第10話 意外な協力者

 異世界で十一歳になったナキは、相変わらず魔法の練習にのめり込んでいた。

 誕生日の夜に誰から贈られたかわからない金平糖の入った瓶は、アリョーシャに伝えず大事にしまっており、魔法の練習の合間に一日三粒だけ大切に食べていた。


 ナキにとっては亡くなった祖父以外で初めて送られた大切な誕生日プレゼントであったため、アリョーシャに伝えて誰が送ってきてくれたのかわからないものを取り上げられてしまうのだけは避けたかったのかもしれない。


「今から木の手入れに行ってくるから、勝手に出かけちゃだめだよ?

 扉開いていても絶対に出ちゃだめだよ?

 開けた瞬間に変態がいるかもしれないから絶対ぜっったいに出ちゃだめだからね⁉」


「何回も言うなよ! ってか最後のケイコク変に怖いからやめろ!」


 菊見月きくみづきの七こくにナキが外に出ていた事が余程トラウマになったのか、アリョーシャは自分一人で出掛ける際はナキに何度も一人で出かけないように言い聞かせるようになっていた。

 それに対してナキはうんざりしていたが、菊見月の七刻以降、玄関の扉は一度も開くことはなかったため、一人得出掛ける事はできないでいた。


 今日もいつものように仮家の壁を相手に魔法の練習をしていると、呼び鈴が鳴る音が聞こえてきた。

 来客中に仮家内でトラブルが発生防止のためナキとアリョーシャが暮らす第一区の仮家には一度も来客が来た事が無いのだ。


 そのためナキは、玄関の鍵は開いていないとはいえ確認するべきか、そうか仮家のどこかに隠れるべきか、不審者だった場合は魔法で即攻撃するべきか考えこんでいると、突然声が聞こえてきた。


「こんにちはー。誰かいますか?」


(えっ? ダレか入ってきた⁉)


「あっ、ナキ! 久しぶり!」


「アンタは、確か…」


「オーシャよ。オーシャ・メルジーナ。覚えていてくれてた?」


 仮家に入ってきたのは、グロウズ・ガーデンで出会ったオーシャだった。

 オーシャが仮家に入って来た事に対して驚いたため、可笑しな敬語になりながらもナキは鍵が掛かっていた筈の仮家の中にどうやって入って来たのかを訪ねた。


「オーシャさん、なんでここにいるんですか?

 っていうかどうやってこの家の中に入って来たんだよ?」


「どうやってって、普通に入って来たのよ」


「いや、ここの家のカギ掛かってた筈だから、入れない筈なんだですけど…」


「? 玄関の鍵なら普通に開いていたわよ?

 呼び鈴を鳴らしても返事がないし、試しにドアノブをひねったら普通に開いたから誰かいるのかと思ったのよ」


 玄関の扉は普通に開いていたとオーシャから聞いたナキは、驚いて玄関まで行き扉の施錠を確認をした。

 オーシャが言ったように、玄関の鍵が開いていたためナキは一体どうなっているのか訳がわからず混乱した。


 そんなナキの様子を見ていたオーシャは、何をそんなに悩んでいるのかと不思議に思ったが、ナキを落ち着かせ、とりあえずリビングで話をする事にした。

 なんとか落ち着いたナキは、リビングにいるオーシャにお茶を出すと、ナキはオーシャの服装をまじまじと眺めた。

 ナキの視線に気が付いたのか、オーシャはナキに声を掛けた。


「どうしたのナキ? そんなに見つめて」


「えっ? あー、その、最初にあった時とふんいきが違うなぁっと思って……」


 ナキの言う通り、オーシャはグロウズ・ガーデンで出会った時とは違い、茶色のベストにクリーム色のキュロットをメインとした職員用の服ではなく黄緑色をメインとしたクラシカルロリータ風のジャンパースカートを着ていた。

 そのため、再会した時にナキはオーシャが誰なのかわからなかった。

 ナキに自身の服装について指摘されたオーシャは、苦笑いをしながら説明した。


「あぁ、私の服の事ね。私を引き取ってくれた養母ようぼ、お母さんの趣味なのよ」


「成程、お養母かあさんのシュミか……ですか」


 オーシャの口から養母という言葉を聞いたナキは、あえて無視する事を決め込んで本題に入る事にした。

 オーシャが第一区の仮家に訊ねてきたという事は何かしらの理由がある筈だと思ったのだ。


「ところで、オーシャさんはなんでこの家に?」


「あれ以来ずっとあってなかったから気になったのと、魔法について教えてあげようと持ったの」


「まほう⁉」


 ナキに魔法について教えるといったオーシャの言葉に敏感に反応したナキは、信じられないと思った。

スターリットや異世界について詳しく教えられても、アリョーシャは魔法に関しては一切合切教える気配がなかったため、オーシャの申し出は大変ありがたい物であった。


 そこでナキがふと思ったのは、何故オーシャが魔法について教えてくれると申し出てくれたのかという事だった。

 グロウズ・ガーデンでウィンド・ブレード風の刀身を暴発させた事から、他の職員からナキに関する事を聞かされ、ナキに接触した際に魔法に関する事は教えないよう忠告を受けていても可笑しくはない筈だ。

 その事に関してオーシャに聞いてみると、意外な返答が返ってきた。


「確かに、他の人達からナキについて詳しく聞かされたし、魔法を教えるなって注意されたわ。

 でも、そんな事私には関係ないもの」


「関係ないって、俺にまほうについて教えた事バレたら怒られるんじゃ…」


「確かに怒られるかもね。でも、それ以上に貴方に酷い仕打ちをしたディオール王国の方が許せないのよ。

 自分達が異世界から召喚したにも関わらず、自分達の勝手な都合で危険な森に追いやるなんて許される事じゃない。

 そんな連中に仕返ししても問題ない筈よ」


 他の職員からナキが異世界に来た理由を聞いていたオーシャは、まるで自分の事のように怒っていた。

そんなオーシャの反応を見ていたナキは、少し不思議に思った。


 いくらナキが異世界の知識がない来訪者と言っても、普通なら初対面の相手にそこまで入れ込む必要性はない筈だ。

 そのため、ナキは思わずオーシャに対して疑いの目を向けながらも、オーシャにきゅ緑してくれる理由を尋ねた。


「なんで、そんな親切になってくれるんだ…ですか?」


「……今のお養母さんに引取られる前、私自身裏切られた事があるのよ」


「そうだったのっじゃなくて、だったんですか⁉」


「ナキの気持ち、少しだけわかるのよ。

もうずっと昔の事だけど、私も、私を裏切った人に復讐したいってずっと思ってる。

だからナキに魔法を教えようと思ってここまで来たの」


 予想していなかったオーシャの答えに、ナキはすぐには答える事が出来なかった。

 経緯は違うかもしれないが、オーシャもまた復讐したい相手がいる、そのため無実の罪で危険な大海の森に置き去りにされたナキの力になりたいと思ったのだろう。

 しばらく悩んだナキだったが、やはりディオール王国にいる優達が許せないという気持ちが強かったためオーシャの申し出を受け入れる事にした。


「わかった。オーシャさんの申し出、受けさせてもらう…ます」


「そう来なくっちゃ。あと、私の事は普通にオーシャでいいし、敬語もいらないわ」


「助かるよ。俺もちょっと言葉使いで困ってたし。

それよりもグロウズ・ガーデンから抜け出して大丈夫なのかよ?」


「その事なら問題ないわ。私の中で一番信じられる人にお願いして、私がグロウズ・ガーデンにいる事にしてもらっているの。グロウズ・ガーデンにいるお養母(かあ)さんも気づいていない筈よ」


「オーシャのお養母さんもグロウズ・ガーデンで働いてるの?」


「私のお養母さん、情報管理区の区長なのよ」


 オーシャの養母が第二区の区長だと聞いたナキは、先程までのオーシャの告白よりもそちらの事実の方に驚き、声を荒げていた。

 それからしばらくして、オーシャは魔法がどのように成り立っているかについて説明を始めた。


「まず、魔法の属性についての説明からさせてね。

魔法の属性は基本的に炎、水、地、風、氷、雷、樹、花、光、闇の九属性で成り立って、区別をつける時は属性とは呼ばずに~魔法って呼んでいるの。

 炎の適性があれば炎魔法、水の適性なら水魔法って感じね」


「ちょっと待って、ディオール王国で聞いたシンセイまほうが出てきてないし、花まほうなんて聞いた事ないんだけど?」


 オーシャが魔法の属性について説明をし始めると、オーシャの口からは月の至高神と会合した時に判明した優の適性の神聖魔法が出ず、代わりに花魔法という今まで一度も聞いた事が無い名前が出てきた。

 何故そうなったのかわからないナキは、オーシャに説明を求めた。

 そんなナキの質問に答える形でオーシャは神聖魔法、花魔法についての説明をし始めた。


「あ~、その認識は明らかに間違っているわ。神聖魔法なんて最初から存在しないのよ」


「シンセイまほうが存在しない?」


「えぇ。あまり認知されていないみたいだけど、神聖魔法とされているのは全部花魔法なの」


 神聖魔法は最初から存在せず、世間から神聖魔法と呼ばれている魔法は全て花魔法と呼ばれる魔法だという事を知り、衝撃が走った。

 元いた世界の常識が通じないという事は異世界に召喚された時から覚悟していたナキだが、まさか属性まで常識が通じないとは思ってもみなかった。


 それと同時に、花属性について興味を抱いた。

 花魔法が神聖魔法と誤認されていると聞いた時点でだいたいの予想はできていたが、自分が知らないだけで他にも花魔法が存在するのではないかと考えたのだ。


「俺でもその花まほうって使えるの?」


「どんな魔法が使えるかに関しては個人的な問題だから、それは調べてみないと分からなわ」


「こうりつよく覚えるためにも、適正についてははっきりとさせておきたいんだ。

なんとかならないかな?」


「そうね。本当なら専用の魔道具を使うのだけど、流石にそれを持ちだしたらバレちゃうから、シンプルな方法で調べてみましょう」


 そういうとオーシャは、ナキに簡単な魔法の適性を調べる方法を教え始めた。

 その方法は、その属性に関する事をイメージして魔力を放出する、それはナキが優達に復讐を誓った時から自分がどのような魔法が使えるのかを知るために手探りで見つけ出した方法だった。


 それを聞いたナキは、自分がその方法で炎、風、氷、雷の適性がある事が判明している事をオーシャに伝えた。

 それを聞いたオーシャは、それと同じように花を咲かせられるかで花魔法の適性があるかどうかがわかるとナキに教え、ナキは早速花をイメージして咲かせようとした。


 チューリップ、向日葵、百合、桜、椿といった様々な花をイメージしても咲く気配がなかったため、残念ながらナキには花属性の適性がない事が判明した。

 魔法の適性を調べ終えた後、オーシャは魔法の説明に入った。


「適性がわかったから、まずは初級の魔法を習得していきましょう」


「それなら、ブレード刀身系とショット小球系の魔法はもう覚えてるけど?」


「そうなの? ブレード系は中距離型の単体攻撃、ショット系は遠距離系の広範囲の初級魔法に属しているから、あとはブレード系と同じ単体攻撃のショック打撃系とシンプルに魔法を発動させる単体魔法と、攻撃系の魔法から身を守る防御魔法を覚えれば初級魔法は完璧ね」


「ブレードとショットって、初級魔法だったんだな」


 それからナキはオーシャが持って来てくれた魔導書を読みながら、単体魔法と初級の防御魔法の特徴を教わりながら、実際に発動して自分のものにして行く事にした。

 ここで分かった事だが、依然アグニが発動させていたシャドウ・フェンス《影の柵》は中級の防御魔法である事が判明し、何度か適正魔法で発動させた事があったナキは驚いていたと同時に、納得もしていた。


 これまで発動させてフェンス系の魔法は一見問題ないように見えたが、どこか不安定さがあったため初級の防御魔法であるウォール系の魔法を極める事ができれば安定するのではないかと考えた。

 その日は木の手入れに出かけていたアリョーシャが戻ってくる時間帯になり、急な来訪だったためオーシャは第二区のグロウズ・ガーデンへと帰っていった。


(思わぬ形で協力が得られた。これなら強力なまほうも覚える事ができるかもしれない!)


「ただいま~。ナキぃ、いる~」


(とりあえず、ロリババアにはさとられないように気を付けないと…)


 こうしてナキはオーシャという意外な協力者を得て、優達への復讐のために魔法に関する知識をオーシャから教わる事となった。


 次の日も外せない用事があるという事でアリョーシャが出かけてから数分後にオーシャが訪ねて来たので、その時にナキはアリョーシャにオーシャが仮家に来ている事、オーシャから魔法を教わっている事を悟られないようにするために、訪ねてきても問題がない時間帯をまとめた紙をオーシャに渡した。


「それじゃあまずは、昨日話した単体魔法から教えるわね」


「単体まほうってどんな時に発動するまほうなんだ?」


「単体魔法は魔力を持っている人が必ず習う基本中の基本となる魔法なの。使い方としては家事や旅の途中で野宿をする際に使うのが当たり前ね」


 単体魔法が魔力を持つ者にとって必ず習う基本的な魔法だと聞いたナキは、アリョーシャが家事をこなす時はいつも道具を使っていて単体魔法を使っている様子がなかったため、使わないようにして意図的に覚えさせないようにしていたのだと思い腹を立てた。

 攻撃系の魔法を覚えたかったが、今後のためにも極めておいた方が良いと考えたナキはオーシャに単体魔法の詠唱を訊ねた。


「単体まほうのエイショウってどんな感じなの?」


「単体魔法の詠唱は他の魔法と違って凄く短くて簡単なの。炎属性な〝炎よ燃えよ、フレイム〟」


「本当に短いな。よし、〝炎よ燃えよ、フレイム〟」


 オーシャから炎の単体魔法の詠唱を聞いたナキは、早速詠唱を唱えて発動を試みた。

 するとナキの掌で小さな炎が灯り、実際に発動させたナキ本人は呆気に取られ、時間がかかると思っていたオーシャも驚いていたが、グロウズ・ガーデンでの事を思いだしてなるべきにしないようにする事にした。


 それからナキは適正魔法の単体魔法を発動させていき、単体魔法は問題ないと判断したオーシャはそのままショック系の魔法の説明に入った。


「単体魔法は問題なさそうね。次はショック系統の初級魔法について教えるわ」


「確かブレード系と同じ単体こうげき型の初級まほうって言ってたな。

 ブレードとはどう違うんだ?」


「ナキが最初に覚えたブレードは、中距離型と呼ばれていて攻撃力はそこそこだけど対象との距離が開いているときに発動すると有利な魔法なの。

 ショットは至近距離型と呼ばれていて、文字通り対象との距離が開きすぎていると発動できない代わりに、当たればかなりのダメージが期待できる魔法ね」


「つまり、ショットはカクトウ向けのまほうって事か」


 オーシャの説明からブレード系は相手と距離が開いているときに発動させると有利な代わりに攻撃力は普通で、ショット系は至近距離でなければ発動できない代わりに攻撃力はかなりあり、格闘向けの魔法であると理解した。


 各属性のショックの詠唱を聞き、実際に発動させてみると全て発動したが、ナキは少し不安定さを感じたためしばらくの間はショック系の魔法を極める事にした。


 それからアリョーシャの隙をついてオーシャから自分の知らない魔法や、自分が知らない魔法の発動方法を教わり、魔法について学び続けた。

 ナキが初級魔法を一通り極めた後、オーシャから中級魔法を教わる事となった。


「中級魔法では家事や野宿で役立つ単体魔法が消える代わりに、戦闘に役立つ単体魔法や支援系や異常系、忍耐系が存在する付与魔法エンチャントと呼ばれる魔法が組み込まれるの」


(フヨまほう。そういえば……)


 中級魔法から付与魔法が組み込まれると知ったナキは、グロウズ・ガーデンでウィンド・ブレードを暴発させた際に手に入れた付与魔法の事を思いだした。

 オーシャに付与魔法の魔導書の事を伝えるべきか悩んだが、気付かなかったとはいえ勝手に持ち出してしまった事に変わりなく、逆にその事で怒られて魔法を教わる事ができない事を危惧して黙っておく事にした。


「まずは初級魔法と中級魔法の違いから説明するわ。

 中級魔法は初級魔法にあったショック、ブレード、ショット、ウォールの一段階上の魔法になり、名称も少し変わるの」


「めいしょうが変わる? つまりは名前が変わるって事?」


「例えば、初級のブレードは中級魔法ではソード(太刀)に、ショットはアロー《矢》に変わるの。

 中級魔法なだけあってまほうの威力も上がるわ」


「名前が変わるのと、多分いりょくも変わるのはわかったけど、他には何か変わるの?」


「そうね、実際に見せた方が早いかな?」


 魔法の段階が上がると、魔法の名称と威力が変わる事がわかったが、それ以外でも何か変わるのかと疑問に思ったナキの問いに、オーシャは実際に中級魔法を発動させて見せる事にした。

 ナキからアリョーシャの魔法で仮家の壁が全く壊れない事を聞いていたため、オーシャは仮家の壁に向かって中級魔法であるアローを発動させた。


「〝氷よ、鏃となりて敵を射抜け。アイス・アロー氷の矢〟」


 オーシャが詠唱を唱えると、オーシャの頭上に氷でできた三本の矢が出現した。

 それを見たナキはショットでは丸い玉だった魔弾が、矢の形をした魔弾に変わっている事に驚いていた。

 オーシャは発動させた矢型の魔弾を仮家の壁に向かって放った。


 矢型の魔弾はショットよりも速度が速く、仮家の壁に激突すると広範囲で凍り付き、ショットよりも威力がある事が見て取れた。

 一段階上がるだけで名称が変わるだけではなく、魔弾の形が変わり威力がここまで上がるとは思わなかったナキはすぐさまショットとアローの違いを考え始めた。


(ショット系はハンドボール上の大きさでスピードも問題なく認識できるし、はんいはせまいけど初心者向けというのもあって使いやすい。

 アローはマダンが矢の形に変わるだけじゃなく、いりょくが上がってはんいが広がる代わりに、スピードが上がって制御するのがむずかしそうだな)


「もしかして、驚いた?」


「うん、ここまでちがいが出るなんて思ってなかったから。でも少し扱いづらそうだ」


「でも、使いこなせるようになれば使い勝手がいいわ。

それに中級魔法を完璧に覚える事ができれば派生魔法を使えるようになるの」


「派生まほう? それって上級魔法⁉」


 オーシャの口から聞いた事が無い名前の魔法が出てきたため、ナキは派生魔法に興味を示した。

 派生魔法というのは中級魔法の段階でそれぞれの系統から分岐した魔法らしく、属性ごとによって種類が異なっているのだそうだ。


 例えば、フレイム・ソード炎の太刀から分岐した派生魔法はフレイム・サーベル炎の軍刀と呼ばれ、細い刃のような形になりその威力は上級魔法に匹敵し、ウィンドウ・アロー風の矢から分岐した派生魔法はウィンドウ・ギア風の歯車と呼ばれ制御がかなり難しいが、習得する事ができれば自分の意志で自在に操作する事ができ、相手に当たるまで消える事が無い魔法なのだそうだ。


 そしてアグニが使っていたシャドウ・フェンスは闇属性の魔法から派生した影魔法と呼ばれる魔法で、他の属性の魔法をかき消す事ができるため魔法を使う犯罪者の拘束や危険な魔道具の処分などに役立つのだそうだ。

 派生魔法の特徴を聞いたナキは、自分が望んだ強力な魔法を覚える事ができる事に喜び、中級魔法を極めてそれぞれの派生魔法を覚える事を目標とした。


 中級魔法の練習に入ってからは、オーシャからどの魔法をどのタイミングで発動させるべきか、どのような場面で役立つかを教わり、ナキはオーシャに自分が考えた方法が活用できるかを相談しながら魔法の腕を上げて行った。

 第十一区でラジャーロと対戦する事があっても、それを悟られないように気を付けながらもナキはラジャーロの様子を注意部観察し、魔法を発動させるタイミングを見極めた。


「ウィンド・ショット《風の小球》!」


「甘い!」



「(今だ!)〝無よ、敵を撃つ礫になれ!〟」


 ナキはラジャーロの隙をついて無属性のショットを発動させ、ラジャーロの頭上に浮かんでいたマナ・バブルの一つを割る事に成功した。


「なんと⁉」


「よっしゃあ!」


「いつの間にやら腕を上げたようだな。が、これ以上は油断しない!」


 ナキがオーシャから魔法を教わっているとは知らないラジャーロは、使用する魔法を限定し、ナキに新しい魔法を覚えさせないように気を付けていたにも関わらず、ナキの魔法の腕が上がっている事に気付き困惑した。


 これまでのラジャーロとの対戦で一度も割る事が出来なかったラジャーロのマナ・バブルの一つを割る事が出来たナキは、めきめきと魔法の腕が上達している事を自覚したナキは、これならば強力な魔法を覚えてディオール王国にいる優達へ復讐する事ができると喜んだ。


(成果は出てる、この調子でいけばもっと強くなってフクシュウができる!)


 オーシャという協力者を経たナキは、誰にも気づかれる事なく魔法を習得して腕を上げて行き、その度にディオール王国にいる優達への憎悪が増していった。

 復讐するには外へ繋がるポータルを見つけ出す必要がある事もわかっていたため、スターリットからの脱出するチャンスを虎視眈々と伺いながら、魔法の腕を上げて行った。

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