第11話 外の情報と脱出のチャンス

 ナキが双子の弟、優に巻き込まれる形で異世界に召喚され、無実の罪で追放された後にスターリットで保護されてから更に月日が流れ、一年が経過した。


 元いた世界には帰れないという真実を知り、ディオール王国にいる優達に復讐する事だけを考えていたナキは、オーシャの協力のもと魔法を習い、現在の保護者であるアリョーシャにばれないよう魔法の腕を上げ、今では中級魔法を完全に自分のものにし、付与魔法や攻撃力の高い派生魔法も覚え、少ないながら上級魔法も覚え使用できるようになった。


稲苗月いななえづきの二二こく。ショウカンされて丁度一年になったんだな……」


 リビングに掛けられているカレンダーを見たナキは、自分が異世界に来てから一年が経過している事を実感したあと、リビングの窓の方に向かって外の様子を見た。

 相変わらず行動制限が厳しい軟禁状態に近い生活は変わらず、何度も隙を見てアリョーシャから逃げては捕まるを繰り返していたが、ナキもそこまで馬鹿じゃない。


 十一歳になった菊見月きくみづきの七刻に自由に外へ出る事が出来た時に見つけたポータルという移動手段。

 ポータルはスターリットの各区域を自由に行き来する手段であるという事を知ったナキは、あの日以降アリョーシャと外出する際にスターリットの外へと通じるポータルを探し続けていたのだ。


(オーシャのおかげてまほうのちしきを得られた。

 こうげき系のまほうだけじゃなく、あいつらを苦しめられそうなふよまほうも身に着けたんだ。

 できれば上級まほうをもう少し覚えたかったけど、一年が経っている以上たちも十分強くなってる筈だ。

 これ以上時間をかけられたない)


 ナキが異世界で一年を過ごしたように、ディオール王国にいる優達もナキと同じ時間を過ごしている。

 何より優達はナキよりも早く魔法の訓練をしていたため、間違いなく魔法の腕は自分よりも上を言っている可能性があると考えたのだ。


 オーシャの協力で上級魔法を習得していたナキだったが、実際に発動させてみると制御が難しく、完全に自分のものにできたとは言えなかった。

 そのため、攻撃力の高い派生魔法を中心に覚えていたのだが、最近になって家具の壊れ具合から初級魔法以外の魔法を使用しているかをアリョーシャに訊ねられた。


 アリョーシャには一度も魔法関連の物を受け取った事が無いため覚えるのは無理だと本当の事を交えた嘘をついて逃れたが、これ以上魔法の練習を続けていればバレるのも時間の問題だった。

 どうするべきか考えていると、二階からアリョーシャが下りて来た。


「ナキ、ちょっと出かけて来るから大人しくお留守番してて。帰りは遅くなると思う」


「留守番どころかなんきんじょうたいで生活してるからでかけられねぇよ。

 で、なんかあった訳?」


「ん? なんでそう思ったの?」


「なんかある度にしゃべり方がいつもとちがってちゃんとしてるからだよ」


 アリョーシャの喋り方がおっとりとしたいつもの喋り方から、しっかりとした普通の喋り方に変わっていると大抵何かトラブルが起きているという事を指摘した。

 その事に関して指摘されたアリョーシャは、少し考えるそぶりをすると見せるとすぐに返答した。


「確かにあったにはあったけど、たいした事じゃないから気にしないで。じゃ、そういう事で」


 アリョーシャはそこまで言うとそのまま指を鳴らして仮家の外に出かけてしまった。

 はぐらかされたナキはアリョーシャの態度にむかついたが、今は気にしている場合ではないと考えスターリットの外へと繋がるポータル広場が何処にあるのかを特定する方法を考え始めた。


 アリョーシャの隙をついて逃げる時に探しているとはいえ、やはり探せる時間が限られているせいでポータル広場を見つける事ができないのが現状だ。


 十一歳の誕生日に自由行動ができなければ見つけられないと考えていると、仮家の呼び鈴が鳴る音が聞こえたためオーシャが来たのだと思った時に、ナキは協力者であるオーシャに聞けば普通に分かるという事に気付いた。


 その事に気付いたナキは、ポータルの存在を認知している事を隠していたため今の今までオーシャに聞くという選択肢に気付けなかった事に激しく後悔した。

 そうやって後悔していると、当たり前のようにオーシャがリビングに入ってきた。


「こんにちはーって、どうしたの?」


「あー、ついさっき大事な事に気付いてこうかいしてたところなんだ」


「そうなの? ところで今日はいつもみたいに上級魔法と派生魔法の練習か、そうか新しい上級魔法にチャレンジしてみる?」


「いや、それよりもオーシャに聞きたい事とがあるんだ。

 スターリットの外に出るためのポータルがどこにあるか知ってる?」


 ナキはつい先ほど気付いたオーシャにポータルの場所を聞くという方法をすぐに実行した。

 協力者という事もあり、オーシャならまず間違いなく教えてくれるだろうという思いもあったが、魔法の練習に夢中になりすぎて聞くのを忘れてしまうかもしれないという危険性も考慮しての事だった。

ナキの口からポータルという言葉を聞いたオーシャは、意外そうな表情をした。


「意外ね、ポータルの事知ってたの?」


「ちょいと一人で行動できた時に知ってな。

 その時にポータルでスターリット中を移動できるって事は、外につながるポータルもあると思ったんだけど、その場所がわからないんだよ」


「スターリットの外となると、最下層の第二十四区に行かないと出られないわ」


 スターリットの外に行くに第二十四区に行かなければ出られないと聞いたナキは、何故第二十四区でなければならないのかをオーシャに訊ねた。


 その理由は最下層である第二十四区は第二宿場区と呼ばれ、スターリットの外から来た人々を招き入れ、スターリットで生まれ育った人々や外から人々を送り出す出入り口としての役割を担っている区画という事もあり、外へ繋がるポータルはその一つだけしかないのだそうだ。


 それ以外の外へと繋がるポータルはない訳ではないが、それらは緊急事態でない時はポータルとしての機能はなく、普段は星族が管理しているので使う事は出来ないのだそうだ。

 

「それなら、その第二しゅくば区に行くためのポータル広場はどこにあるんだ?

 それと、ポータルは色んな植物に囲まれてたから、第二しゅくば区と外につながるポータルがどんな植物に囲まれてるかも教えてほしいんだけど…」


「第二十四区に繋がるポータルは藤のウィスティリアのアーチ、外へ出るためのポータルは香豌豆スイートピーの花壇で囲われているのだけど、ディオール王国の動きが怪しいせいか、警備隊の雰囲気がピリピリしていたから難しいかも」


 オーシャがディオール王国の動きが怪しいと聞いた瞬間、ナキは驚いた。

 ディオール王国の動きが怪しいという事は、もしかすると神子がいるというフェイリースに攻め入ろうと動き出しているのではないかと王子に、アリョーシャにはぐらかされた事と何か関係しているのではないかと思い至った。


 もしそうだとすれば、救出された神子までも相手にしなければいけない可能性があるためそれだけ阪何としても避ける必要があった。

 そこでナキはオーシャからディオール王国の様子を聞く事にした。


「怪しいって、もしかしてフェイリースに攻め込もうとしてるのか?」


「それが、フェイリースに攻め込むどころか、北側のクラウディア公国と南東側のヴァレンティ―ヌ王国の領土に勝手に入って、国民を連れ去っているみたいなの」


「それって完全にはんざいじゃないか!」


「えぇ。ヴァレンティ―ヌ王国には凄い勢力がいるらしくて、襲われた村のいくつかにその人達が居合わせたおかげでそんなに被害は出てないけど、クラウディア公国の方は二百人近くが連れ去られたそうよ。

 国民を連れ去られたとクラウディア公国の大公とヴァレンティ―ヌの国王は物凄く怒って国民を取り戻そうと躍起やっきになってるみたい。

 二つの国とはライフ大陸に存在する二つの大国を通じてスターリットでも交流が、あるから警備隊が余計にピリピリしてるってお養母さんが言っていたわ」


「その様子だと話し合いでのかいけつはむりそうだな」


 ディオール王国が勝手に他国の領土に侵入し、あまつさえ他国の国民を連れ去っていると聞いたナキは、ディオール王国がやっている事は完全に犯罪行為だと言葉に出した。

 国境を無視して領土に入るという事は決してあってはいけない事であり、他国の国民を連れ去るという事は誘拐と同然、本来なら話し合いの場を設けて解決する事が先なのだ。


 しかし、二つの国が同時に襲われて国民を連れ去られるという事件が起きたとなればそれどころではなくなり、各国の代表が怒るのは当たり前だと思った。


 それと同時に、ナキは何故ディオール王国が神子がいるフェリーティア王国ではなく他国から国民を連れ去る必要があるのかわからなかったが、ふとナキがスターリットに保護されてから意識を取り戻した時にディオール王国付近で暮らしている獣人ビースト妖精賊ピクシーを避難させていたと聞いたのを思いだし、ある答えに行きついた。


「もしかして、ドレイのほじゅうか?」


「奴隷の補充って、それどういう事?」


「ロリババアが色んな冒険者に協力を呼び掛けて、ディオール王国周辺にいる獣人や妖精達をひなんさせたせいで、予定人数を集められなかったんだと思う。

 だから他の国にいる国民をユウカイして、足りない人数をおぎなうつもりなんだ」


 ディオール王国がフェイリースに攻め入るために、獣人や妖精といった人間以外の種族を奴隷としてとらえるよう実の息子達に命令していたディオール王国国王の事を思いだしていたナキは、神子を救出すれば元いた世界に帰れると平然と嘘をついていた事を考えると、あの国王ならば他国から人を連れ去って奴隷に落とす事をやりかねないと思った。


 どちらにしてもディオール王国がやった事は間違いなく二つの国の怒りを買ったのは間違いなかったため、国民を取り戻そうとするなら、間違いなくディオール王国に攻め入って戦争になるのが目に見えていた。


「まずいな、どう考えてもフェイリースに攻め入るよりも先にその二つの国と戦争になってフクシュウどころじゃなくなる!」


「確かに復讐したいとなると自分の手で決着をつけたいしね」


「ディオール王国が負ければ、ショウカンされた優達は間違いなくほごされて、フクシュウできなくなっちまう!」


 ナキはクラウディア公国とヴァレンティ―ヌ王国は自国の国民を連れ去られたという共通点があるため間違いなく同盟を組むと読んだ。


 その二国と戦争になって、ディオール王国が負けた場合問題を起こした国王は他の王族共々何かしら罰せられ、神官長辺りは現在の地位を落とされるか神官をやめさせられるかのどちらかになるという自業自得な結末になるのがわかったため、まだ問題はないと思った。


 だが自分と同じように別の世界から召喚された優達の場合はまだ子供であるという事を理由に、保護されてしまえば居場所がわからなくなり、復讐ができないと考えたのだ。

 優達に復讐するには戦争が起こる前にディオール王国へ行く必要があった。


「何か対策をねらないと…。オーシャ、今世界地図的な物持ってるか?」


「持ってない訳ではないけど、この家にはないの?」


「前に何度か探してみたけど、どこにもなかった。

 俺がディオール王国にフクシュウするのを防ぎたがってる感じだったから多分、あえて置いてないんだと思う」


「なるほど。それならこれの出番かな? マッピングオープン!」


 そういうとオーシャが右手首に着けていた腕輪から光が溢れ、空中に世界地図のような物が現れた。

 オーシャの指輪から地図が出てきたのを見たナキは驚きのあまり声が出なかったが、しばらくして正気に戻り、オーシャの指輪に対する疑問をぶつけた。


「そのウデワ、もしかしてマドウグ⁉」


「そうよ、『プルーフ・リング』といって、身分証明書としての役割と今みたいに地図としての役割を持った魔道具なの。

 子供の間は私のと同じ腕輪型で、大人になると指輪型のものになるの」


「プルーフ・リングってみんな持ってるのか? だとしたら俺だけ持ってない事になるじゃん!」


 プルーフ・リングの存在を知ったナキは、自分だけが持っていないという事に対して仲間外れにされていると思い不満の声を上げた。

 しかし、今はスターリットからディオール王国までの道のりを知る事の方が先だと思い直し、ナキは空中に映し出された世界地図を確認した。


 スターリットがあるのはライフ大陸のブルーム地方の北東、その隣にはナキがディオール王国によって置き去りにされた大海の森が名前の通りに広がっているのが見て分かり、上の方へと目線を移すうちにブルーム地方からエルドラド地方へと名前が変わり、その南西部分にディオール王国の名前が目に見えた。


「予想以上にきょりがあるな。このまま外に出たとしてもすぐに追いつかれちまう」


「大海の森は遥か昔から姿を変えない太古の森の一つで、一人での攻略は基本的には無理よ。

 最低でも四人一組のパーティか黄緑階級イエログリンランクの魔物を従魔にしておく必要がある程よ」


「パーティを組むのも黄緑階級のマモノをしたがえるのもむりだ。

 せめてこの辺り、この大きな湖の場所にいっしゅんで移動できれば一人でも行けるかもしれない」


 ナキが指さした大海の森の場所は、オンディーヌと呼ばれる地方に位置する場所でオンディーヌ地方一体を統一するオフィーリア帝国と呼ばれる国が管理している一帯だった。


 地図の記され方からして、先程オーシャが言っていた大国の一国である事がわかり、ディオール王国の隣国であるフェイリース王国にも大海の森が繋がっていて東側という事もあり、まさかナキがフェイリース王国方面から来るとは思わず、ディオール王国の隙をついて入国できるかもしれないと考えたのだ。


 ナキが指さした場所がオフィーリア帝国の管轄である事に驚いたオーシャは、ナキに本気なのかと尋ねた。


「ここ、オフィーリア帝国の管轄よ。本気で言ってるの⁉」


「かのうであれば、の話だけどね。

 そうじゃなくても北にまっすぐ進める位置であれば、方向を見失わずに向かう事ができるかのうせいはあると思うんだ」


「ナキ、私より年下なのに凄いチャレンジャーなのね……」


 ナキの考えを聞いたオーシャは、ナキの子供らしからぬ考え方に驚きすぎて反応に困った。

 ナキからすれば、亡くなった祖父から直々にサバイバルの方法を教わっており、保護されてからはアリョーシャに言って異世界の動植物の知識を学んだため、危険なものをある程度避けられると考え、何より現在のナキは魔法が使う事ができるようになっていたため、凶暴な獣や強い魔獣を退ける事ができると思っていたのだ。


 後の問題はどうやって外に出るためのポータルへ行くかという事だけだった。

 その方法と道順を考えるためにもナキはオーシャに頼み、スターリットの地図を出してもらう事にした。

 すると第一区と第二区の中間部分に青い光が点滅している事に気付いた。


「なぁ、この間の部分、なんかてんめつしてるみたいだけど……」


「これは、ポータルの出現ポイントだわ!」


「ポータルだって⁉」


 オーシャの口からポータルという言葉が飛び出してきたため、ナキは驚かずにはいられなかった。

 てっきりポータルはスターリット内にあるポータル広場にしかないものだとばかり思っていたため、オーシャに説明を求めた。


「ちょっと待てよ! ポータルってせんようの広場にしかないんじゃないのか⁉」


「普段ならそうだけど、時々ではあるけど今みたいに他の場所へ繋がるポータルが自然発生する事があるの」


「つまりはシゼンゲンショウみたいなもの、なのか⁇」


「そう思ってくれれば問題ないわ。

 出現したポータルの特徴は、必ずスターリットの外へと繋がってるという事なの」


 出現したポータルが必ずスターリットの外へと繋がっていると聞いたナキは、それだと言わんばかりに出現したポータルを利用できないかとオーシャに提案したが、ナキの提案に対してそれはいい案ではないとオーシャは反対した。


 理由は出現したポータルが何処に繋がっているのかわからないからだ。

 出現したポータルというのはいつ、どこで出現するのかわからず、何より一番の問題は世界の何処に繋がっているのかがわからないという事だった。


 出現した場所や繋がっている場所によってはそのポータルから危険な魔獣が現れ、ポータルが出現した場所に人がいれば被害が出てしまう危険があるため、繋がっている場所を調べたのちに問題がなければ第十一区に繋げて保存し、問題があればそのポータルを閉ざす事で安全を確保する事になっているのだそうだ。


「下手すると他の大陸につながってるかのうせいもあるのか。

 なんとかそのポータルの情報を手に入れる事はできるか?」


「難しいわ。出現したポータルを調べるのは警備隊の仕事だけら、グロウズ・ガーデンの職員の私が聞いたら怪しまれると思うの」


 出現したポータルを何とか利用できないか考えていると、窓から二人の警備隊員が話し込んでいる様子が見えたため、オーシャを窓から見えない場所に隠れさせてナキ自身も警備隊員たちに気付かれないように様子を伺った。

 二人の警備隊員の声は聞こえず、何を話しているのか聞こえてこなかったが、ナキはその内の一人の口元を見て話を内容を読唇術で聞き取ろうとした。


(ヴァレンティ―ヌ出身の少女の行方はどうだ、なんだってこんな時期に、語り部様がソウタイチョウたちをしょうしゅうして会議を開いてる程だ、よくわからないけど、ヴァレンティーヌから行方不明者がでたのか?)


 読唇術で読み解いた話の内容からしてヴァレンティ―ヌ王国の国民が1人行方不明になっているというのがわかり、その人物はヴァレンティ―ヌ王国にとってもスターリットにとっても重要な人物ではないかと推測したナキ。

 必死で読唇術で警備隊員が話している内容を読み解いている内に、ナキにとって重要な内容が出てきた。


(そのポータルだが、大海の森につながってるらしい…⁉)


 警備隊の口から、ポータルという言葉を聞いたナキは思わず声を出しそうになりながらも声を押し殺した。

 警備隊員が言っているポータルというのは、先程使えないか考えていた出現したポータルの事であり、そのポータルが大海の森に繋がっていたのだ。


 それを知ったナキはそれから詳しい内容を知ろうと読唇術で読み解き続けた結果、出現したポータルは間違いなく大海の森に繋がっていて、どの辺りなのか調べ終え次第ポータルを閉ざす事が決定したのが判明した。

 それを知ったナキはすぐにオーシャに声を掛けた。


「オーシャ、ポータルの調査ってどれぐらいで終わるかわかる⁉」


「今みたいな状況だと今日の夕方頃には終了すると思うけど、何があったの?」


「出現したポータルが、大海の森につながってるのがわかったんだ」


「嘘、本当に繋がってたの?」


 オーシャは出現したポータルの先が大海の森の中部に繋がっていたと知り、信じられないという顔でナキを見た。

 一方で、今のようなポータルの調査が終わるのが夕方頃だと知ったナキは、首からかけている懐中時計で今の時間帯を確認した。


 現在の時刻は白寅時はくいんどき近くになっており、夕方に差し掛かるのは白辰時はくたつどき頃であったので残された時間はあと二時しか残されていないと知り、スターリットから出るチャンスは今しかないと思いすぐに行動を起こした。


「オーシャ、台所にある日持ちしそうな食材を探してくれ!

 俺は自分の部屋の使えそうなものを集めてくる!」


「え、ちょっと急にどうしたの⁉」


「大海の森のどの辺りかわかり次第、ポータルを閉ざすって言ってた!

 スターリットの外に出てディオール王国へ行くチャンスは今しない!」


 そういうとナキは大急ぎで二階の自室に向かい、オーシャも戸惑いながらもナキに言われた通り台所に移動して日持ちしそうな食材を探し始めた。

 ナキは仮家の自室にある物の中から使えそうなものを選び、鞄に詰め込んでいく。


「この本とこの本、フヨまほうのマドウショにキャンドルランタンとロウソクを数本。

 それから、この小瓶も」


 そういってナキが手にしたのは、十一歳の誕生日の夜に誰かから贈られた金平糖が入っていた小瓶だった。

 金平糖は既に無くなっていたため今ではただの小瓶になっていたが、ナキにとっては亡くなった祖父以外からもらった誕生日プレゼント。


 その送り主が誰なのかは今もわからないままだが、小瓶自体は飲み水を組むのに使う事ができ、思い入れもあったためお守り代わりに持って行く事にした。

 必要なものを鞄に入れ終わると、急いで一階に降りてリビングに戻った。

 リビングに戻ると、ナキに頼まれて日持ちしそうな食材を探していたオーシャがテーブルの上に食材を幾つか置き終えていた。


「ナキ、頼まれた通りに日持ちしそうな食材を探してみたんだけど……」


「ありがとう! えっと、これとこれと……」


 ナキはテーブルの上に置かれている食材の中から、持ち運んでも問題のない物を選んでいき、選び終わると食材を元あった場所に戻し始めた。


 テーブルの上に食材が置かれているのを見られれば、ナキが仮家の外に出たとバレる危険があり、何度も逃げても自分の居場所が何故かバレてしまう理由もいまだにわからなかったため、捜索されるのだけは避けなければならなかった。


 準備を終えたナキは、窓から外の様子を確認して仮家の前に警備隊がいなくなったのを確認すると、オーシャと共に玄関まで移動した。

 偶然か必然か、訪れた復讐のチャンスを逃すまいとナキは動き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る