第9話 少し不思議な誕生日
ナキが異世界に召喚されてから月日が流れるのも早く、三か月近くが経過していた。
第十一区でアグニと魔法の訓練をしてから自信がついたのか、ナキはより一層魔法の練習にのめり込むようになった。
アグニが発動したサンダー・ショットのように初歩的な魔法であれば他の属性でも使う事ができるという事を確認したナキは、
それだけではなく、アグニとの魔法の訓練の際に防御魔法を確認する事が出来たナキは防御魔法も覚え、訓練中に思い付いた無属性の魔法と同時進行で練習している。
そして第二区で手に入れた付与魔法の魔導書に書かれている付与魔法の内容も少しずつ覚え、アリョーシャがいない内にこっそりと練習していた。
「今は
首からかけている懐中時計を手に取りアリョーシャが戻ってくる時間帯を確認した。
時間を確認するとナキは取り出していた付与魔法の魔導書をベッドのマットレスと床板の間に隠すとそのまま自室を出てリビングに向かった。
リビングに着くと正面の壁に掛けられているカレンダーが目に入った。
半年近くアリョーシャの授業を受けていたおかげか、カレンダーの読み方にもだいぶ慣れ今が元いた世界で言ういつ頃なのかも把握できるようになっていた。
(今日は
次の日が自分の誕生日がだという事に気付いたナキだったが、まるで他人事のような反応だった。
理由は、現在はディオール王国にいる優達への復讐を目標にしている事と、誕生日を迎えたとしても優のせいで良い思いをした事が無かったからだ。
そんな事を考えていると買い出しに行っていたアリョーシャが戻って来た。
「ただいま~、ナキいる~?」
「自由に出られないのにいなくなるわけないだろ」
「自由に出られるようにして大脱走されたら困るからねぇ。
不満言ってくれるのはありがたいけど、家の家具を壊すのはやめてほしいかなぁ」
買い出しに行っている間に仮家のリビングが変わり果てている光景を見たアリョーシャはボロボロになった家具を見て困り果てていた。
これまでもナキが魔法を使う度に仮家にある家具がいくつも壊れ、家具が壊れる度にアリョーシャが修理していたのだが、家具が壊れるペースがあまりにも早く最初は工具などを使って直していたアリョーシャも今では魔法で直すようになり、はっきり言って新しく買い直した方が早いのではないかと考えるようになった。
「こう私が帰ってくる度に家具が壊されてるの見ると溜まったもんじゃないよ!
毎回修理してる私の気持ちも一回くらい考えてくれないかな?」
「一々うるさいな、どうしようが俺のかってだろ⁉」
「いやそうさせてるのはナキが毎回家具をぶっ壊してるせいでしょうが!」
「うるせぇロリババア!」
アリョーシャがナキに話し掛ける度にどうしても口論に発展してしまう事も既にナキの日常になっていた。
口論が終わるとアリョーシャは魔法でボロボロになった家具を直してリビングを元通りに片付けると、そのまま買ってきた食材の一部をなおして夕食の準備に入り、ナキは自室に戻ると本棚にある植物の図鑑を手に取り机に座って読み始めた。
机のすぐ隣は窓になっており、外から聞こえるにぎやかな声が聞こえ開ける事はできないが外の様子は見る事が出来たため気まぐれに外の様子を眺める事もあった。
不意に外の様子が目に入り、そこには見ず知らずの親子が仲良く歩いている様子で、両親に挟まれる形で歩いていた子供の腕の中にはプレゼントと思われる包み紙が抱えられていた。
「あの子、今日が誕生日だったのかな?」
目の前に映った光景を見たナキは、思わず自分の誕生日の事を思い出していた。
菊見月の七刻はナキの誕生日であると同時に、双子の兄である優の誕生日でもあるため誕生日が来る度に優は盛大に祝われていたが、それに対してナキは全く祝われず、むしろ酷い目にしか会っていない記憶しかなかった。
誕生日が来る度に自宅で優を祝うために親戚やクラスメイト達が集まるのだが、ナキはいつも自室に追いやられるか自宅の外に無理やり追いやられるかして優の祝い事が終わるまで自室から出る事も自宅に入る事も出来なかったのだ。
その度に亡くなった祖父が連れ出したり、迎えに来てもらっていた。
「ナキ~ご飯できたから降りといで~」
「……もう、わすれよう」
夕飯の支度ができたアリョーシャの声が聞こえたため我に返り、どちらにせよ誕生日はろくな思い出がないため考えても無駄だと思い考えるのは止めリビングへ向かった。
食事を終えるとそのまま自室に戻り、眠くなるまで植物図鑑を読み続け眠りにつき、そして菊見月の七刻を迎え、ナキは異世界で初めての誕生日を迎え十一歳になった。
朝食を済ませるとアリョーシャはスターリットの土台となっている木の手入れがあるためすぐに出かけて行き、その間にベッドのマットレスと床板の間に隠していた付与魔法の魔導書を取り出して書かれている付与魔法の内容を覚えようと読み込んでいた。
「ん~、フヨまほうって三つの系統しかないけど、結構使い道がありそうだし使い方が限られているのは勿体ないなぁ……」
付与魔法の魔導書に書かれているのは魔法で攻撃や防御の威力を上げる支援魔法、対象者に何かしらの状態異常を引き起こす異常系統、その異常状態や属性魔法への耐性を上げダメージを軽減させる抵抗系統、基本的にはこの三つの系統に分けられている。
付与魔法の基本的な使用も自分自身に掛ける、対象者に掛ける、武器に付与する三つの方法しかなく、僅かな時間でも毎日のように読み続けて練習を続けていたナキが感じたのは、使い方次第では全く違う効果になるのではないかと考えるようになっていた。
誰かが使用している場面を見る事ができれば何か掴めるかもしれないが、アリョーシャが瞬間移動で第十一区まで移動してしまうので自力で移動できない。
更に、アグニと対戦して以降ナキの相手は第十一区の区長であり警備隊の総隊長でもあるラジャーロになり、いくらナキがラジャーロを追い詰めようとしても素手でいなされてしまい、ラジャーロから新たな魔法を引き出す事はできないでいた。
(せめて自由に出入りができたらなぁ)
そんな事を考えている時に、それは聞こえて来た。
大海の森でサバイバルをしながら南下している時に、何度も身の危険を知らせてくれた警告音が聞こえて来たのだ。
『リィン』
「⁉ ケイコクオン、なんで急に?」
スターリットに来てからずっと命の危険に晒される事はなかったため今まで聞こえなかった警告音が鳴った事に対して驚いたナキだったが、今聞こえている警告班はナキが知っている物とは違いナキを探していた
何故今になって、という疑問を抱いていたナキだったが、警告音はナキを導いているように移動していた。
(今更聞こえて来るなんて、一体何が起きてるんだ?)
半年近く経過して再び聞こえて来た警告音に疑問を抱きながらも、今何が起きているのかを突き止めるために警戒しながら警告音が鳴る方向について行った。
警告音についていく内に辿り着いたのは仮家の玄関だった。
玄関の扉は鍵が掛けられているだけではなく、アリョーシャの魔法もかけられているのか一度も開く事ができなかった。
警告音が何故玄関に導いたのか理解できないナキはその場でしばらく考え込んだが、理由が全く思いつかず自問自答を繰り返すとカチリッと鍵が開いたような音が聞こえて来た。
「カチリッて、まさか」
『リィン、リィン』
扉の鍵が開くような音が聞こえて来た事に対してまさか開いている筈がないと思ったナキだったが、警告音はナキに対して玄関を開けろとせかすようになっていた。
一種の不安に襲われながらも、ナキは覚悟を決めて玄関の扉のドアノブを手に取って動かした。
すると信じられない事が起きた。
「ウソだろ、カギが開いてる⁉」
これまでも玄関から出られないか思いつく限りの方法で脱出を試みたが、一度も成功する事はなくすっかり放置していたが、こんな事は一度もなかった。
そのためアリョーシャがうっかり鍵をかけ忘れたり魔法を掛けなかったりするとは思えなかったが、一人で外に出るなら今しかないと考えた。
ナキは一度自室に戻って鞄を手に取るとすぐにリビングに繋がっている台所へ向かい、パンや果物など簡単に食べる事ができる食料を鞄に詰め込むと急いで玄関へと向かった。
再び玄関先に立つと、服についているフードを被り落ち着いて玄関のドアノブに手を取り、ゆっくりと扉を開いた。
「……本当に出られた!」
信じられないという顔で仮家から外に出たナキは、少しの間呆然と玄関先で立っていたが耳元でせかすように警告音が鳴ったため我に返り、玄関の扉を閉めると急いで仮家から離れた。
相変わらずナキを導くように警告音は移動しながらなっており、ナキは警告音に対して疑問を抱いていた。
(前はマモノっぽい生き物とかが近くに来るとはげしくなる以外では一度もならなかったのに、全然理解できねぇ。
けど、大海の森でも聞いていた時と同じでふしぎと怖くない)
警告音に対して不思議な疑問を抱きながらも周りにいる人々に怪しまれないようにナキは必死に警告音の後を追う。
フードを深く被っているというのもあるかもしれないが、周りの人々がいつ自分の存在に気付くかわからなかったため周りを警戒していたにも関わらず第一区の町で過ごしている人々はナキが一人で行動している事に全く気付いている様子はない。
どころか、第一区の警備を担当している警備隊とすれ違っても全く気付かれなかった。
その事に気付いたナキは警戒を解き、第二区以来の一人行動を堪能し始めた。
「いつも同じ場所にしか行かなかったけど、この町ってこんな感じになってたんだな。
おっ、あそこにいるのって天人族か翼人(ユイレェン)かな?」
久々の一人行動であったためかナキは自分の知らない物や種族の姿が目に映るとその場に留まってじっくりと観察していた。
周りの様子を観察していると、警告音が一定の方向に向かってなり始めたため、その方向を確認してみると広場の入り口のような物が目に映った。
その広場は町の外にあり、その事に対して違和感を抱いたナキは確認するために町の外の広場の方へと移動した。
外の広場の入り口には出入り口には看板が立てられていて広場の名前も記されていた。
「何々、『第一移動用ポータル広場』? ポータルってなんだ?」
「すみませ~ん、私達果樹園と穀物畑がある第二農業区に行きたいんですけど、どのポータルに入ればいいですか?」
移動用ポータルという言葉に対して疑問を抱いたナキだったが近くで観光客と思われる一組のカップルが近くにいた警備隊員に声を掛けた。
そのカップルは観光客でありながらポータルについて何か知っているようだった。
「それでしたら、あちらに立っている
なお、右隣のプルメリアのツリーゲートは海魚の養殖場となっている第一養殖区となっておりますのでご注意ください」
「時計草のアーチですね。ありがとうございます」
「早く行きましょう。人気スポットだから順番待ちで日が暮れちゃうわ!」
カップルは第二農業区と呼ばれる区画への生き方を警備隊員から聞くと、教えられた時計草のアーチに向かって歩き出した。
ナキはポータルについて知るために不審に思われないよう、カップルが時計草のアーチをくぐる様子を伺う。
すると、突然アーチが青白く光り始めたためナキは驚いて声を上げそうになったが、声を押し殺してカップルの様子を伺った。
カップルは何のためらいもなく光り出したアーチに向かって歩みを止める事なくそのままくぐっていき、アーチの光が消えると同時にカップルの姿は消えていた。
(何が起きた? 光って消えたと思ったらさっきの人たちの姿が何処にもない⁉)
時計草のアーチをくぐったカップルの姿が消えた事に驚いたナキは、落ち着いて周りの様子を観察し始めてみると、時計草のアーチ以外にも様々な植物で作られたアーチや花壇、ツリーゲートなどが光を放ち、そこから人が出入りをしている様子が見て取れた。
そこでナキは、ポータルというものがスターリットの各区画への移動手段であるという事に気付いた。
「(アーチやかだんの関連性は兎も角、さっきの光がポータルで他の区への移動手段になってたのか。
待てよ?
スターリット自体木の上に建ってる訳だし、そう簡単に登れないけどポータルさえあれば簡単だよな。
って事は……) スターリットの外に出られるポータルも存在してるって事じゃないか!
」
人々が普通にポータルを使って出入りしている様子を観察している内に、スターリットの外へ行くためのポータルも存在している可能性に気付いたナキは、第一ポータル広場を確認し、どのポータルが外への出入り口になっているのか確認した。
しかし、第一ポータル広場に存在しているポータルの数は全部で七つしかなく、第二、第三のポータル広場がある筈だと考えたナキは急いで他のポータル広場を探しに向かったが、その前に仮家から持ち出して果物とパンで軽い昼食をとる事にした。
(いつもシュンカンイドウでクンレン区に連れて行かれてたせいで気付けなかったけど、わかったからには場所をトクテイすれば問題ない。けど……)
ポータルの存在を知った事で、ナキはスターリットの外へ繋がるポータルの場所を知る事ができれば、あとはそこから外に出てディオールへ向かう事ができる。
しかし、今はまだその時ではないとナキは思った。
理由としては魔法が使えるようになったとはいえ、覚えられたのはごく僅かでしかない。
どちらにしても元いた世界に帰る事ができないのはディオール王国にいる優達も同じ事であるため、時間は十分にあると考えたのだ。
(今は外へつながるポータルを見つけて、なんとか強力な魔法を覚える方法を考えないと……)
自分が今優先すべき事を考えていると近くで騒ぎ声が聞こえてきたため、何事かと思ったナキは食事を中断して騒ぎ声が聞こえて来た方向へ向かうと、そこでは第一区の住人と思われる男と他の区から来たと思われる魔族らしい男が魔法を発動して争っていた。
一方でナキと同じように騒ぎを聞きつけて駆け付けたと思われる数名の警視隊員が防御魔法を発動させて野次馬の如く集まっている人々に魔法の流れ弾が当たらないようにしていた。
一体何が原因で魔法を使用した喧嘩に発展したのかと考えていると、その答えは近くにいた人々が話している様子から判明した。
「一体何だってこんな昼間から喧嘩してんだあの兄ちゃん達。しかも魔法まで使って」
「なんでも今警備隊に保護されてるエルフの娘さんが鬼族のあんちゃんが第五区から運んできた乳製品をダメにしちまったのが原因みたいだぞ」
「落とした本人はちゃんと謝っていたけど、第一酪農区から運んできた牛乳が入った箱を二箱も落っことしちゃったせいで物凄く怒ってるみたいよ」
「しかも、あのエルフの娘の婚約者が竜族の男だったせいでややこしくなってこうなったみたい」
「嘘でしょう? だって竜族の番(つがい)に手を出すのって神子や愛し子に手を出すのと同じぐらい危険だって常識だよね?」
周りから神子という言葉を聞いたナキは、自分が優に巻き込まれて異世界のディオール王国に召喚されるきっかけになったフェイリースにいるという神子の事を思いだした。
ディオール王国にいる優達に復讐する事がきっかけになり、フェイリースの神子と関わる事になるかもしれないという可能性に気付き、目の前で起きている竜族と呼ばれた男と魔族の男の争いの激しさを見て神子に手を出す事がいかに危険かという事を自覚した。
そんな中で争いを止めようと仲裁していた警備隊がこのままでは町の住人が危険と判断したのか、リーダーと思わしき警備隊員が現場に駆け付けていた二名の警備隊員に指示を出し、魔法を発動させた。
「
「
「
最初の一人が魔法を発動させると同時に争いをしている竜族の男と魔族の男の二人の間が突然光り出した。
魔族と竜族の男は突然の事で思わず怯み、その隙に残りの二人が別の魔法を発動し竜族の男と魔族の男を捕え、ナキが第十六区の病院にいた時にも使用された魔封じが施された拘束具をつけるとそのまま他の場所へと移動していった。
ナキは三人の警備隊員が発動させた魔法を見て、そのうちの一つが異常系統の付与魔法であると気づき、他の魔法に至っては自分の知らない魔法であったため内心喜んでいた。
(まさかこんな形で新しいまほうを見られるなんて思わなかった。
しかもうち一つは異常系統のフヨまほう、これは良いしゅうかくだ!)
パラライズという付与魔法を実際に見る事が出来ただけでなく、残る二つもナキが知らない魔法であったためこれで優達への復讐の幅が広がったと喜んだ。
その中で、ナキが特に気になったのがバインドという竜族と魔族の男達を捕らえた魔法。
一見鎖のように見えたが、実際はかなり頑丈らしく対象者を無傷で捉えるのに適した魔法なのだろうが、ナキは付与魔法に対して思いついた考え同様、対象を拘束する以外でのバインドの使用法を考えていた。
(他のゾクセイが使えればバリエーションが広がるんだろうけど、こればっかりはどうしようもないか。
こうなるとフヨまほうを沢山覚えて、使えないゾクセイの分おぎなう必要があるな。
それよりも外へのポータル探しと強力なまほうを覚える方法を考えないと……)
そう考えていると、なんの前触れもなくナキの腹の虫がなった。
「……それよりも先に、昼飯の続きかな」
竜族と魔族の男の件かを見に行っていたため、ナキは近くのベンチに座り中断した昼食の続きを食べ始めた。
昼食を終えた後、ナキは他のポータル広場を探しつつ自分が知らない見た事や聞いた事が無い異世界独特の食べ物や道具などを見ながら第一区を探索しているうちに時間は流れ、すっかり日が暮れていた。
その事に気付いたナキは流石に仮家に戻らなければ後々面倒になると考え、仮家に戻ろうとしたが時すでに遅く、振り返るとそこには般若のような形相をしたアリョーシャの姿があった。
「こんの、お馬鹿ぁあああああっ!」
ナキが仮家から姿を消してからずっと探していたのであろう、アリョーシャは思わずナキに怒鳴り散らしていた。
それから仮家に戻り、一時間かけてナキはアリョーシャに叱られて夕飯は抜かれる事となってしまった。
アリョーシャに叱られた挙句夕飯を抜かれたナキは自室のベッドの上でふてくされていたが、再び警告音が聞こえてきたため慌てて飛び起きた。
『リィン、リィン』
「また警告音。今度は何があるんだ?」
ナキは自室を細かく調べて周り、何か変化がないか確認していたが特にそういった事はなかった。
そこでもう一回警告音がナキの後ろで聞こえたため、ナキは振り向いてみると一つの変化に気付いた。
いつも本を読む時やこれまでの魔法の成果を記録するためにノートに書きまとめる時に使う机の上に、小さな包み紙が置かれていた。
(変だな。さっき調べた時には見当たらなかったのに……)
その事に疑問を抱き、ナキは風の魔法を包み紙周辺に発動させて、何か怪しい仕掛けがないかを確認した。
特にそういった事は起こらなかったが、風の魔法で確認した後も慎重に包み紙に近付き、恐る恐る包み紙を手に取った。
包み紙自体は軽く、問題はないと確信したナキは包み紙を開けて中身を確認してみる事にした。
そして包み紙の中身は、ナキがよく知っている物だった。
「……! こんぺいとうだ!」
それは、元いた世界で亡くなった祖父とよく食べていた金平糖だった。
異世界に金平糖があるとは思っていなかったナキは、自分の手の中にある色とりどりの金平糖が入った瓶に目を奪われていた。
勝手にいなくなった罰として夕飯を抜かれていたため、ナキは躊躇う事なく一粒の金平糖を口に含んだ。
異世界で作られたものであるためか、口に含んだ金平糖はほんのりと苦く、けれども甘かった。
それからいくつか金平糖を食べた後、金平糖の入った瓶に蓋をして机の中に大切にしまった。
(今日は少しふしぎな事だらけだったけど、じゅうじつした一日だったな、こんなに気分の良い誕生日は初めてだ)
そんな事を考えていたナキは、最終的にはアリョーシャに叱られてしまった事など気にする事なく、そのまま眠りについた。
後日、菊見月の七刻がナキの誕生日であった事を知っていたのか、アリョーシャの表情がいつもよりも暗く、その日の夕飯が少しだけ豪華だった。
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