第2話 危険と救い

 ナキがディオール王国と追放されてから一週間が経とうとしていた。

 生前の祖父から教わったサバイバル術のおかげでなんとか息永らえ、少しずつながら南に進んでいた。

 少しずつ南に進みながら、ナキは身を守るために簡易的な武器を作り、取りずらい食料や生きていくのに必応な素材の確保、歩くのに邪魔になる雑草を刈るなどしていた。


 木の蔓を利用して木の実などを持ち運べる籠を作ったり、瓢箪ひょうたんに似た植物を見つけ、使えそうなものに飲み水を入れておける水筒にするだけでなく、子供でも扱える大きさの弓矢を作り鳩ぐらいの大きさの鳥を捕まえて食べていた。

 ここまでくると、もはや小学生がやる事ではないのだが、命の危機に立たされているのでそんな事すら気にする余裕はナキにはない。


「今日はここまでの方が良いかな、ちょうどねどこになりそうな場所もあるし」


 ナキは日が暮れ始めたのを確認し、近くに寝床として使えそうな木の洞を見つけたナキは野宿を始めようとしたのだが、ナキの耳に笛と鈴の音が重なるような音が激しくなる音が入ってきた。

 それを聞いたナキはすぐに周りを見渡し、近くの木に登り息を潜め暫くすると、茂みの方から巨大な熊が現れた。


熊はのそのそと歩き、そのままナキが寝床として使おうとした木の洞に入っていった

 木の洞に熊が入っていくのを見たナキは、ゆっくりと木から降りると熊を刺激しないようにその場から離れて行った。


(あそこはクマのすあなだったのか。ケイコクオンが聞こえなかったらかみ殺されてた!)


 警告音というのは、食料や飲み水を確保する際に時折聞こえてくる鈴の音の事だ。

 この一週間、ナキが何かしらの食べ物を確保する際に笛と鈴の音が重なるような音が激しくなる時とならない時があった。


 先程のように寝床として使えそうな場所を見つけた時にも聞こえてきたため、試しに近くの茂みに隠れていると猛獣が現れたのを見た時は肝が冷えた。

 これまでの経緯から、鈴の音は何かしらの理由で身に危険が迫った時にのみ聞こえてくるため、ナキはそれを警告音と捉える事にした。


(今思うと、ついほう初日に見つけたキノコはどくキノコだったのかもしれないな。

 次の日見つけたキノコの時はケイコクオンが聞こえなかったし)


 そう思いながらナキは他の寝床を見つけて火おこしをしていたのだが、警告音に対して疑問に思っている事もあった。

 警告音が異世界独特のものだというのならまだ納得できたのだが、ナキが優に巻き込まれる形で召喚される前にも警告音は聞こえていた。


 それだけではなく、その警告音は勇者と呼ばれた優や同級生達、そしてディオール王国の人間には聞こえていなかったようにも見えたため何かしらの条件が揃うと聞こえるのではと考えていた。

 警告音のおかげもあって、ナキは安全な食料を手にする事ができていたが、身の安全の方は完璧とは言えなかった。


 武器の類ができてから時折鳥などを狩って解体している最中に血の匂いに釣られた獣や魔物と思わしき生物が現れる事の方が多く、適性がなく、その上子供であるナキには為す術がないため、せっかく手に入れた獲物をその場に置いて逃げなくてはいけないため、あまり肉などのタンパク質にはありつけてはいない。


 他にも水場を見つけた時は水中に危険な生物などもいたり、移動している最中に得体のしれない植物なども見つけたため、警告音があったとしても常に命がけの移動になっていた。


(この世界のちしきをつける前にほおり出された時はどうしようかと思ったけど、ケイコクオンのおかげで なんとか生きていけてる。

 なんとか人がいる場所に着ければいいけど)


 自らの判断で南に進む事に決めたナキだったが、未開拓の森の中という事もあり人がいる場所を見つける事が出来ないでいたため自分の判断が間違っていたのではないかという不安を抱いていた。

 なんとか人がいる場所に行きたいのだが、この世界の地図を持っている筈もなく地形に関しても知らないため仕方がない事なのかもしれない。


 しかし子供で、しかも異世界から双子の弟、優に巻き込まれる形で召喚されたせいで元いた世界の常識が通用しないだけでなく、常に命の危機に晒されているナキからすればなんとしても人がいる場所に辿り着きたいという気持ちが強かった。


「そろそろねなきゃ、明日いどうするのに体力が持たなくなる」


 翌日の移動のために眠る事にしたナキは、眠っている間少しでも獣や魔物に襲われる危険を少なくするために寝床の周りに近くで切り取った大きめの木の枝や草などで隠し、寝床で横になった。


(優たちはいまごろ城でゆうがな生活を送ってるんだろうな。

 どうして俺ばっかりこんな目に合うんだろ……)


 生きて元いた世界に帰ると気丈に振舞いながらもやはりそこは子供。

 優と同級生達がディオール王国で身の安全を保障された生活を送っているのに対して命の危機に立たされている自分の状況の違いに不満を抱き、獣や魔物に襲われるかもしれない恐怖心から弱気になりかけたナキは、疲れが溜まっていた事もありそのまま眠りに着いた。



*****



 その日の夜、ナキは懐かしい夢を見ていた。

 それはナキが小学五年生に上がる前であり、ナキと優の祖父が亡くなる数日前の出来事で、祖父は病室のベッドの上にいた。

 祖父の体は病魔に侵されていてナキが小学四年生の時に発覚したが、既に完治の見込みはなく、手遅れの状態であった。


 それでも祖父は生きる事を諦めず病気を治すために毎日通院していたのだが、老体の体にはきつく、亡くなる二か月前に入院を余儀なくされた。

 物心ついた時から祖父はナキの両親である自分の娘夫婦と同居しており、いつも優を優先する両親とは違い祖父はナキと優と接する際どちらか片方に肩入れする事はなく、周りが何を言おうと褒める時も叱る時も常に平等に接していた。


 常に自分を優先されるのが当たり前の日常になっていた優はそんな祖父の対応を不服に思っていたが、ナキからすれば祖父がちゃんと自分の事を見てくれているというのがわかったため、その対応が嬉しくて仕方がなかった。


『じいちゃん、だいじょうぶ?』


『おぉ。ナキ、来てくれていたのか』


『うん、今日はじいちゃんの大好きなようかん持って来たんだ』


 祖父が入院してからは最初こそ毎日のように祖父のもとに足を運んでいたが、そこでも優は祖父に対して毎日のように我が儘を言っていたため、ナキ自身は少しでも祖父への負担を減らすために来る回数を制限していた。


 周りの人々はそんなナキの対応を見て「不謹慎だ」、「酷い子だ」と非難の言葉を口にしていたが、祖父自身はナキの対応が少しでも自分への負担を減らそうとしている物だという事を理解していたため、何も言わないでいた。


『心配かけてすまんなぁ。祖父ちゃんの事は気にせず毎日来てもいいんじゃよ』


『ううん、俺まで毎日来てたらつかれるでしょ?』


『そうはいってもなぁ、祖父ちゃんからすればナキだけ毎日来てほしいと思てるんじゃ。

 他はちとのぅ……」


 自分を気遣い来る回数を減らしているナキに対し、毎日のように来る優や娘夫婦に対してはあまりいい感情を抱いてはいなかったらしく、途中から言葉を濁した。

 祖父が何を言いたかったのかなんとなくわかっていたナキも追及する事はせず、少ない小遣いで買った羊羹を皿に乗せて祖父に手渡した。


 目の前にいる祖父は気丈に振舞っているが、少しでも病気の進行を遅らせるために薬を投与し続けた影響ですっかり衰弱しているのがわかった。

 その事をわかっていたナキは、常に優と分け隔てなく自分に様々な事を教え、味方でいてくれた祖父がいなくなってしまうという恐怖を覚えた。


 誰からも認めてもらえなくても頑張る事が出来たのは祖父がいたからこそなのだ。

 その祖父がいなくなる、頭の中ではわかっていてもどうしても信じられないという気持ちが勝り、その時ナキは思わず祖父にこう言った。


『……じいちゃん』


『ん? どうしたナキ?』


『じいちゃんは、いなくなったりしないよね?

 俺、まだじいちゃんに色んなこと教えてほしいよ、まだじいちゃんといっしょにいたいよ!」


 その声は小さいながらも、祖父が入院して以来いう事が無かった精一杯の我が儘だった。

 それを悟った祖父は、どこか悔しそうな表情ながらも俯いたナキの頭を優しくなで、ナキに対してこう言った。


『ナキ、これだけは忘れるな。努力は必ず報われる。

 本当のナキをちゃんと見てくれる友がきっと現れる』


 祖父のその言葉を聞いたナキは顔を上げて祖父に抱き着こうとしたが、その瞬間に夢から覚めてしまい、祖父に抱きしめられる事はなかった。

 目を覚ましてすぐには理解できず祖父の姿を探したが、周りの様子を見てここが異世界であった事を思いだし、落胆した。


「じいちゃん、会いたいよ……」


 亡くなった祖父に会いたいという気持ちを呟いたナキは、泣きたい気持ちを押し殺して収穫していた木の実などを食べるとそのまま力なく移動を開始した。



*****



 ナキが追放され南に移動し始めてから一か月近くが経とうとしていた。

 懐中時計が手元にあるため正確な時間を計る事が出来ても、一か月近くも森で過ごすとなれば時間の感覚に支障をきたす。

 現にナキは既に何日森で過ごしているのかわからなくなり始めていた。


「今日は多分、元いた世界で言う月曜日。追放されて、何日目だっけ?」


 小学生でありながらここまで生きていられているのは不思議なくらいではあるが、数えきれない程の命の危機に立たされたせいでナキは心身ともに限界が近づいていた。

 いまだに人がいる場所に辿り着く事ができず、来ている服も所々擦り切れており、靴に至ってはもう履いてはいられないくらいにボロボロになっていた。


 だが、ここで靴を捨てるとなれば足を保護するものがなくなり、裸足の状態で移動すると足を怪我してそこから菌などが入り込んで病気になるだけでなく、最悪の場合底から壊死が始まるかもしれない可能性も捨てきれないため、履きずらくても履き続けるしか選択肢はなかった。


 何より食料を探しながらの移動ともなると集中力など使うため精神的にもかなり疲労していたため、かなり参っていた。


(これ以上のいどうはむりだ。どこか安全な場所を見つけて体力をかいふくしないと)


 このまま移動したとしても無駄に体力を消費するだけだと判断したナキは、安全な場所を見つけそこで食料などを集めながら体力を回復しようと考えた。

 そんな時だった。


 ナキの身の危険を知らせる警告音が鳴り出したのだ。

 しかも、今まで聞こえてきた中で一番激しくなっていたためそれを聞いたナキは酷く混乱した。


「嘘だろ⁉ ただでさえ体力がないのに!」


 身の危険となる原因を把握しようと周りを確認するが、それらしいものは見当たらず余計に訳が分からなくなっていた。

 体力が少なくなっている時に身の危険が迫っているナキは冷静に判断する余裕はなく、すぐにその場を離れる事が出来なかったのだ。


 ナキが混乱したまま周りを見ていると、周りから聞こえていた警告音が頭上に移動した事に気付き、恐る恐る視線を上に向けると、信じられない光景が目に入ったのだ。


「……ふぇ?」


 思わず間抜けな声を出してしまうナキ。

 それもその筈、ナキの目に映ったのは、魔物と思われる今まで見た事が無い大きさをした巨大な鳥だった。


 巨大な鳥を目の当たりにしたナキは驚きのあまり硬直してしまい、更に困惑した。

 一方、上空にいる巨大な鳥はというと、しばらくはその場でホバリングしていたのだがナキの姿を捕らえると、鳴き声を上げたと思いきやそのままナキに向かって降下し始めたのだ。


「クェーッ!」


「うっうわぁああああああああああっ!」


 最初こそ巨大な鳥の存在に驚きその場で硬直していたナキは、巨大な鳥が自分を狙っているのだと分かると一気に死の恐怖に襲われ、体力の限界など関係なしに走り始めた。

 今までは地面で生活しているような獣や魔物だったため、近くにいたとしても刺激しないように離れていたため余裕で逃げる事ができたが、今回の様に上空から危険が迫るなどという事は初めてだったため対処する事は出来なかった。


「来るな! 来るな! 食うならほかの生き物にしろよぉおおおおおっ!」


 もし捕まれば確実に巨大な鳥のエサにされてしまうという考えが頭の中を埋め尽くし、ナキは助かりたい一心で無我夢中で道なき道を走る。

 しかし、所詮は子供。

 今まで努力してきたため他の同年代の子供よりも体力はある方だが速く走れる訳もなく、更には追放されてからずっと移動し続けてきたため、体力の方もそんなに残っていない。


 そんな事など気には留めず疲れている事も忘れ、体中に傷がつこうとも必死に走るナキ。

 助かりたい、死にたくない、そんなナキの思いもむなしく、巨大な鳥の右足がナキの体を捉えた。


「あっ?えっ?ぎゃああああああっ!」


「クェーッ!」


 捕まった当初は何が起きたのかわからないでいたが、自分の体が宙に浮いている事を知ったナキは自分が巨大な鳥に捕まったのだと理解した。

 一方、ナキを捉えた巨大は何処か機嫌が良さそうな鳴き声を上げると一気に上昇し、方向転換し、そのまま移動を開始した。


 巨大な鳥が上昇した事も方向転換した事も気付いていないナキは、このままでは自分がエサとして食い殺されてしまうという恐怖から、自由に動く手足をじたばたとさせて必死に逃げようと足搔いた。


(このままじゃこいつに食いころされる。

 そんなのいやだ、死にたくない、死にたくない、死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!)


「はなせっ⁉ はなせっ⁉ はなせって言ってるだろうがぁあああああっ!」


 ただ助かりたい一心で暴れるナキ。

 自分を捉えた巨大な鳥の足首辺りを叩いている時に更に混乱する出来事が起きた。

 ナキの右手が巨大な鳥の足首辺りに触れたと同時に爆発が起きたのだ。


 突然の攻撃にナキを捉えていた巨大な鳥も驚き、思わず捉えていたナキを話してしまった。

解放されたナキも自分の何が起きたのか理解できず、目を見開いて困惑した。


「(何が起きた? 今ばくはつしたよな? よく分からないけど、あのでかい鳥からにげられた!)

 やった、やった!これで助かる……っ!?」


 巨大な鳥との距離が離れていくにつれて巨大な鳥の足から解放されたという事だけわかり、助かったと喜んでいたがそれもすぐに消えた。

 捕まると同時に混乱していたせいで地上との距離がある事に気付いていなかったナキは、目線を下に向けた瞬間想定外の高さを見て、再び死の恐怖に晒された。


「ぎゃああああああああああああああっ!?」


 自分が地上からかなり離れた状態で解放されたことを知った途端、ナキの体は地上めがけて真っ逆さまに落ちて行った。

 地上は大小様々な木で覆われた森だが、運よく木に引っかかってクッション代わりになったとしても、ナキの現在の高さと落ちる速度が速すぎるため助かる可能性がない。


 完全に想定外すぎる展開にナキは意味もなく体をばたつかせていたが、どちらにしても無意味な行動でしかなかった。


「(やばいやばいやばいやばい! このままじゃ かくじつにらっかしする⁉いやだいやだいやだいやだいやだいやだ!)

 誰か助けてくれぇええええええええっ!」


 森には誰もいない事はわかっていながらも助けを求めずにはいられなかったナキは、声の限りに叫んだ。

 地上との距離がだいぶ近付いてもう助からないと思われたその時、落下し続けるナキの体に僅かながら風が巻き起こった。


 その風はだんだんとナキの周りに行き渡り、ナキの体がその場で一番高い木に接触する頃には風によって完全に包み込まれていた。


 そのままナキは木に引っ掛かり、落下の勢いはナキの体を包む風と枝に遮られるようにして落ちていく。

 それを感じたナキはもしかすれば助かるかもしれないという気持ちが芽生え、地面が見えたと同時に受け身の態勢に入った。


「うぎゃっ!」


 体に強い痛みを感じたナキは、しばらくの間動けずにいたが目線だけを動かして何とか状況を確認した。

 自分の体が地面にある事がわかったナキは、地上に戻れた事に安堵した。


「うぐっく……っゲホッゲホッ!俺、生きてる?

 (あの高さじゃもう助からないと思ったのに、なんでだ? さっきのばくはつと変な風が起きたこととかんけいが?)」



「クェーッ!」


 完全に助からないと思われた状況で助かったナキは、自分の身に起こったことが理解できず混乱していたが、頭上から巨大な鳥の鳴き声が聞こえてきたため、巨大な鳥が諦めずに自分を探している事を悟った。


 受け身で着地したせいで痛む体にムチ打って起き上がったナキは、見つからない内に急いでその場から離れた。

 安全な場所を確保するどころか目指していた南の方角も完全に見失ったナキは、死にたくない思いで目の前を走った。


(痛い、つらい、だけど、今立ち止まったらこんどこそ食いころされる。動け、動け!)


 何時しか巨大な鳥は姿を消し、日は完全に落ちて辺りは暗くなってもナキはそのまま走り続けた。

次第にナキの視界は歪んでいき、呼吸もままならない。


 体は既に限界を超えており、足がもつれて倒れてしまってもなお、這ってでもナキは前に進んだ。

 死にたくない、生きたいという生への執着がナキを突き動かしていた。


「(死にたくない、死にたくない……)  誰か、助けて……」


 再度人がいない状況で助けを求めると、ナキの耳に警告音が聞こえた。

だが、その警告音は激しく鳴らず、ナキを励ますように優しい音を発していた。

 やがて警告音はナキから少し離れた場所で優しくなるようになり、ナキは警告音の方に向きを変えて進むと、少しずつだが警告音はナキと距離をとってなるようになった。


 まるでナキを導くように鳴り続けるその音に、一か八かナキは自分の命を警告音に託す事にした。

 少しずつ進むも、体力の限界を超えているナキの意識はいつ途絶えても可笑しくはなかったため、ほぼ運頼みのようなものだ。


 朦朧とする意識の中で、自分を導く警告音の他にもう一つの警告音が耳に入ってきた。

 それだけではなく、ナキの耳には二つの警告音の他に人の声が混ざっていたのだ。

 近くに人がいる、このチャンスを逃せば今度こそ助からないかもしれない、その事に気付いたナキは最後の力を振り絞り、大声で近くにいるであろう人に助けを求めた。


「たすけて、たすけてくれーっ!」


 ナキの喉は乾ききり、大声で助けを求めた直後に激しく咳き込んだ。

 ナキにはもう動くだけの体力も声を出す気力もなくなり、意識が途絶えるギリギリの状態だった。


 生きたいというナキの思いが伝わったのか、人の声と足音が聞こえて来た。

 かすむ視界にいくつかの明かりが映り込んだ事から、相手は1人だけではなく、何人かいるのだという事がわかった。


「み……たっ! ……にた………っ!」


「……うか!」


「…ご……しょう…………ぶな……か⁉」


「そ……が、……てる……っ!……うぶっ⁈ …………してっ!」


 ナキを見つけたのであろう相手は、倒れているナキを見て驚いているように思えた。

 相手は近くにいた仲間を呼び寄せ、自分もまたナキの傍により、ナキの安否を確かめるために声を掛けるが、ナキの耳は相手の言葉を正確に聞き取ることができなくなっていた。

 反応を見せないナキを見て不安に思った相手は、ナキを抱き寄せて顔に手を当てる。


 それに必死に答えようと、ナキはまだ開いている眼を動かして自分が生きている事を伝えた。

 ナキの目が動いている事に気付いた相手は歓喜の声を上げているように感じ、次第にナキの周りに人が集まってくるのを感じた。


(人が、たくさんいる。俺、たすかるんだ……)


 追放され、一か月近く森を彷徨い、巨大な鳥に捕まってエサにされかけただけではなく、挙句の果てに上空から落とされるという恐怖を味わい、ようやく人に会えた事に安堵したナキは、そのまま意識を失った。

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