第12話 脱走実行

 大海の森に繋がるポータルがスターリットに出現した事を知ったナキはディオール王国にいる優達に復讐するべく行動を開始した。

 スターリットに自然発生したポータルは、ナキがディオール王国を追放された時に置き去りにされた大海の森に通じているが、調査が終わり次第白辰時はくたつどきには閉ざされる事が決定している。


 そのため、大海の森を北に進む事ができればディオール王国に辿り着くには、何が何でも白辰時になる前にポータルに辿り着く必要があった。

 オーシャと共に玄関の扉まで行くと少し緊張したような様子で玄関の扉を見つめた。


(あれから俺が外に出ようとしても扉が開く事はなかった。

 オーシャが帰った後にも試してみたけどカギは掛かっていたし、外に出られるか?)


「どうしたのナキ? 外に出ないの?」


「いや、俺が一人で行動できたのは最初にオーシャと会った時と、俺の十一の誕生日の時の二回だけで、外に出られるか不安なんだ」


 十一歳の誕生日以降、一人で外に出られなかったナキは復讐のチャンスが訪れた今、目の前の扉が開くのかどうかという不安があった。

 外に出られなければポータルにも行けず意味がない、かといって諦めてしまえば大海の森へ繋がるポータルを閉ざされて次のチャンスがいつ訪れるかもわからないため、この機をのがす事はできないのだ。


ここで悩んでいても何も変わらないためナキは思い切って玄関のドアノブに手を掛けた。

 するとナキの手に扉の鍵が開いている感覚を感じ、玄関の鍵が開いている事を確信した。


「鍵が開いてる……! これなら外に出られる!」


「それじゃあこのまま外に出てポータルに直行するのね?」


「いや、その前にグロウズ・ガーデンに寄りたいんだ」


 ナキはそのまま大海の森に繋がっているポータルに行かず、その前に第二区にあるグロウズ・ガーデンに寄りたいと言った。

 その言葉を聞いたオーシャはナキに理由を尋ねると、ディオール王国にいる優達は自分よりも早く魔法の訓練を始めている分強くなっている可能性を考えると、やはり上級魔法はもう少し覚えておきたいというのだ。


 魔導書の読み方はオーシャから教わっているため、できれば上級魔法の魔導書を一冊だけでも持ち出して移動している最中に覚えようと考えたのだ。

 問題はいかにして上級魔法の魔導書を持ち出すかという事だ。


 グロウズ・ガーデンには魔導書の盗難対策として各階に結界が張られており、閲覧するにはその階に行くための通行許可証を持っている必要があるのだ。

 ナキの考えを聞いたオーシャは、ナキにある事を提案した。


「一つだけ魔導書を手に入れる方法があるわ。グロウズ・ガーデンの最上階にあるお養母(かあ)さんの仕事部屋、執務室って言えばわかる?」


「簡単に言うと偉い人が仕事するための部屋、だったよな?」


「その仕事部屋には数十冊の上級魔法の魔導書が置いてあって、仕事部屋に置いてあるのは点検されたものなの」


「点検って、マドウショを点検するのか?」


「そう。確かに魔導書を使えば魔法を覚えるのが便利になるわ。

でも魔力の量や質は個人によって違ってくるから同じ魔導書に別々の魔力が流し込まれ続けると魔導書自体にダメージが出て来て、そんな状態の魔導書を使い続けると魔導書に記された魔法が一気に暴発して大事故になってしまう危険があるの。

 それを防ぐためにも定期的に魔導書を点検して、問題がないかを確認するのよ」


 魔導書には定期的な点検が必要で、それを怠ると魔導書に記されている魔法が暴発して事故に繋がると聞いたナキは、それはそれで嫌だと思ったと同時に、魔導書を使用する際は気を付ける必要があると思った。

 オーシャの話を聞いていく内に、点検された魔導書はグロウズ・ガーデンの執務室に運ばれて口調本人による最終点検が行われたのちに再び戻されるのだという。


 つまり、グロウズ・ガーデンの執務室に置かれている魔導書の殆どが最終点検を終えたもので、その中にある上級の魔導書もある筈だというのだ。

 それを聞いたナキは執務室には結界が張られているのではないのかという問いに対し、その心配はないとオーシャは答えた。


「仕事部屋全体に結界は張られているけど、魔導書が仕舞われている本棚自体には結界が張られていないの。だから仕事部屋に入ってしまえばあとは簡単よ」


「でも、他の階にも結界が張られてるから上の階には上がれないし、第一、区長以外が入ったら探知されてバレるんじゃあ…」


「その事に関しても問題ないわ。お養母さんから予備の鍵を渡されているの。

 これを使えばどの階層にいても探知されないし、仕事部屋にも問題なく入れる」


 そういってオーシャが取り出したのは四葉のクローバーを模した銀色の鍵だった。

 そしてその鍵を手にしながらナキにある忠告をした。


「だけど魔導書を選ぶ時には気を付けて。仕事部屋にあるのは普通の魔導書だけではないの」


「それどういう事?」


「仕事部屋には扱うのが危険な魔導書があるのよ。素人が手にするには危険すぎるし注ぎ込む魔力も馬鹿にならないわ」


「もし、そのマドウショにマナを注ぎ込んだらどうなるんだ?」


魔力マナ枯渇という症状を起こして命の危険に晒されるわ。だから危険な魔導書には絶対に手を出さないでね」


 そこまで言うとオーシャは鍵をナキに手渡し、自分は先に戻ってナキがグロウズ・ガーデンに来てもばれないようにすると言って仮家から出て行った。

 オーシャが仮家から出て行くのを見届けたナキは、オーシャが協力者である事がばれないように時間を空け、五刻み経ったのを確認すると上着についているフードを深く被り、改めて玄関の扉を開けて外に飛び出した。


 外に出る事が出来たナキは、時間がない事もあって急いでポータル広場に向かった。

 途中、何度か警備隊に遭遇したが、これまでの経験から町に置いてある荷物や建物の屋根などを利用して直接接触する事を避けて見つからないように移動した。

 何とか警備隊に見つからず、依然見つけたポータル広場に辿り着く事が出来たナキだったが、そこで予想もしていない事が起きていた。


「えっ? あれって、検問⁉」


 ナキの目に映ったのは、ポータル広場で検問が行われているという光景で、ポータル広場を警備している警備隊員が一人一人のプルーフ・リングを見て身分を確認していた。

 その中には先に仮家を出たオーシャの姿もあり、オーシャ本人もまさか検問が行われているとは思っていなかったらしくまだ第二区に戻れていなかったようだ。

 ナキは慌てて物陰に隠れて、検問の様子を伺った。


(まさか検問が行われているなんて想定外だ。これって、ディオール王国の影響か?

 それよりも今はどうやって情報管理区に行くかだ!)


 プルーフ・リングを持っていない以上、間違いなく検問に引っ掛かってしまう事がわかっていたナキはどうやって第二区のグロウズ・ガーデンに向かうかを考えた。


 その時、近くで荷物を運んでいるマウンテン・ボアの姿を見た時にナキは、以前興奮状態のマウンテン・ボアに襲われた時に混乱状態に陥り、無我夢中で逃げる内に誤って落下防止用の柵をよじ登って第一区から落下した結果、偶然にも第二区に行く事が出来た事を思い出した。


 その事を思い出したナキはその時と同じように落下防止の柵を乗り越えて飛び降りれば検問に引っ掛からないで済むと考え、以前第二区に落下した場所へと向かった。


(今の時間は白寅時はくいんどきの二十きざみ、白辰時まで時間がない!)


 ポータルが閉ざされる時間が刻一刻と迫っているという事もあり、ナキは第二区に落下した場所へと急ぎ、そして落下した場所へと辿り着くと、近くの物陰に隠れてどうやって柵を乗り越えるかを試行錯誤し始めた。


 まだ明るい時間帯という事もあり、落下防止の柵の周りにはまだ大勢の人々が行き来していて落下防止の柵を登ったとしても周りの人々に止められるか、そうか上っている途中に卸されるかだがオチだ。

 その結果、警備隊に見つかって捕まり、調査の途中で大海の森行きのポータルが閉ざされる危険があったのだ。


(まだ明るい時間帯のせいか人通りが多い。周りの意識をどこか別の場所に逸らす事ができれば……)


「こんな時こそ、魔法の出番だな」


 人々の意識を落下防止の柵からそらすために魔法を使う事を考えたナキは、落下防止の柵に近い物陰に移動すると道端に置かれた大量の木箱に狙いを定め、アグニと戦った時に発動させた魔法を唱えた。


(ダレにも気づかれないようにするならまほうまほうだな)


「〝無よ、礫となり敵を撃て〟。ナッシング・ショット無の小球


 オーシャによって名付けられたナッシング・ショットの詠唱を唱えると、ナキの頭上に目にとらえられない透明な魔弾が二つ現れ、一つの目に見えぬ魔弾は勢いよく大量の木箱に向かっていき、激しい音をたてながら大量の木箱は木っ端微塵に吹っ飛んだ。


 大量の木箱が木っ端微塵に吹っ飛んだ音に驚いた人々は、木っ端微塵に吹っ飛んだ大量の木箱の方に視線を向ける。

 ここぞとばかりにナキは残っていた魔弾を先程吹っ飛ばした大量の木箱とは別の場所に置かれていた別の大量の木箱に向けて飛ばし、再び木っ端微塵に吹っ飛ばす。


 同じ現象が二度も続いたので、周りにいた人々は何が起きたのかわからず騒ぎ始め、その騒ぎを聞きつけた警備隊員達が木っ端微塵に吹っ飛んだ大量の木箱が置かれていた場所に集まりだした。


「今だ!」


 周りの視線が落下防止の柵から外れたのを確認したナキは、オーシャから教わった身体強化の魔法を発動させて一気に落下防止の柵まで走り出した。

 身体強化の魔法は初心者でも使える詠唱を必要としない魔法であり、付与魔法の基本ともいえる。


 身体強化の魔法を発動させると、普段の身体能力が上がり動きが俊敏になったり攻撃力が上がったりするが普段の動きをするのは難しいらしく、慣れるのには時間がかかる。

 だが、ただまっすぐに進むだけなら問題ない。


 ナキは落下防止の柵に辿り着くとそのまま柵に手をかけて勢いよく登っていき、落下防止の柵の上まで登ると、あまりの高さに一瞬躊躇ったが覚悟を決めて飛び降りた。

 第二区が見えてくると、ナキは風の単体魔法から派生した派生魔法を唱えた。


ブリーズ・スフィアそよ風の球体!」


 ナキの周りにそよ風が発生し、球体のような形になるとナキの落下速度を少しずつ落としていき、しばらくして第二区に降り立つ事ができた。

 第二区に着いたナキは、飛び降りた拍子に脱げたフードを被り直すと一度身体強化の魔法を解いて半年近く前の記憶を頼りにグロウズ・ガーデンに向かった。


 第二区の様子は依然見た時と変わらないように見えるが、ディオール王国が行った事に対する影響か第一区と同様にピリピリした空気が漂っているのを感じたナキは、もしかするとグロウズ・ガーデンの警備が強化されている可能性があると考えた。


 ポータル広場で検問が行われていたため、グロウズ・ガーデンの警備が強化されていても可笑しくないと思ったのだ。

 そこでナキが思い至ったのは、警備が強化されたグロウズ・ガーデンにどうやって入るかという事だ。グロウズ・ガーデンには沢山の本があるように、沢山の魔導書が置かれている。


 そのためグロウズ・ガーデンでも検問が行われているのではないかと考えたのだ。

 ナキがグロウズ・ガーデンの前に辿り着くと、予想していた通りグロウズ・ガーデンの入り口で検問が行われている光景が目に入ってきた。


(やっぱり考えた通りか、とりあえず周りを見て入れる場所を探さないと…)


 ナキは他の場所からグロウズ・ガーデンの中に入れないかと考え周りを見て回ったが、検問は行われていなかったものの警備隊によって通れないようになっていた。


 一度グロウズ・ガーデンから離れてどうやって入るか考えていると執務室がある二十階の窓が開いている事に気付き、その開いている窓付近に蔦が生えている事に気付いたナキは、前にグロウズ・ガーデンに入った時と同じように蔦を登ってはいけばいいのだと気付いた。


 その事に気付いたナキはもう一度グロウズ・ガーデンに近付き、再び自分自身に身体強化の魔法を掛け、蔦を登り始めた。

 周回に当たっている警備隊員に気付かれないように途中のバルコニーに姿を隠し、少しずつながらも最上階を目指して登っていく。


(身体強化のおかげで素早く行動できるけど、やっぱりきついかも。兎に角急がないと時間が無くなる!)


 身体強化の魔法を使っているとはいえ、小学生が建物の壁に生えた蔦を使って、しかも二十階の建物をよじ登るとなると時間が掛かるのは明らかであり、ナキが二十階に着いた時点で既に三十刻みが経過していた。


 二十階に着いたナキは身体強化の魔法を解いて急いで特務室を探し始め、それらしき扉を見つけるとナキはオーシャから渡された鍵を扉の鍵穴に挿した。

 鍵が問題なくさせた事を確認すると鍵を開け、ナキは部屋の中に入っていった。


 中に入ると、いかにも仕事のための部屋といった雰囲気で仕事用の机には大量の資料や本、周りには魔導書と思われる本がいくつもの本棚に収められていた。


「これ、全部マドウショ? だとしたらこの中に上級まほうが書かれたマドウショも……」


 本棚に収められている大量の魔導書を見ていると、不意に気配のような物を感じたため感じた方向を向くとナキの眼に扉付きの本棚が移った。

 何故その本棚だけ扉付きなのかわからなかったが、気になったナキは扉付きの本棚に近付いて扉を開け、収められた本の一冊を手に取った。


 執務室にある以上、扉付きの本棚に収められている本も魔導書であると考えたナキは手に取った本を開いて中を確認してみると、見知った精霊文字が書かれていたためナキが予想した通り魔導書だった。どのような魔法が記されているのか気になったナキは試しに魔力を注ぎ込んで内容を確認してみると、思わず目を疑った。


(エンシェント、ブレイズ? 古代の炎を生み出して発動する魔法で、山一つ消し去るだけの威力を持つ⁉)


 魔導書に記されたエンシェント・ブレイズという魔法が山一つ消し去るだけの威力を持つと知ったナキは、魔導書に記された他の魔法も確認してみたところエンシェント・ブレイズと同じ強力な魔法が記されている事を知ったナキはすぐさまその魔導書を鞄にしまい、本棚の扉を閉めて執務室から飛び出した。


 山一つ消し去るだけの威力を持つ魔法となれば、下手をすれば国一つ滅ぼす事ができるだけの威力があるという事にもなる可能性があり習得する事ができればディオール王国にいる優達を圧倒できる事はナキでもわかったのだ。


(山一つ消せる魔法、この魔法を習得する事ができれば完膚なきまでに優達を叩きのめす事ができる!

 今の時間は白兎時はくうどきの六刻み、もう一時間もない‼)


 走りながら懐中時計を手に取って時間を確認し、ポータルが閉ざされるまですでに一時間を切っていると知ったナキは入ってきた窓に着くともう一度蔦を利用して降り始め、登るよりも降りる方が早かったためすぐグロウズ・ガーデンの外に出る事が出来た。


 ナキはグロウズ・ガーデンの周囲を巡回している警備隊に見つからないように移動し、完全に距離をとるとそのまま大海の森に繋がるポータルを目指して走り始めた。

  時折第二区を巡回している警備隊員と鉢合わせしそうになったが、第一区を移動していた時と同じように物陰や茂みを利用して警備隊員から逃れ、第二区に降り立った場所に戻ってきた。


「確かオーシャが見せてくれた地図では、俺が下りた場所から少し離れた位置だった筈……」


 ナキは大海の森に繋がるポータルの出現場所が自分が着地した場所から少し離れた場所であった事を思い出し、急いでポータルが出現した場所を探す。


 ポータルを探していると、近くから話声が聞こえてきたためナキは声が聞こえて来た方に進んでみると、そこには第二区担当の警備隊の姿が数人程おり、そのうち五人が何かを囲むようにして立っていた。

 ナキは近くの茂みから様子を伺い、五人の警備隊員が囲む形で立っている場所を注意深く見てみると、そこには見覚えのある青白い光があった。


(まちがいない、あれはポータルだ! 時間は……あと二十五刻み、時間的には間に合ったけど、今隙をついてポータルに飛び込めてもポータルの先にいる調査担当の奴に捕まる。

 時間ギリギリになるまで待つしかない!)


 ポータルが大海の森に繋がっている事はわかっていたが、大海の森のどのあたりに繋がっていたのかを調査しているという事もありポータルが繋がっている先には調査をしている警備隊かそうか冒険者がいても可笑しくはないと考えたナキは、ポータルの先にいる調査担当者たちが戻ってくるギリギリの時間まで茂みの中で待ち、チャンスが来るのを待った。


 その間にポータル周囲にいる警備隊の人数を確認し、戻ってくる調査に向かった担当者の人数を予測しながらどのタイミングデポ0樽に飛び込むかを考えた。

 そして時間は刻一刻と過ぎて行き、白辰時まで五刻みを切っていた。

 白辰時まで五刻みを切ると、ポータルから次々と調査に向かっていた冒険者と思われる数名の大人達と警備隊が出て来た。


 その様子を見ていたナキは調査に向かっていた全員が戻ってくるのをじっと待ち、班長と思われる虎族の獣人の男性が点呼を取り始め、全員が戻った事を確認するとポータルを囲んでいた警備隊員達にポータルを閉じる指示を出した。


「(今だ! 〝〝無よ、礫となり敵を撃て〟。ナッシング・ショット!」


 ナキはポータルを閉じる指示が出された直後小声でナッシング・ショットの詠唱を唱え、間髪入れずにポータルの周囲に向かって放った。


 姿かたちが見えず、何より属性がない攻撃という事もあってうまくマロy区を感じ取れない事もあり周囲で爆発音が聞こえると同時に地面にクレータができ、周囲の木々が薙ぎ倒されるという現象が何の前触れもなく起きたため、あまりにも突然の事に警備隊も冒険者達も困惑した。


 ナキはナッシング・ショットを次々と放ち、ポータルの周りが砂煙で覆われたのを見計らって身体強化の魔法を自分に掛けて隠れていた茂みから飛び出し、ポータルに向かって一直線に走り出した。


(頼む、間に合ってくれ!)


 目の前に青白い光が見えたのを確認したナキは、そのままポータルに飛び込んだ。

 ポータルに飛び込む一瞬青白い光に包まれたため眩しさで思わず目を瞑ったが、そのまま勢いよくポータルから飛び出して倒れてしまった

 ナキは慌てて起き上がって周りを確認すると周りには誰の姿もなく、木々が生い茂る森のような場所に出た。


「スターリットの外に、出られたのか?」


 無事にポータルを通って大海の森に来る事ができた事の気付いたナキは、我に帰って後ろを振り向き、ポータル近くめがけてフレイム・ショット(炎の小球)を数発はなった。

 ナキはそのままポータルを放置して置けば自分がいなくなった事に気付いて追手が来る危険性を考え、追手が来れないように二度とポータルが開かないようにする必要があったのだ。


 ポータルが開いている地面その物を傷つければ、ポータルも自然と閉じるのではないかと考えたナキの思惑通り、ポータルが開いていた場所にはぽっかりと穴が開いており、それを確認したナキは急いでその場から離れた。


「急げ、急げ。少しでも遠くへ…っ!」


 ナキはポータルがあった場所から少しでも遠く離れた場所まで移動した。

 本当ならディオール王国がある北の方角を確認したい所だが、ポータルを潰す形で閉ざす事ができたとはいえ、まだ追手が来る可能性は捨てきれなかったため、ナキはあえて方角を確認せずにナキは急いでその場を離れた。


 そしてポータルが開いていた場所からだいぶ離れた頃には辺りはすっかり暗くなり、時間帯的にはすでにようになっていた。

 ナキは辺りを確認すると枯葉や枝を集め、集めた枯葉と枝に向けて炎の単体魔法をかけて火を起こした。

 焚火が付いたの確認したナキはそのまま近くに座り、鞄の中に入れていたパンを手にして食べ始めた。


(あれでポータルはつぶせたはずだ、これでしばらくの間はスターリットから追手が来ることはできない。

 その間にディオール王国を目指してあいつらにフクシュウしてやる!)


 スターリットから脱走し、再び大海の森に来たナキは夜空に浮かぶ月を見つめながらディオール王国にいる優達への復讐に燃え、一刻も早く新たな魔法を習得するべくグロウズ・ガーデンの執務室から持ち出した魔導書を取り出して読み始めた。

 しかし、これらの行動が裏目に出て危機に立たされることも、それと同時に新たな出会いがある事を、ナキは知る事はなかった。



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