第20話 苦しい思い出

 精霊に愛される愛し子、狼族のルオによって外に連れ出された事で精霊の存在を知ったナキ。

 そしてその精霊達によってブラッディ・ベアーに着けられた左前頭部の傷が完全に治っていた。

 精霊の存在を知った次の刻、ナキはフゥ族の薬師の娘の診察を受けていた。


「傷は完全に塞がっているし、傷跡も残ってない。

 だけど顔のクマは残ってるから、もう少し安静にしていた方が良いかもね」


「やっぱりマナカイロのほうがまだ治ってないのか…」


 顔のクマが残っている事から、まだ魔力回路が直りきっていないと判断したナキは、目に見えて落ち込んでいた。

 花の精霊と呼ばれる精霊達に左前頭部の傷を治してもらい、問題なく動けるようになったのに魔法だけが使えないという状況はやはり思わしくない状況だった。


 魔力回路が直らない限り、魔法が使えなければディオール王国に向かう事も出来ない。

 何より無くした懐中時計を探しに行く事も出来ない。

 その事を考えるとどうしても不都合にしかならない。


「はぁ、いつになったらまほうが使えるようになるんだよ…」


「諦めろ坊主、どっちにしてもお前には前科が着いた」


「ほかにマシな言い方はねぇのかよ…」


「まぁ、ルオに連れ出されたとはいえ勝手に外に出た事に変わりないからな」


 先刻せんこく、愛し子であるルオと精霊達によって外に連れ出された事により、ヴァンダルの警戒心が跳ね上がってしまった。

 その結果、左前頭部の傷が治ってもナキは自由に外に出られないままだった。


「とりあえずちょっくら湖の方にいってくる。

 広場にプラムの果樹を生やすだけならまだしもなんで湖付近にヤマドリタケの群生地帯を作るんだ全く…」


 ヴァンダルは先刻精霊達が湖の畔付近に作ってしまったヤマドリタケの群生地帯をなんとかするべく、ブツクサと文句を言いながら部屋から出て行った。

 不満げなヴァンダルの様子を見たナキは、ルオが日頃からどれだけ精霊を使ってやらかしているのかと疑問に思ったが、考えるだけ無駄な気がした。


 かなり自分勝手さはあるが、ナキの顔を見て褒めたり湖に落ちた際はティアやキャラメル色の三つ編みお下げのロウ族の少女の助言の元、精霊達に指示を出して濡れたナキの体を乾かしたり、左前頭部の傷を治したり、ジャイアント・ボアに追われた際は助けてくれたりもしたため、根は悪い訳ではない野は確か。


 何よりナキを勝手に連れ出した際にはクルークハイト達から注意されている事から、優のように周りから過激に好かれているという訳ではないようだ。

 ルオが優のような状態でないと分っただけでもナキにとってはありがたかった。

 不意に木の窓の方を見ると、外では大人数で何やら作業を行っているようだった。


「なんか外がさわがしいけど、今日ってなんかあるのか?」


「あぁ、今日は誕生日パーティがあるのよ」


「誕生日、パーティ? 今日はダレかのたんじょうびなのか…」


 フゥ族の薬師の娘から、今日は誕生日パーティがあると聞かされたナキは、大人数で動く程外が騒がしい理由が誕生日会の準備のためだと知り納得した。

 かなりの大人数で準備をしている辺り、かなり特別な誰かの誕生日だという事が分かり、それを知ったナキは顔を俯かせた。


 誕生日はいつも優だけが盛大に祝われ、ナキだけが除け者にされた。

 一度度して亡くなった祖父以外から祝われる事がなかったナキにとって、誰かの誕生日を素直に祝う事はとても難しい事だった。

 出来れば盛大に祝うよりも、普通に祝って欲しいという思いの方が強かった。


「誕生日を祝うヒマがあったら、俺のカイチュウドケイを探してくれよ…」


「何言ってるの? 誕生日は年に一度しかないんだから、ちゃんとお祝いしなくちゃ」


「それ自体が俺にとっていやがらせになってるんだよ…」


 狐族の薬師の娘はちゃんと誕生日は祝うべきだと言うが、誕生日を祝われた経験が無いナキからすれば自分のすぐ近くで盛大に誕生日パーティが行われる事自体が嫌がらせのようになっているため、良い気分ではなかった。

 ナキからすれば、自分がいるのに何故誕生日パーティを祝おうと思ったのかが理解できなかった。


「それじゃあ私達も手伝いに向かうから、大人しくしているのよ?」


「また昼頃に食事を持ってくるから、部屋から出ないようにな」


 ナキの診察を終えた狐族の薬師の娘とフォディオは部屋を出て行くと、誕生日パーティの準備に向かった。

 二人が部屋を出て行くのを見届けると、ナキはベッドから降りて窓から外の様子を確認した。


 村人全員が力を合わせて村中を飾り付けしていたり、収穫した野菜や狩ってきた魔物や猛獣の肉を捌いて料理をしていたりしていた。

 中には以前大海の森の中で接触した人間の大人達の姿もあり、やはりナキの読み通り他の村もあるようだった。


 誕生日パーティの準備に参加している全員が楽しそうに動いている事から、祝われる人物がどれだけ愛されているのかが目に見えてわかり、その光景を見ていたナキは元いた世界での自分の境遇を嫌でも思い出し、その表情を暗くした。


「なんだよ、特別だからって理由で盛大に祝われて。そんなに特別な事が大事なのかよ…」


 誕生日パーティの準備をする村人達の楽しそうな姿を見たナキは、嫌な気持ちで心が一杯になり木の窓から離れてベッドの上に戻り、机の上に置いてある読みかけの本を読み始めた。

 何もないよりかはマシだが、やはり体を動かせない分どうしても暇になる。


 外に出られたとしても、現在誕生日パーティの準備をしているため、ダレも相手にはなってくれないだろう。

 少しでも外の事が気にならないよう、ナキは集中して本の内容を読み込んだ。

 集中して本を読む内、ナキの耳に大勢の祝いの言葉が飛び込んできた。


「「「誕生日おめでとう、シャーロット!」」」


「なっなんだ⁈」


 突然聞こえてきた祝いの言葉の音量に驚いたナキは、慌てて外の様子を確認する。

 外では誕生日パーティの準備が終わり、作業に参加していた村人達は皆綺麗な衣装に身を包んでいた。

 そして人々の中央には先刻一緒に行動していた人間の少女、シャーロットが黄色のドレスに身を包み立っていた。


「誕生日パーティの主役はアイツだったのか…」


 誕生日パーティの主役がシャーロットだと知ったナキは、今朝フォディオが言っていた事を思い出し、机の方を確認すると昼食と思われるサンドイッチとか果実水、そして魔力マナ減少薬マイナスポーションが置いてあった。

 テーブルに近付き、確認していると魔力減少薬と一緒に書き置きが置かれていた。

 ナキは書き置きを手に取り内容を確認した。


「『声を掛けたけど聞こえてなかったみたいなので、昼食は置いておくからちゃんと食べるように』……そんなに時間が経ってたのか…」


 書き置きの内容を見たナキは、いつの間にか昼の時間帯になっている事に気付きサンドイッチを手に取って食べ始めたが、外から聞こえてくる騒ぎ声のせいであまり味がしない感じがした。

 サンドイッチを食べ終えると、ナキはもう一度窓に近付き、こっそりと様子を伺うように外の様子を確認した。

 参加している住民達は皆楽しそうに騒いでおり、主役であるショーロットも幸せそうな顔をしていた。


「(祝われてるシャーロットも、周りの人たちも、皆幸せそうに笑ってる。特別だから愛されてるのか…)

 けっきょく、とくべつじゃないとダメなのかな…」


 盛大に祝われているシャーロットの様子を見たナキは、やはり特別でなければ見とれられないという虚無感に襲われ、今朝よりも明らかに落ち込んだ。

 これ以上外から聞こえる楽しげな声に耐えきれず、ナキは木の窓を閉めた。


(どんなにがんばっても認められない、どんなにしゅちょうしても、聞き入れてもらえない。

 じいちゃんが死んで、けっきょく俺はひとりぼっち…。

 周りに人がいるのに俺だけひとりぼっち、こんな状況、もういやだ…)


 思わず元いた世界での境遇と現在の自分の状況を重ね合わせたナキは、精神的に参ってしまった。

 そのせいか、左前頭部の傷は治ったにも関わらず頭に痛みを感じ、思わずその場に蹲った。

 痛い、つらい、苦しい、寂しい、そういった感情から逃れるかのようにナキは意識を手放した。



*****



 そもそも、ナキは物心ついてから誕生日という物に良い思い出がない。

 もっと正確に言うのならば、嫌な思い出しかないのだ。

 その理由は小学生になって初めての誕生日、七歳の誕生日に原因があった。


 七歳の誕生日を迎える一週間前、ナキは風邪を引いてしまい体調を崩していた。

 更にタイミングが悪い事に、祖父が諸事情により遠くにいる知人を訪ねに行き自宅を開けていたため、病院に行く事が出来なかった。


『おかあさん、のどいたい。それにあたまもいたいよ…』


『何言ってんの? どうせたいしたことじゃないんだから病院に行く必要なんて無いわよ』


『おとうさん、のどとあたま、いたい…』


『なんだぁ? 風邪でも引いたのか? だったら俺達に移さないようにマスクでも着けてろ。

 特に優に移したら容赦しねぇからな』


 当然、両親にも風邪を引いてつらいと伝えたが、全く意味が無かった。

 いくら自分を蔑ろにする親でも、風邪の一つや二つ引けば流石に病院に連れて行ってくれると思っていたが、その期待は裏切られた。

 自宅に常備してある風邪薬を飲みたくてもそれは優専用だと言って飲むことは出来なかった。


『なにあいつ? マスクしてきて、カゼでもひいてるの?』


『うわぁ、さいあく。カゼひいてるのになんでがっこうにくるんだよ』


『あたしたちやスグルくんにうつされたいやだわ。

 さっさとかえったらいいのに…』


『何? 風邪を引いたから少し休ませて欲しい?

 貴方の事だからどうせ嘘をついてサボりたいだけでしょう、優君を見習いなさい』


 マスクを着けて学校に行っても周りからは心配される事はなく、むしろ煙たがられ誰も助けてはくれなかった。

 担任や保険医に保健室で休みたいと言っても禄に話を聞いてはくれず、無理矢理授業を受けさせられたりしたため、祖父が自室に置いている葛湯や漢方薬を飲んで改善を試みたが、全く効果が現れなかったため祖父が帰ってくるまで持ち堪えるしかなかった。


 そして迎えた誕生日、この時点で幼い頃のナキは限界だった。

 これまでに無い息苦しさと胸の痛みを感じ、これ以上祖父が帰ってくるのを待っていられなかった幼いナキは、リビングにいる母親にもう一度訴えた。


『おかあさん、おねがい、びょういんにつれてって…。

 いき、くるしい、むねのほうも、いたい、ほんとうにいたいんだよ…』


『しつこいわね、そんな嘘ついたって無駄よ。

 そうやって嘘ついて気を引いて優ちゃんの誕生日を台無しにしたいんでしょう?』


『ちが、ほんとうにくるしいくて、つらいんだよ…』


『しつこい! さっさと部屋に戻って引っ込んでなさい! 準備の邪魔よ!』


 苦しい思いをしながらも嘘ではないと主張しても、母親は全く聞く耳を持たず、幼いナキの首根っこを掴むとそのまま幼いナキが使っている部屋に放り込み、外側から鍵を掛けて幼いナキを閉じ込めてしまった。

 閉じ込められてしまったと気付いた幼いナキは、扉を叩いて禄に出ない声を上げた。


『おかあさん、あけて! ぼくうそついてない! ほんとうに、うそついてないの!

 あけて、おねがいだから、おねがいだからぁ…っ!』


 必死に声を出し、扉を叩いて出して欲しいと願うが、返事は帰ってこず、ナキは本当にそのまま自室に閉じ込められてしまった。

 これ以上扉を叩いても無駄だと悟った幼いナキは、少しでも体力を温存するために無理に体を動かして布団に潜り込んだ。


 かろうじてペットボトル一本分の水を部屋に置いていたが、渇いた喉を潤そうとそれすら飲みきってしまったため水分補給が出来なくなってしまった。

 何より食べれる物を常備していなかったため、栄養をとるどころか空腹を満たすことさえ出来ない状況に陥ってしまった。

 そして夕方頃になると、自室近くのリビングから楽しげな声が聞こえてきた。


『『『お誕生日おめでとう、優/くん/ちゃん!』』』


『みんな、ありがとう!』


 ナキの耳に聞こえてきたのは、優を祝う両親とクラスメイト達の声と、嬉しそうに感謝の言葉を口にする優の声。

 その後は楽しそうな声が聞こえるだけで、誰もナキに気付く者はいなかった。

 自宅に大勢人がいるのに、全員が自分の存在に気付かないと思い知らされた幼いナキは、深い絶望に追いやられた。


⦅どうして? なんでみんなスグルばかりおいわいするの?

 すごくくるしいのに、どうしてぼくのところにだれもきてくれないの、どうしてぼくのことたすけてくれないの?

 きょうは、スグルだけじゃなくて、ぼくもたんじょうびなのに…⦆


 誰も助けに来てくれない、誰も自分の存在に気付かない、誰も自分の誕生日を祝ってくれない。

 その残酷すぎる現実が幼いナキに重くのし掛かった。

 挙げ句、意識さえ保てなくなり始めたため、幼いながらに死を覚悟した時、聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえてきた。


『病気の子供がいるにも関わらず片方を祝うだけにとどまらず、病院に連れて行かず閉じ込めて放置するとは何を考えておるんじゃ、この馬鹿たれがぁ!』


 けたたましい声が聞こえた直後、陶器が割れたり物が壊れたりする音が聞こえ、ドタドタと荒々しい足音が幼いナキの部屋に近付いてきた。

 そして勢いよく幼いナキの自室の扉が開かれたため、幼いナキは必死に顔をそちらに向けると、そこにはいない筈の祖父の姿があった。


 祖父の姿を見た瞬間、幼いナキは安心してそのまま意識を手放した。

 次にナキが目を覚ました時には病院のベッドにおり、口元には人工呼吸器が取り付けられていた。

 そしてすぐ傍には心配そうに自分を見つめる、祖父の姿があった。


『おじい、ちゃん……?』


『ナキ! 気が付いたか! 良かった、本当に良かった…!』


 ナキが目を覚ました事に気付いた祖父は、とても心配そうにしていた。

 当時のナキは何が起きたのか分らなかったが、風邪をこじらせたせいで肺炎になり、長らく放置していたせいで悪化した結果、命に関わる事態に発展したのだと祖父から聞かされた。


 病室には自分と祖父しかおらず、両親や優の姿はなかった。

 ナキのせいで優の誕生日が台無しになったと心配する素振りを見せるどころか逆上し、ナキが病院に運び込まれたにも関わらず、一度も見舞いに来る事はなかった。


 その事を知った幼いナキは、祖父以外に自分の味方がいないと理解すると同時に、実の両親に失望した。

 同じ子供なのに、ここまで待遇の差を自覚させられれば、どう親に期待しろというのだろう。

 死に追いやられた時点で、期待する事の方が無理だ。


『なんで、なんでみんなスグルばかりゆうせんするの、ぼくのこと、たすけてくれなかったの?

 ダレもぼくのこと、しんぱいしてくれなかった…!』


『ナキ……。本当にすまない、儂が不甲斐ないばかりにお前を死なせかけた。

 本当にすまない…っ!』


 幼いナキが悲しむ姿を見た祖父は、自分の不甲斐なさを悔いていた。

 まさか娘夫婦が幼いナキを死に追いやるようなことをするとは思ってもみなかったのだろう。

 この時点で、幼いナキは両親に見切りをつけた。


『“おれ”をころそうとしたアイツら両親なんか、だいっきらいだ……っ!』



*****



 何やら懐かしながらも悲しい夢を見た気がする、そんな事を思いながらナキは目を覚ました。

 いつの間にかベッドで眠っており、周りには自分の事を心配そうに見ている大人達の姿があった。


「あ、れ…? 俺、一体…」


「ナキ!」


「坊主が目を覚ましたぞ、ヴァンダルさん呼んでこい!」


「ナキ、大丈夫か⁈」


 目を覚ました瞬間、周りにいる大人達が騒ぎ出したため状況が理解できず、ナキは困惑した。

 シャーロットの誕生日を祝っていた筈の村の住民達が何故自分の周りを囲んでいるのか理解できずにいると、猫族の女性に呼ばれたヴァンダルが部屋に入ってきた。


「目ぇ覚めたか、坊主」


「おっさん、なんでこんな騒ぎになってんだ?」


 ナキは何故自分一人の事でここまでの騒ぎになっているのか分らず、ヴァンダルに説明を求めた。

 何故ここまでの騒動が起きたのか分らず、混乱しているナキに対しヴァンダルはこう答えた。


「魔力が乱れたのと同時に熱が出て、窓の近くで倒れていたんだ。覚えてないか?」


 窓の近くで倒れていたと聞かされたナキは、意識を失う前の事を思い出した。

 意識を失う前、ナキは魔力減少薬を飲んでいなかった事を思い出した。


「そういえば、薬飲みわすれた気がする…」


「今は熱が引いてるみたいね。多分、一時的に熱が出ただけだったのかもしれないわ」


「だけどなんでまた急に…?」


 誕生日パーティーを始める前まで体調を崩す気配がなかった筈のナキが、何故体調を崩したのか分らなかったため村の住人達は皆不思議そうにしていた。

 その疑問に関してもナキ自身心当たりがなく、不思議に思っていると、ヴァンダルが原因について話し始めた。


「薬を飲み忘れたのもあるだろうが、恐らくストレスが原因だな」


「ストレス?」


「あぁ、急に過度なストレスで精神がやられたせいで魔力が乱れたんだろう。

 熱の方も同じストレスが原因だろう」


 ストレスによって魔力が乱れ、おまけに熱まで出たのだと教えられたナキは、過度なストレスの原因は、シャーロットが盛大に祝われている姿を見て昔の事を思い出したせいだと言う事に気が付いた。

 それと同時にシャーロットの誕生日パーティがどうなったのか分らなかったため、その事についても聞いた。


「そういえば、誕生日パーティはどうしたんだ? 中断したのか?」


「貴方が倒れているのを見つけたから、シャーロットの誕生日パーティなら中止になったわ」


「中止? なんでまたそんなことしたんだ?

 シャーロットは特別だから、俺一人が倒れてもそのままつづける事くらい出来ただろう?」


 シャーロットの誕生日パーティが中断されるどころか中止されたと聞いたナキは、驚いたように理由を尋ねた。

 逆にナキの発言を聞いた大人達は、驚いたように顔を見合わせ始めた。

 村人達が驚いている様子を見たナキは、何故そんなに驚いているのかが分らなかった。


「ナキ、何言ってるんだ? なんでそんな事言うんだ?」


「だってそうだろう? シャーロットはトクベツだからせいだいに祝われてるんだ。

 だったら俺一人にかまうより、トクベツなシャーロットをゆうせんするのは当たり前なんだろう?」


「坊主、お前それ本気で言ってるのか…?」


 ナキの発言を聞いたルオやヴァンファルは信じられないと言った様子で困惑していた。

 同じようにナキの言葉を聞いていた大人達も、ナキの発言を聞いて更に困惑し始めたため、その様子を見ていたナキは自分のこの考えが可笑しいのだという事に気付いた。


「坊主、とりあえず今日は大人しくしていろ。少なくとも明日の朝まではこの部屋を出るな。

 子持ちの親は今すぐ集まってくれ、話し合いがしたい。

 子供達の方は一先ず若い衆に預けて置いてくれ、場合によっては深夜まで長引くかもしれん」


 ヴァンダルが子持ちの親に呼びかけ始めた様子を見ていたナキは、いかに自分が常識外れな発言をしたのかを自覚した。

 それと同時に自分の中の常識が、何処まで正しいのかが分らなくなった。


(ふつうの家庭なら、子供の誕生日を祝うのは当たり前なんだ。

 でも、俺の誕生日を祝ってくれるのはじいちゃんだけだったから、誕生日を祝われるのはトクベツなヤツだけだと思い込んで…。

 俺の中のじょうしきって、どこまで正しいんだ…?)


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