獣人よりも背の高い狼獣人の男が立っていた。
おまけに強面顔と来たため、かなりの迫力があった。
(で、でけぇーっ! きほん獣人はセが高い種族が多いとは聞いてたけど、この人はとりわけでかい!
あと強面なせいかめちゃくちゃ迫力がある!)
話しかけてきた狼族の男を目の当たりにしたナキは、その迫力に圧倒され、思わず狼獣人の男をガン見してしまった。
この村にいる大人の獣人達は、皆人間よりも背が高い事は知っていたが、ナキがガン見している狼獣人の男に至っては周りの大人の獣人達よりも一際背が高いのとガタイも良く、おまけに強面な顔というのも相まってナキは更に混乱した。
「あ、父さん。もう来てたの?」
「え、父さん⁉」
話しかけてきた狼族の男がクルークハイトの父親だと知ったナキは、クルークハイトとクルークハイトの父親を見比べた。
エボニーの髪色とバーガンディー色の髪色、強面な顔と中性的な顔、それだけで全然似ていないためとても親子とは思えず、唯一共通している事と言えば瞳の色がピーコックグリーンである事ぐらいだ。
(ぜ、全然似てねぇ。まるで俺とアイツら(両親)みたいな状況だ……)
「ナキ、俺達はあっちの普通の鹿の解体をするよ」
「あ、あぁ、分かった」
全然似ていない親子のやり取りを見ていたナキだったが、クルークハイトに声をかけられたため我に返り、そのままクルークハイトのあとに着いて解体小屋の奥に進んだ。
クルークハイトが止まった先には、ソード・ディアと同じように逆さまにぶら下がっている普通の鹿の姿があった。
その鹿はナキでも知っている鹿だったため、少しだけ安心した。
ナキはクルークハイトから解体作業用のエプロンを受け取ると、すぐさまエプロンを身につけた。
「よし、それじゃあ早速解体していくぞ」
「まずは足から皮をはいで……、なぁ、キャタツか足場になるような置物ないか?」
「え、背伸びすれば普通に届くぞ?」
「それはお前の身長が高いからだろう!」
背伸びをすれば届くとクルークハイトに言われたナキだったが、すぐさま反論した。
その理由はナキとクルークハイトの身長の差だ。
ナキの身長が一四〇ぐらいであるのに対し、クルークハイトは一五〇辺りある。
一定の種族を除いて基本的に人間以外の種族は皆身長が高い傾向にあるのだ。
そのため一〇㎝も身長に差があるため、クルークハイトと同じように獲物の解体をするのはナキには不可能なのだ。
「兎に角足場になるような物貸してくれ。このままじゃカイタイどころか皮もはぐのも出来ねぇよ」
「それならこの箱使いなよ、大きさ的に丁度いいだろうし」
そう言ってクルークハイトが持ってきたのは、高さ五〇㎝×横幅七〇㎝の木箱だ。
これだけの高さと横幅があれば、ナキでも問題なく解体作業に使えると考えたのだろう。
クルークハイトから木箱を受け取ったナキは、逆さまにぶら下がっている鹿の近くまで運ぶと、木箱の上に乗ってかいたい作業を始めた。
「それじゃああらためて、まずは切れ目を入れて……」
ナキは鹿の足首に切れ目を入れ、そこから内側に体の中心まで切れ目を入れていく。
そこまで行くと皮を引っ張りながら、軽くナイフを当てて剥がそうとするが、腕力の問題なのか、中々上手く切る事が出来ない。
「う、上手く切れない……」
「焦らなくても大丈夫だよ、皮を引っ張りながら皮と肉のつなぎ目を切ったら剥ぎやすいぞ」
クルークハイトから助言されたナキは、助言された通りに鹿の皮を引っ張りながら、肉と皮のつなぎ目にナイフを入れて剥いでいく。
クルークハイトも反対側に回り、ナキが剥いでいる方とは逆の鹿の足に切れ目を入れて、鹿の皮を剥いでいく。
そしてモモ、腰辺りまで皮を剥ぐ事が出来たのを確認すると、ナキは鹿の皮を掴んで一気に肩まで皮を剥いだ。
その際に木箱から飛び降りてその勢いを利用したため、ナキの行動を見ていたクルークハイトは少々驚いていた。
「びっくりした、意外と大胆な行動するんだな」
「シカは皮下シボウがすくないから、手でもかんたんにはぐ事ができるからな。
いつもは鳥をカイタイして食べてたけど、シカのカイタイは本当に久々だな……」
ナキが鹿を解体した事があるのは、亡くなった祖父が健在だった時だ。
その時は祖父の狩猟に同行しており、幼い自分の目の前で鹿を仕留めらる様子を見せられた時は、思わず泣き出してしまった。
下手すればトラウマ物なのだが、祖父に解体の技術を叩き込まれたため、トラウマを通り越してナキの中では常識と化していた。
「こんな形で祖父ちゃんから教わった事が役に立つとは……」
「ナキはおじいさんから解体のやり方を教わったのか?」
「まぁ、一応はな……」
クルークハイトに解体の技術を教わった経緯を尋ねられたナキは、素っ気なく答えた。
あまり人と関わってこなかったため、相手からの質問に対する受け答えの仕方が分からず、素っ気なく答えるしかなかった。
そして鹿の前足の皮を剥ぎ終えると、次は頭を落とす作業になった。
ナキは頭と首を繋ぐ関節の位置を確認すると、首回りの肉を切り始めた。
鹿の肉は冷たくなっており、かなり弾力があったため子供の腕力では中々作業が進まない。
試しに
ナキ一人では効率が悪いと考えたクルークハイトも、反対側から首回りの肉を切り始め、少しずつ作業を進めていく。
頭を落とす作業を始めて一〇刻み以上が経過して、ようやく鹿の頭を落とす事が出来た。
「ふぅ、ようやく頭を落とせた……」
「ふつう子供だけなら三〇刻み以上かかるはずなのに、やっぱり獣人はワンリョクも高いんだな」
「それを言うならナキだって十分凄いよ。
少し手こずってはいたけど、手際よく鹿の皮を剥いでたじゃないか。
それに関節の位置もちゃんと分かってたし」
「そりゃあまぁ、その、あれだ、一回慣れればダレでも出来る!」
クルークハイトに皮剥の手際の良さを褒められたナキは、やはり湖での一見同様、他人に褒められ慣れてないという事で顔を赤くして照れていた。
剥いだ鹿の川と頭が入った入れ物を決められていた場所に置き、オオバラシち呼ばれる作業に入ろうとした時、それは起こった。
「あれ、シカのニクカイが消えてる⁉」
先程まで解体小屋の天井からぶら下がっていた筈の肉塊と化した鹿が、何の前触れもなく消えていたのだ。
クルークハイトもナキと同じように、鹿の肉塊が消えた事に驚いていた。
鹿の肉塊はどこへ消えたのかと探していると、クルークハイトが何かに気付いた。
「あれ? あそこに置いてあるのって……」
クルークハイトの視線は、鹿の肉塊がぶら下がっていた場所の近くにある作業台を見て困惑していた。
つられてナキも作業台を確認すると、作業台の上には一定の大きさに仕分けされた肉が並べられていた。
疑問に思ったナキとクルークハイトは、作業台に近付いて並べられている肉を確認した。
作業台の上に並べられている肉を調べた結果、それは鹿肉である事が判明した。
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