第8話 気付かぬ才能

 訓練区と呼ばれる第十一区の区長でもあり、警備隊の総隊長でもあるラジャーロが訓練の開始を宣言すると同時にナキは間髪入れずにウィンド・ブレード風の刀身を発動させた。

 アグニの頭上に浮かぶマナ・バブルに一直線に向かうもアグニは動じる事なく何かの魔法の詠唱を唱え、自身のマナ・バブルの周囲に黒い壁を張り巡らせた。


 一見ただ黒いだけの薄い壁化と思いきや、ナキのウィンド・ブレードがぶつかった途端、ウィンド・ブレードは壁を突き破る事なく瞬時に消えてしまった。


 自分の魔法が消えてしまった様子を見たナキは何が起きたのか理解できなかったが、考える暇なくアグニが魔法を発動させて作った黒い玉で攻撃して来たため氷の魔力で自分のマナ・バブルを守るように氷の壁で覆ったが、アグニが放った魔法は氷の壁にぶつかる事なくそのまますり抜けるように貫通してナキのマナ・バブルの一つの横を通り過ぎた。


「すりぬけた⁉」


「んっ?」


「少し位置がずれてしまいましたか。ですが、軌道を修正すれば問題ありませんね」


 幸いにもアグニも魔法はナキのマナ・バブルの横を通り過ぎただけで済んだらしく、ナキのマナ・バブルはまだ一つも割られてはいなかった。

 それを見たナキは少し安心したが、すぐさま自分の攻撃が通らず、氷の壁をすり抜け香華お気を仕掛けてきたアグニの魔法について考え始めた。


(ウィンド・ブレードはまちがいなくはつどうしていた。

 なのにあいつのかべにぶつかったとたんにすぐ消えた。

 それに氷のかべも即席とはいえちゃんと張れたはずなのに、はばまれることなくすりぬけてこうげきしてきた。

 まほうのとくちょうというより、あいつのゾクセイのとくちょうか?)


 ナキはアグニの魔法が、使用した魔法の特徴というよりも属性の特徴ではないかと考え始めた。一方で、アグニはナキの事を機に止める事無く次の攻撃のために詠唱を唱え始めた。


「〝雷よ、つぶてとなり敵を撃て〟。サンダー・ショット雷の小球


 アグニは静かに詠唱を唱え終わると、目の前には三つの電気の玉が現れナキのマナ・バブルめがけて飛び出した。

 それを見たナキは最初に張った氷の壁を溶かさないように炎の魔力での壁を張り、飛んできた電気の玉を防いだ。


 幸いにも今度の攻撃は最初の攻撃の時とは違い貫通する事はなかったためしっかりとマナ・バブルを守れた事が確認できた。

 そしてナキはすぐさまアグニが唱えた魔法の名前を唱える。


「サンダー・ショット!」


 ナキがそう唱えると、次の瞬間には先程アグニが放った電気の玉がナキの周りに十個ほど現れた。

 それを見たラジャーロは目を見開いて驚き、アグニに至っては顔にこそ出てはいなかったがナキがサンダー・ショットを発動した事に対して驚いていた。


 ナキは二人の反応などお構いなしにすべてのサンダー・ショットをアグニのマナ・バブルに向けて放つが、これもアグニが張り巡らされた壁によって消されてしまった。


「これもだめかよ!」


「先程私が唱えたのを見聞きしただけで使えるだけでなく、それだけの魔弾を出せるとは、少々驚きましたよ」


「そりゃどうも。サンダー・ショット!ウィンド・ブレード!」


 アグニの言葉を気にしながらも、ナキは休む間もなくサンダー・ショットとウィンド・ブレードを放つもやはりナキの放った魔法は全てかき消されてしまった。


 アグニもナキに対抗するように魔弾と呼ばれる最初に放った黒い玉をナキのマナ・バブルめがけて放ち、ナキももう一度アグニの攻撃を防ごうとサンダー・ショットで追撃しようとするも、その追撃すらもすり抜けて遂にナキのマナ・バブルの一つに直撃し、最初の一つが割れてしまった。


「ようやく一つ、割れたか……」


「クソッ、先をこされた!」


「このまま早急に終わらせます。雷よ、礫となり敵を撃て。サンダー・ショット」


 ナキのマナ・バブルの一つを割る事に成功したアグニはナキに余裕を与えまいと残りのマナ・バブルを割るべく攻撃を継続した。

 これ以上、割られる訳にはいかないという思いからナキも必死に応戦してアグニのサンダー・ショットを自分が発動したサンダー・ショットで撃ち落としながら自分もアグニのマナ・バブルに攻撃を仕掛ける。


 それでもアグニの魔力の壁によってナキの魔法は全て消されてしまう。

 一見、ナキはがむしゃらに攻撃を仕掛けているように見えるが、実際の所アグニの魔法の特徴を観察して対抗策を考えていた。


(あのかべの色からして、あいつが得意なのはきっとヤミゾクセイ闇属性

 それにさっきからサンダー・ショットとかいうまほうを使っているから多分カミナリゾクセイ雷属性のまほうも使えるのはまちがいない。

 それからあの黒いかべはぼうぎょケイトウのまほうのはずだけど、問題はヤミゾクセイのまほうがどういったものなのか。

 ゲームじゃどくとか人をあやつることができるみたいなのが特ちょうだったけど、その常識にとらわれるな、冷静に考えろ!)


 自分の攻撃が全く通用しない事を自覚していたナキは、アグニの属性と使用している魔法を予想し、どのように対処するべきかを考えていた。

 大海の森で常に危険と隣り合わせの状態でサバイバルをしていたおかげか、自分の方向に魔法が飛んできているにも関わらず全く怯む事はなかった。


 ウィンド・ブレードを覚えてから考えていた事に関してはまだ確認しようとはしていない。

 理由としてはあくまで仮説であり実際に魔法を発動させる必要があるし、まだ闇属性の特徴と対策が思いついていないという事もあり、まだ実行するべきではないと考えていた。魔法の訓練といってもナキにとっては魔法を覚える数少ないチャンス。


 必死の攻防を繰り広げている内に、アグニのサンダー・ショットが数発ナキのマナ・バブルの一つに当たり、残っていた二つのうちの一つが割れてしまった。


「俺のマナ・バブルがっ!」


「ようやく二つ目。残るマナ・バブルは一つ……っ!」


 二つ目のマナ・バブルが割られ、残るは一つだけになってしまった事に対してナキは思わず怯んだ。

 怯んだナキの様子を見たアグニはチャンスとばかりに攻撃を仕掛けようとしたのだが、そこでラジャーロがナキとアグニが予想だにしていなかった言葉を放った。


「制限時間残り五刻み! 時間がないという理由で決して焦るな。

 焦れば重大なミスをすると思え!」


「もう半分切ってたのかよ⁉」


「これは予想外ですね」


 審判をしていたラジャーロから設けられていた制限時間が間もなく五分を迎えると聞いたナキは驚き、アグニは少々焦っていた。

 アグニの中ではもっと早く決着がつくと思っていたのだろうが、魔法に関しては初心者である筈のナキにてこずるとは思っていなかったようだ。


 ナキ本人は気付いていないようだったが、エルフというのは魔法にたけた種族であり、闇妖精族のアグニに至っては警備隊の中でも魔法の扱いはかなり上手いため初心者が相手をすれば瞬殺されるのが当たり前の結果になる。


 だが、アリョーシャと共同生活をするようになってからナキは粘り強くアリョーシャの魔法が施された仮家の壁を攻撃していた結果、発動した魔法の威力が通常の初心者よりも強くなっていたのだ。


(語り部様が言うには魔法の勉強はさせていない筈。

 なのに、彼のウィンド・ブレードやサンダー・ショットの威力が既に中級の魔法使いと同じくらいの強さなのは何故だ⁉)


(あいつ、さっきよりもよゆうがなくなってる? 理由はわからないけどチャンスだ!)


 ナキの魔法の威力が高い事に困惑しているアグニの様子を見たナキは、余裕がないのだという事に気付きサンダー・ショットを何度も発動させてその量を増やし始めた。

 最初にサンダー・ショットを発動させた時の魔弾の量は十個ほどだったが、連続で発動させた事によってその数は百近くの雷の魔弾を作り出していた。

 その数を見たラジャーロとアグニは声を上げて驚いていた。


「なんだあの量は⁉」


「は、えぇっ⁉」


「からの、ウィンド・ブレード!」


 百近くの雷の魔弾を作り出したナキは休む事なくウィンド・ブレードを発動させ、一気に攻撃を仕掛け始めた。

 いくらアグニでも百近くの雷の魔弾による攻撃は想定外すぎたらしく、すぐには対応できなかった。


 最初に張られた黒い壁は百近くある雷の魔弾を数発受け止めていたが、六十発を超えた時点で黒い壁は霧散すると同時にナキのウィンド・ブレードがアグニのマナ・バブルの一つに直撃して割る事に成功した。

 その事に対してナキは喜ぶどころか、自分の魔法がアグニのマナ・バブルに直撃させる事ができた事に対して驚いていた。


「まほうが通じた! なんで⁉」


 アグニのマナ・バブルが割れたのを見て、自分の魔法が届いた事だけはわかったナキだが、まだ闇属性の魔法の特徴に関してはまだ解き明かす事ができておらず、困惑していたが黒い壁が霧散した時の事を思いだしある事に気付いた。


「(もしかしてあの黒いかべ、こうげきを受けすぎたせいで消えた?

 もしそうだとすればボウギョケイトのまほうには、タイキュウセイがあって限度があるかのうせいがある。

 このおくそくが正しければ……!) まだ勝てるかのうせいがある!」


 アグニのマナ・バブルを守っていた黒い壁がこれ以上の攻撃に耐えきれず消えてしまったのではないかという事に気付いた事により、属性が関与しているかまではわからないが魔法の壁には耐えられる限度が存在するのではないかと考えた。


 その答えに行きついたナキは自分にはまだアグニ勝てるチャンスがある可能性を見出し、すぐサンダー・ショットを数回発動させていくつもの雷の魔弾を作り出した。

 それを見たアグニはこれ以上の攻撃は許すまいと新たな詠唱を唱え始めた。


「〝影よ、我を囲う柵となりて守りたまえ〟。シャドウ・フェンス影の柵


 アグニは新たな詠唱を唱え終わると同時に、シャドウ・フェンスと呼ばれる黒い柵がアグニのマナ・バブルを守るように覆う。

 ナキは数回発動させたサンダー・ショットで作り出した雷の魔弾は先程よりも多く、誰がどう見ても百を軽く超え、下手すれば三百を超えているのではないかという数が浮かんでいた。


 それを見たアグニは明らかに普通ではない事を感じ取り、もう一度シャドウ・フェンスの詠唱を唱え発動させて守りを固め始めた。

 ラジャーロに至っては信じられないといった様子でその様子を呆然と見ていた。


 ナキは迷う事無くアグニのマナ・バブルに向かって雷の魔弾を放ち、アグニのマナ・バブルを守るシャドウ・フェンスにぶつかる。

 最初の黒い壁のようにナキの攻撃をかき消していったが、三百近くある雷の魔弾を前に耐えきれなかったのかシャドウ・フェンスの一つが霧散して消えてしまった。


(やっぱりタイキュウセイには限度がある!

 でも何度大量のこうげきをしかけてもげいげきされてすぐ張り直されるのがオチだ!)


 大量の雷の魔弾でアグニのシャドウ・フェンスが霧散したのを見たナキは、自分の読み通り防御魔法にはその攻撃に耐えきれる限度があるのだという事を確信したが、既に指定された制限時間は半分を切っていた。


 何か打開策はないかと考えていると、ふと第十六区の病院で拘束されていた時の事を思いだし、ウィンド・ブレードを覚えてから考えていた事とは別の事を思いついた。

 その考えは確証もなく、あまりにも無謀であるという事はわかっていたが今の現状を打開するにはそれしかないとナキは思った。


「サンダー・ショット! サンダー・ショット! ウィンド・ブレード!」


 ナキは再びサンダー・ショットを五回とウィンド・ブレードを発動させた。

 最初にサンダー・ショットを発動させた時には雷の魔弾は十個しかできなかったが、どういう訳か一度発動させただけでニ十個の雷の魔弾ができるようになっていた。


(たった一度で二十の魔弾⁉ 先程までは確か十だった筈なのに!)


(この短期時間で魔弾の数を増やした、というよりしたのか⁉)


 ナキが発動したサンダー・ショットによって作られた雷の魔弾の数が二倍になったのを見たラジャーロとアグニは、ナキの成長速度に驚かざるを得ない状況だった。

 ナキはそんな事など気にする事なくサンダー・ショットとウィンド・ブレードをアグニが守るマナ・バブルに向かって放つ。


 それに対して先程まで驚いていたアグニもナキのサンダー・ショットとウィンド・ブレードを追撃するべく先程まで慌ててサンダー・ショットを発動させる。

 その様子を見たナキはすぐさま先程思いついた方法を実行に移した。


「〝無よ、礫となり敵を撃て!〟」


 ここで初めてナキは詠唱を唱えての魔法を発動したが、その詠唱を聞いたラジャーロとアグニはナキが何をしようとしているのかわからなかった。


 次の瞬間、ナキの周りには空間が歪んだような部分がいくつか現れたが、すぐにその歪みは消え、何も起こらなかった事に対し混乱したラジャーロとアグニだったが、ナキのウィンド・ブレードが残っていたシャドウ・フェンスに直撃し霧散すると同時に二人が理解できない事が起きた。


アグニのマナ・バブルの一つが前触れもなく勝手に割れてしまったのだ。

 自身のマナ・バブルの破裂音を聞いたアグニはすぐさま後ろを確認して、マナ・バブルが一つしかない光景に驚きを隠せないでいた。


「そんな……私の、僕のマナ・バブルが割られている⁉」


(一体何が起きた? 警備隊でかなりの魔法の腕を持つアグニが遅れを取った⁉)


「よっしゃあ!」


 自分が発動させた魔法が上手く発動しただけではなく、アグニのマナ・バブルを割る事が出来たナキは初めて歓喜した。

 成功するかわからない魔法を練習なしで発動させるのはやはり不安だったのだろうが、それが成功した途端ナキは自分でも知らない内に声を出していた。


 そしてナキはもう一度同じ詠唱を唱えて魔法を発動させると、審判をしていたラジャーロはナキの周りを注意深く観察し始めた。

 そしてナキの周りに先程と同じ歪みが生じ、その歪みをよく見ている内にある事に気付いた。


「あれは、魔力マナの歪み? いや、あれは、属性・・ない・・魔弾か⁉」


(まさか病院での脱走経験がこんな形で役立つとは思わなかった!

 あの時はそういうの気にせずマナを放出してたけど、そのままのマナをほうしゅつするだけなら、ゾクセイなんか関係ない!)


 ナキが第十六区での病院で拘束されていた時、魔封じが施された拘束具を破壊する際に魔力を放出する事でそれらを破壊していたが、その時は属性を意識していなかった事を思いだし、属性が存在しない攻撃であればどうなるのかという疑問が浮かんだのだ。

 アグニが唱えたサンダー・ショットの詠唱の一部を変え、実践してみた結果見事アグニのマナ・バブルを割る事が出来たのだ。


(どうなるかわからなかくて不安はあったけど、ゾクセイがないまほうは見つけにくいのかもしれない!)


 無属性の攻撃を仕掛けた方が有効出来だという答えに辿り着いたナキは発動した無属性の魔弾をアグニの最後のマナ・バブルめがけて放つ。

 それに対してアグニは詠唱を唱える暇なくサンダー・ショットと黒い魔弾を発動させ、全てとはいかないが次々とナキの無属性の魔弾を打ち落としていく。


「まさか無属性の攻撃を仕掛けて来るとは想定外です。

 けれど! 無属性と言えど魔法である事に変わりはない! 魔力さえ感じとればげいげきは可能です!」


(確かにその辺も考えてた。いくら見つけにくいと言っても一度見つければあとは簡単だ。

 けどその辺のたいさくはとっくに思いついてるんだよ!)


 一見アグニがすぐ対処できたように見えるが、ナキの中ではそれも想定していた事。

 無属性の攻撃の最大の長所は見えない事、その長所を活かすには他の魔法を同時に発動してその中に隠してしまう方が確実だという事をナキは気付いていた。

 ここでナキは、遂にウィンド・ブレードを覚えてからずっと考えていた事を実行に移す。


「サンダー・ショット! ファイヤー・ショット炎の小球! アイス・ショット氷の小球

ウィンド・ショット風の小球!」


「……えっ?」


「馬鹿な! ここで他の属性による攻撃だと⁉」


 突然ナキがサンダー・ショット以外の魔法を発動させた事に驚きの表情を見せたラジャーロとアグニ。

 これまではグロウズ・ガーデンで偶然覚えたウィンド・ブレードとアグニ発動していたのを見て覚えたサンダー・ショット。


 そして訓練中に発動した無属性の攻撃以外の魔法は使えない筈が、ナキは何の問題もなく魔法を発動させた。

 その証拠にナキの周りには炎、氷、風といった雷以外のいくつもの魔弾が出来上がっており、その数も普通では考えられない量になっていた。


「〝無よ、礫となり敵を撃て〟」


 いくつもの魔弾を作り出したナキは、無属性の魔弾を作り出す詠唱を静かに唱えると、他の魔弾に比べると無属性の魔弾は数が少なく、その少ない無属性の魔弾をナキの周りに浮かぶいくつもの魔弾の中に紛れ込ませる。

 あまりの魔弾の数の多さに混乱していたアグニは対応に遅れ、無属性の魔弾を見分ける事が出来なくなっていた。


「しまった!」


「これで、決めてやる!」


 ナキは何の迷いもなく大量の魔弾をアグニのマナ・バブルめがけて放った。

 その大量の魔弾は弾幕の雨となってマナ・バブルだけでなくアグニにも襲い掛かり、アグニもこれでは自分が危険だと判断し自分の身を防御魔法で守る。

 魔弾の雨が降り注ぎ、その衝撃で砂煙と爆風が巻き起こっていた。


 ラジャーロはこれではいくらアグニでもひとたまりもないと判断しアグニを救出するべく魔弾の雨の中に向かって走り出す。

 ナキはマナ・バブルを割る事に夢中になっていたためその事に気付かず、魔弾の雨を止める事はなかった。


 魔弾の雨の中に飛び込んだラジャーロは、アグニを脇に抱えた状態で脱出する事ができたが、ナキの魔弾にいくつか当たったのか体のあちこちに擦り傷のような物ができており、救出されたアグニに至っては気絶していた。

 そして魔弾の雨が止む頃にはアグニの陣営は訓練を始める前の光景とは全く違い、ほぼ半壊していた。


 ナキはアグニのマナ・バブルを割る事が出来たのかどうかすぐに確認しようと風の魔法で砂煙を吹き飛ばした。

 砂煙を晴らし辺りを確認すると、辺りにはどこにもアグニのマナ・バブルが見当たらず、それを見たナキは自分が勝ったのだと確信した。


「よっしゃああああああっ! 勝った、勝ったぁああああっ!」


 魔法を使った試合で、初めて勝利したナキは歓喜の声を上げた。


「(ずっと考えてた仮説も証明できた、思い付きのまほうも成功した、何より初めてのじっせんで勝った!) これならあいつらへのフクシュウも……」


 自分の考えていた仮設や訓練中に思い付いた無属性の魔法の成功、何より自分よりも魔法の実力があるアグニに勝った事に歓喜したナキ。

 それによって自信がついたナキは、このまま魔法の訓練を続けて行けばディオール王国にいる優達への復讐は可能だと考えた矢先、突然強烈な眠気に襲われた。


「あれ、なんだ? 急に、眠く……」


 強烈な眠気に襲われたナキは、理由も原因も考える暇なくそのまま意識を失い、その場で眠ってしまった。

 その後ろには、仮家の家具を修理していたアリョーシャの姿があった。


 どうやらナキを襲った強烈な眠気の正体はアリョーシャの魔法だったようだ。

 ナキを魔法で眠らせたアリョーシャは、眠ってしまったナキを抱き上げると気絶したアグニを抱えたままのラジャーロのもとに駆け寄った。


「ラジャーロ、大丈夫?」


「自分はなんとか。しかしながら、アグニが……」


「かなり魔力を消費したみたいだけど、幸い魔力マナ枯渇こかつは起こしてないみたいだね」


 気絶しているアグニの様子を見ながら、問題はないとラジャーロに伝えたアリョーシャは、ほぼ半壊したような状態のトレーニングルームのありさまを見て自分の腕の中で眠るナキを見つめた。

 トレーニングルームを半壊させたのがナキであるという事を理解していたらしく、その顔は深刻な表情をしていた。


「ナキのストレスを発散させるのに良かれと思ったけど、逆効果になってしまったみたいだね。

アグニには悪い事をしてしまったわ」


「しばらくはアグニも立ち直れないかもしれませんな。それよりも語り部様、聞いてほしい事があります」


「聞いてほしい事、それはナキに関する事でいいの?」


「ナキ少年の訓練のためにターゲット・ロッドでマナ・バブルを作らせたのですが、あそこに浮かんでるマナ・バブルがナキ少年の物です」


 ラジャーロの視線の先には、魔弾の雨で起こった爆風で上空に飛ばされたナキのマナ・バブルがあった。

 アリョーシャはナキのマナ・バブルを見て目を見開いた。

 割れずに残っていた事よりもその色を見て衝撃を受けたらしく、言葉をこぼした。


「何あれ、あんなに綺麗な蒼銀色見た事ない」


「色と属性の関連性に関してはアグニがうまく誤魔化してくれましたが、訓練を開始する前に指定した数を超えた量を作り出して余分な分を素手で割っていたのですが、強化魔法を使用しなければ割る事ができませんでした」


「嘘でしょ? それ何かの冗談?」


「嘘ではありません。その証拠に序盤でアグニのシャドウ・ショット《影の小球》がかすめたにも関わらず全く割れなかったのです。

 それだけ質のいい魔力を持っているのです、ナキ少年は」


「今後のためにも訓練中の様子も詳しく聞かせて」


 ラジャーロからナキの魔力に関する情報を聞いたアリョーシャは今後ナキをどう育てるか考えるために、自分がいない間に行われた訓練中の様子を詳しく聞き始めた。

 ナキがアグニの様子を観察しながら新たな魔法を覚えた事や、無属性の魔法を使用した事、加えて他の属性の魔法を使用した事だけでなく、信じられない成長速度を聞き、アリョーシャは自分の判断を間違えてしまったのではないかと思った。


「色々教えていたから賢い子だとは気付いていたけど、とんでもない事になったかもしれない」


「ナキ少年自身気付いていないようですが、気を付けた方が良いでしょう。

 単刀直入に申し上げます、ナキ・カムクラ少年は魔法の天才です」


 想定外な所で判明したナキの才能に頭を悩まされる事となったアリョーシャは、今までのような逃げた時に捕まえて注意するだけではなく、これからのナキの行動に気を付けなければいけないと悟った。

 そして問題となっている本人は、アリョーシャの腕の中でぐっすりと、けれど幸せそうな様子で眠っていた。

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