第18話 愛し子と呼ばれる者
大海の森の中に作られた村に保護されたナキの傷は、村の大人達の予想を遙かに凌駕する回復力で治っていた。
ブラッディ・ベアーにつけられた左前頭部の傷も大分塞がっており、体中の痛みも引いていた。
心なしか、
「信じられないわ、一週間と
「確かにこの回復力は少し異常なような気がするな…」
「きずが大分ふさがったって事は、もう動いてもだいじょうぶなのか?」
「動くのは問題ないが、頭の傷はまだ治りきってないんだ。
まだ部屋の中にいてもらう必要があるし、魔法を使うなんてもってのほかだ」
(まほうの使用はまだきんし、マリョクカイロはまだ治りきってないって事か…)
ヴァンダルの言葉と反応を見たナキは、急性魔力過多症の発症に伴い傷ついた自分の魔力回路が直りきっていない可能性を悟った。
(頭以外のきずは治ったから外に出られると思ったけど、まだカイチュウドケイを探しには行けそうにない。
それ以前に、カイチュウドケイが見つかったっていうほうこくもない、わすれられてるとは思いたくないな…)
左前頭部以外の傷は全て完治したため、外に出られるかもしれないと期待していたナキは、自力で懐中時計を探しに行けない事に対し落ち込んでいた。
村に保護されてから大分時間が経っているため、最悪大海の森に生息している魔物や猛獣に壊されてしまっているのではないかという不安がよぎった。
「なぁ、俺のカイチュウドケイは…?」
「あぁ、その件だがまだ見つかってないらしい。
坊主を見つけた場所もくまなく探してはみたが、それらしいものは見つからなかったそうだ」
「そう、か…」
意識を失った自分を見つけた場所には懐中時計がなかったと聞いたヨキは、顔を俯かせながら落ち込んだ。
ヴァンダルを含めた村の住人は、ナキが大海の森のどの辺りで潜伏していたのかを知らず、今となってはナキ自身も特定する事ができないためたどり着くのは容易ではない。
もしそこで懐中時計を落としていれば、ブラッディ・ベアーと鉛色のリザードマンとの戦闘で原形をとどめていないだろう。
その可能性も存在するため、ナキはかなり落ち込んでいた。
「どっちにしろ頭の傷と魔力回路が完全に治るまで坊主はここで安静にしていろ。
前にも言ったが、村の外に出れば魔物がうじゃうじゃいるからな」
ナキに念入りに釘を刺すと、ヴァンダルはフォディオと狐族の薬師の娘と共に部屋の外へと出て行った。
一人部屋に取り残されたナキは、テーブルに置かれている本を手に取り読書を始めたが、懐中時計の事が気がかりで本の内容が全く入ってこなかった。
(体はもう動かせるのに、部屋の外にはまだ出られない。
仮に出られたとしても、いつまほうが使えるようになるのかも分からないし、なんとか分かる方法はないものか…)
読書をしながら何か魔法を使っても問題ないという確認をする方法はないかと考えていると、木の窓の方から物音が聞こえた。
村の子供達がまた自分の様子を盗み見しに来たのかと考えたナキは、視線だけを木の窓の方に動かして様子を確認すると、全く想定外の光景が目に入ってきた。
「……ダレだテメェーッ⁉」
「お、気がついた」
どういう訳か、村の子供達ではなく、フォディオと同じ狼族の青年が窓の外からナキの様子を見ていた。
しかも堂々とだ。村の子供達でさえナキの様子を確認する際はこっそりと見ていたというのに、今目の前にいる狼族の青年は、逃げ隠れもせずにナキの事を見ていた。
これには流石のナキも驚きを隠せず、声を荒げる。
「いや、ダレだよアンタ! どこから見てた⁉」
「おう、俺はルオっていうんだ。普通にここから見てたぞ?」
「そうじゃねぇよ! そういういみで聞いたんじゃねぇよ⁉」
ルオと名乗った狼族の青年は当たり前のように答えたのだが、ナキはいつから自分を見ていたのかを尋ねたのであって、どのような場所から見ていたのかを聞いた訳ではない。
普通に読書をしていたナキにとっては、村の子供達以外に自分の様子を覗き見る人物が現れた事は完全に想定外の展開だった。
「まぁまぁ細かいところは気にするなよ。気にしてもしゃあないしゃあない」
「気にするよ⁈ 自分の知らない間にかんさつされてたら気にするよふつう!」
「なんだ一週間以上寝てたみたいな事聞いてたから、元気がないのかと思ったら普通に元気そうだな」
「話の内容を急に変えるな!」
マイペースに話を進めるルオの会話について行く事ができず、ナキは違う意味で頭を痛め始めた。
自分が原因でナキが頭を痛めているとは思っていないルオは、お構いなしに話を続ける。
「それよかお前の名前はなんて言うんだ?」
「教えるか! とつぜんあらわれたふしんしゃに名前を教えるバカがいるか!」
「というか普通に元気なら外行こうぜ外。
子供は子供らしく外で遊んでこそ子供だろう?」
「また話の内容変えやがった!」
自分の名前を尋ねてきたと思いきや、今度は外へ出かけようと誘って来たためコロコロと話の内容が変わる事にナキは更に頭を痛めた。
それ以前に部屋の外には見張りがおり、窓から外に出る事は可能だろうが、いまだに魔法が使えない状況下であるため村の住民達から逃げる事はできない。
それ以前に、ナキの服装は寝間着のままだ。
「よしわかった、俺が村の中を案内してやろう。おーい皆頼む~」
「なんでそうなるんだ、よ⁉」
いつの間にかルオに村の中を案内してもらうという話に変化していたため、再度ツッコミを入れるナキだったが、そこで異変が起きた。
話している途中に突然ナキの体が宙に浮いたのだ。
「あ、えっ⁉ まっまほうを使ってないのになんで…うわぁっ⁈」
魔法が使えない状況下であるにも関わらず、突然自分の体が浮いた事にナキは困惑した。
原因を考える暇なく、宙に浮いたナキの体はそのまま移動し始めた。
驚いたナキは手足をばたつかせたが止まる気配はなく、そのまま木の窓の方へと移動する。
そして木の窓の方へと移動すると、ナキは宙に浮いたまま外にいるルオに腕を掴まれ、そのまま部屋から引っ張り出された。
「う、うわぁっ!」
「ホイッと。皆ありがとうな~」
「どうやったか知らないけど、何するんだよ急に!」
原因も分からず部屋から引っ張り出されたナキは、引っ張り出した本人であるルオに対し文句を言うが、ナキの文句は聞き入れられない。
ルオは空中に顔を向けながら、独り言を言っていた。
「マジか? よ~しそうと決まればこのまま村の探索に行くぞ」
「ちょっと待て俺今パジャマ、ていうより、このかかえ方やめろ!」
ルオは引っ張り出したナキを脇に抱えると、そのまま小走りで走り出した。ナキは自分の服装について指摘しようとしたが、荷物のように脇に抱えられる形での移動になったためそちらに注意が行った。
後方ではフォディオが慌てるような声が聞こえてきたが、ルオはお構いなしに離れていく。
(フォディオって人のあわてる声が聞こえた、て事は…。
このルオって奴のその場の思いつきかよ⁉)
自分を連れ出したルオの行動が、その場の勢いで思いついた行動だと行く事に気付いたナキは、呆れ返っていた。
ナキはルオに抱えられたまま、異世界に来てから一度も村という場所を見た事がなかったナキだが、一目見て豊かな村だというのが分かった。
住宅から少し離れた位置にある畑は範囲が狭いながらに野菜が実っており、何かの作業場のような倉庫付近では、大海の森で狩ってきたと思われる猛獣を運び込んでいた。
危険な場所に作られながらも、問題なく生活環境が整っている。
そのため村の住民達には余裕があるのだろう。
(大海の森はたしか、
上手く形にできたとしても、マモノやモウジュウが入り込んだりするはずなのに…)
「それであそこの畑で育ってる野菜は次の
太陽の光を目一杯浴びた
(人が聞いてもいないのに一人でペラペラしゃべってる。
というより、こんなじょうたいで運ばれてるせいで周囲のしせんが集まってて地味につらい…)
脇に抱えられた状態で運ばれてながらルオに畑の説明をされているナキは、村人達の視線がルオとルオに抱えられている状態の自分に集まってきている事に気付いていた。
寝間着の状態というのもあるが、狼族の大人に脇に抱えられている人間の子供という光景は、中々斬新に見えるのだろう。
可笑しな形で目立っているため、ナキとしては地味に恥ずかしい心境だった。
(ちくしょう、どうしてこうなった⁈)
「お、いたいた。おーい、皆~」
どうしてこのような状況になったのか考えていると、不意にルオが誰かに向かって声を掛けた。
その事に気付いたナキは目の前を確認すると、広場のような場所で数人の少年少女達の姿があった。
一人を除いて広場にいる少年少女達の姿を見たナキは、少年少女達に見覚えがあった。
(あそこにいるのは、俺がいしきを取りもどした次の日にのぞき込んできた奴ら…⁉)
ルオが声を掛けたのは、ナキが意識を取り戻した翌刻に自分の様子を見に来た少年少女達だった。
その少年少女達はルオの声に反応してこちらに視線を向け、自分の顔を見て目を見開いて驚いていた。
まさか部屋の外から出られない自分が、ルオに脇に抱えられる形で出てくるとは表もいなかったのだろう。
その証拠に、少年少女達は口々にナキがいる事に対して驚きの言葉を発していた。
「うっそだろ、ふつうに外に出て来てる!」
「もうダメだ、お終いだぁ…」
「それよりもなんでルオさんに抱えられてるの…⁇」
「待って待ってどうやって連れてきちゃったの⁈
たしかフォディオさんの家でフォディオさんとヴァンダルさんに見張られてたでしょう⁉」
「それより、なんでねまき…?」
「前髪が長くて目元がよく見えないなぁ」
口々にナキが外に出て来た事に対しストレートに思った事を言うため、聞かされている本人からすれば軽く言葉の暴力を受けているような物だ。
「コ、コイツら~」
「ルオさんコイツどうやって連れ出したんだよ?」
「あぁ、チビ達に頼んで運び出してもらったんだよ」
「「「何してるんだこの人は⁉」」」
少年少女達にどうやってナキを外に連れ出したのかを聞かれたルオは、笑いながらチビ達に頼んだ事を伝えると、それを聞いた少年少女達は声を揃えてルオにツッコみを入れた。
一方ナキは、ルオが言うチビ達という言葉が気になった。
辺りを見回したが、自分よりも小さな子供が見当たらない。
そのため、ルオが言うチビ達というのが誰の事を言っているのか分らなかった。
「ヴァンダルさんに耳にたこが出来るほど怒られてたじゃない!」
「おまけにコイツをかってに連れ出すなんて、またあばれたりしたらどうすんだよ!」
「あー大丈夫大丈夫。チビ達曰く当分魔法使えないらしいんだよ」
(コイツら、俺がまほうを使えない事知らされてないのか…。
だとしたらコイツの言うチビ達って、ダレの事を言ってるんだ?)
ルオと少年少女達のやり取りを見ていたナキは、少年少女達が自分が魔法禁止令を出されている事を知らされていない事を悟り、自分に関する情報が規制されている事を知った。
それと同時に自分を連れ出したルオが、どうやって規制された情報を仕入れたのかとう疑問が浮かび合った。
そんなナキの疑問に答えたのは、見覚えのない少女だった。
「ルオさん、精霊達に協力してもらうのは良いけど周りに迷惑が掛かるような事は良くないわ。
確かに精霊達はルオさんの願いを叶えてくれるけど、どんな願いでも叶えようと頑張り過ぎちゃうから後々大変な事になって混乱しちゃいます」
「大丈夫だってティア、チビ達には炎出したり水出したり、兎に角建物の中ではエレメントを使わないように頼んでるから建物が壊れる心配はないぞ」
「そういう心配ではないんです、私の心配…」
ルオにティアと呼ばれた白髪のストレートロングヘアーに飴玉のような水色の瞳の少女は、少し困った様子で心配していた。
ナキはティアの話からルオの言うチビ達の正体が、ティアの話に出て来た精霊と呼ばれる存在であると知った。
(せいれいって、ラノベやゲームに出てくるあのせいれい?
この世界にもいたんだ…。というよりかいる事が当たり前なのか…)
ナキの中での精霊という存在は、一定の場所にいたりあちこちにいたり、契約する事で魔法が使えるようになったりという特別な存在だ。
この世界に来てから一年、ナキは一度もそれらしい存在を認知した事がなかったためてっきりいない物だとばかり思っていた。
おそらく一定の条件を満たさなければ、精霊に会う事も認知する事も出来ないのだろう、その証拠にルオはまるで独り言を言っているように見えるのは、精霊と会話しているからだろう。
そこでナキは、ある事に気付いた。
「ちょっと待てよ、ここにいるせいれいって何体ぐらいいるんだ⁈」
「え? 普通に大勢いるぞ?」
「おおぜいだけじゃ具体的な人数がわかんねぇよ!
例えば大体百体前後とか、五〇近くとかわかりやすい言い方があるだろう⁈」
「そういわれてもなぁ、本当に大勢いるんだよなぁ、今も増え続けてるし」
「はいぃ⁉」
具体的な精霊の人数を聞いた筈が、何故か今も精霊が増え続けているという返答が返ってきた事にナキは困惑した。
精霊に会えるだけでもかなり珍しい事の筈が、何故かここにいる精霊の人数が増えて続けていると聞けば、いくらナキでも訳が分らなくなってくる。
それ以前に何故人がいる所に精霊が集まっているのかという事の方が、ナキとしては疑問であり問題でもあった。
だが、精霊が増え続けているというルオの答えを聞いた少年少女達は、まるで当たり前のように話を続けた。
「精霊さん達集まってきてるんだ…」
「普通に話してるだけで精霊が集まるって本当に想像つかないなぁ」
「ふつうにしててふつうにせいれいが集まる…、さすがは〝愛し子〟」
愛し子、そう呟いた
一一歳の誕生日に初めて自由にスターリットの第一区を歩き回った時、鬼族と竜族の男が魔法を使っての喧嘩の時に聞いた住民達の会話内容を思い出した。
竜族の番いに手を出す事は神子と愛し子に手を出す事と同じぐらい危険である、その会話からいとしごと呼ばれる存在が神子同様に何かしら特別な存在だとは思っていた。
そして愛し子がどのように特別なのか、今ようやく分った。
精霊に愛される存在、それが愛し子と呼ばれる特別な存在の意味なのだ。
そしてその精霊に愛される愛し子が、自分を連れ出して脇に抱えているルオだというのは完全に想定外だ。
「精霊達めっちゃ喜んでるんだけど…」
「仕方ないわ、精霊達は愛し子の願いを叶えようと動いちゃうし、下位の精霊達の場合は本能的に動いちゃうから。
それよりもルオさん、なんで精霊達に頼んでまでその子を連れてきたんですか?」
「あぁ、起きたって聞いたから子供らしく外で遊ばせようと思ってな、拉致って来た」
「子供の前で何どうどうとぶっそうな言葉言ってんだ⁉」
少年少女達の前で堂々と物騒な言葉を言ったルオに対し、思わずツッコミを入れるナキ。
それは聞いていた少年少女達も同じだったようで、全員呆れた表情をしていた。
その様子から、このやり取りは日常茶飯事のようだ。
部屋の外に連れ出されてからずっと脇に抱えられているナキは、脇腹を圧迫されて少しきつくなっていた。
その状態が少し苦痛に感じ始めたナキは、顔をルオの方に向けて苦情を入れた。
「おい、そろそろおろせよ。このたいせい、少しきついんだよ…」
「おぉ、悪い悪い。おーい樹のチビ達、コイツが座りやすい椅子作ってくれ」
『ピリィン』
(えっ! この音は、ケイコクオン⁉)
ルオが精霊達に頼むと同時に、何故か大海の森を北上中に聞き慣れた警告音が聞こえてきたため、ナキは困惑した。
すると何もしていないのに、目の前に蔦が数本生え始め絡み合い、やがてベンチの形になった。
それを見たナキは目を見開いて驚いていたが、そのままルオにベンチの上に座らされた。
(すごい、あっという間にベンチができあがった…)
即席のベンチに座らされたナキは、不思議そうにベンチを見つめて状態を確認した。
蔦はしっかりと隙間なく、バランス良く絡み合い、触ったり座り心地から即席とは思えない状態だった。
初めて精霊の力を目の当たりにしたナキが物珍しそうにしていると、ルオが話しかけてきた。
「どうした? 精霊のエレメント見るのは初めてか?」
「エレメント…。それがせいれいの力?」
「おう、他にも水とかも出せたり畑作ったり出来るぞ~」
「でも、この前の湖はちょっとやりすぎよね…」
「その時はしんぞう止まるかと思ったよな、その前の木のバッサイとかもハデにやってたし…」
赤茶色の髪の狼族の少年とキャラメル色の三つ編みお下げの狼族の少女がコソコソと話している何用が聞こえてきたため、その内容を聞いたナキは精霊の力がいかに凄いかを自覚した。
植物を操るだけではなく、それ以外に水を操ったり畑を作ったりも出来る、ある意味万能の力だ。
だが、それと同時にルオが盛大にやらかしているというのも知ったため、かなり頭を痛めていた。
心臓が止まるかと思うような湖を作ったり、全員が驚く程の範囲で伐採をおこなったりなど、聞いただけでは分らないが、周りの人々をまき込むような事をしでかしているというのだけは分った。
「せいれい使って何やらかしてるんだよ…」
「まぁまぁそう気に病むなって。これ食って元気出せよ」
「? それ、どこから出したんだ?」
「出してないぞ? 樹と花のチビ達がついさっき作ってくれたぞ?」
「ここコウキョウの場所! コウキョウの場所に何かってにくだもの作ってんだ⁉」
精霊達が生やしたであろうルオの隣に生えている果物の木を見たナキは、思わず大声を上げる。
まさか公共の場所である広場に果物の木を生やすとは思っていなかったため、指摘せずにはいられなかった。
だがティアや少年少女達はあまり驚いていなかったため、このやり取りは最早当たり前の景色になっていたようだ。
「良いじゃないか、
「だからそういう問題じゃねぇんだって! あ~優の時とはちがう意味で頭がいたくなってきた…」
ルオの勝手すぎる行動に、一年前に追放される形で別れた双子の弟優の事を思い出し、頭を抱えるナキ。
この状況になれきってしまった少年少女達は、ルオの隣に生えた果物をもいで当たり前のように食べていたため、食するのに問題のない果物だという事が分り、手渡された果物を口にした。
「…すっぱ⁉ でも、甘い?」
「
「ん~、美味しい~♪」
「ジャムやコンポートにしたら、とっても甘くて美味しくなるねぇ」
「俺皮いらない」
「コラ! むいた皮をそこら辺に捨てないの!」
少年少女達は実ったプラムを各々が思う方法で食べており、その間も楽しそうに会話をしていた。
そんなやり取りを見ていたナキは、元いた世界での孤立した自分の状況と常に人に囲まれた優の状況を思い出し、寂しさを感じた。
すると獣人の少年少女達の中に混じっていたティア以外のもう一人の人間の少女がナキの前まで移動し、ルオに声を掛けた。
「ねぇ、この子の名前はなんて言うの?」
「あぁ、コイツの名前はギャーン」
「待て待て待て待てっ! ギャーンってなんだギャーンって⁈」
人間の少女にナキの名前を聞かれたルオは、何故かナキの事をギャーンと呼んだためナキは慌てて会話を止める。
そしてギャーンとは何かをルオ本人に問いただした。
「え? お前の名前だよ。名前分んねぇから俺が考えたんだよ」
「だからって人につける名前をそんな変な名前にするなよ⁈
呼ばれる側がたまったもんじゃねぇよ!」
「なんだ、ギャーンは嫌か。それじゃあワーギャなんてのはどうだ?」
「だから人に変な名前をつけるなって言ってるだろう!」
最初の出会いが部屋の木の窓の外から覗き込むという、不審者が現れたとしか思えない状況だったため名前を教えていなかったナキだったが、それが裏目に出て変な名前をつけられそうになる展開に発展してしまった。
そのため慌てて変な名前をつけられる前に否定した。
だがルオだけではなく、他の少年少女達もナキの呼び方を考え始めた。
「それじゃあクロクロ!」
「目隠し少年!」
「ギャンギャンとかは?」
「せめてナッシーにしましょうよ」
「皆、もう少し名前らしい名前考えてあげて」
少年少女達は次々にナキの呼び方をあげていくが、どれもこれも酷い物ばかりで、まだましな呼び方もあったがナキからすれば嫌な物は嫌だった。
その後も次々にナキの呼び方が上がっていたが、やはり変な名前ばかり上がるため、ナキは溜まらず声を上げた。
「だーっ! ナキだよ、
「なんだ、ちゃんとあるじゃないか名前」
「外からのぞき込むふしんしゃに名前教えるわけないだろうが!」
「確かにのぞき込んでる人には名前教えたくないな」
「それお前も言える立場じゃないだろう!」
赤茶色の髪の狼族の少年が言った事に対し、ナキはルオと同じ事をしていた赤茶色の髪の狼族の少年に対してすぐさまツッコミを入れる。
すっかり少年少女達に対するツッコミ役になっていた。
そんな事をしている内に精霊達と会話しているルオが、精霊達から情報を得ていた。
「ふむふむ、マジか。教えてくれてありがとうな」
「どうしたのルオさん?」
「それがフォディオ達がこっちに向かってきてるらしい。
という訳で、全員今すぐ移動開始だ!」
「え? えっ⁈ ちょっと待て!」
精霊達からフォディオがこちらに向かってきているという情報を得たルオは、樹の精霊によって作られたベンチに座っていたナキを再び脇に抱えると、そのまま走り出した。
「あっ! ちょっと待ってよ!」
「ルオさんどこ行くのーっ⁉」
「行動力早すぎるよ!」
「逃げるひつようなくない?」
「せいれい皆くっついてっちゃった…」
「待ってまってーっ!」
ナキを脇に抱えてそのまま走り出したルオを慌てて追いかけるティアや少年少女達。
再び脇に抱えられたナキからすれば、またしても急展開になったため必然的に困惑するしかなかった。
「あーもうっ! どうしてこうなった⁉」
――――――――――――――
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