第1章
第1話 理不尽な追放
召喚された際にいた部屋の中には、ナキ達が林間学習の時に着替えなどの生活用品の鞄とは別に個人的な物が入っている鞄があったため、ナキはすぐに自分の鞄を回収するとこの世界で生きていくための行動に出た。
この世界の知識を得るにはまず文字の理解が必要になるため、城内に備えられた図書館で働く司書からなんとか学べる事になった。
次に、ナキは祖父から習った護身術がこの世界では通用しない可能性も考慮してディオール王国の騎士から武術を学ぼうとしたが、こちらは勇者である優と加護を得た同級生達が魔法を使う事ができる騎士のもと訓練をしていたのだがナキの場合、適性がないという事で省かれてしまった。
流石に武術を習えないのは痛手なので、ナキは目にはいる騎士に片っ端から声を掛け、苦労の末になんとか武術を教えてくれる騎士を見つけ、武術を学ぶ事ができるようになった。
しかし、城で働く者や騎士達のナキを見る軽蔑の眼差しは相変わらずのままだ。
(笑いたきゃ笑え、俺はぜったいに生きて帰るんだ!)
そして一番重要なのは、現在いるディオール王国と隣国フェイリース王国の情報だ。
フェイリース王国に至っては
ディオール王国に関しては、国王と謁見した時にナキが神官長に訊ねた質問に対して、神官張本人がすぐに答えなかった事に関してどうしても信頼できないでいたのだ。
ディオール王国の情報を集めている内に、ディオール王国には奴隷というものが存在する事を知り、人間以外の種族を捕まえては奴隷にしているらしく、現に城の中ではそうであろう獣人を何人も目撃していた。
「おい、勇者様達が召喚された直後に大規模な奴隷狩りが発令されたが、奴隷の補充はどんな感じかわかるか?」
「陛下が各王子達に命令して獣人を含めた亜人共の捕獲命令を出してる。
陛下直々の命令なんだ、減った分の人数ぐらいすぐに戻るさ」
ディオール王国の人間達の話では獣人は大変野蛮な存在と言われているが、ナキから見た獣人達の様子は皆疲れ切っている感じがあり、顔には怯えと絶望感を感じたため、獣人が野蛮な存在であるという認識は間違っているのではないかと思うようになった。
(やっぱり国王と神官長は何かかくしてる。
俺たちがショウカンされた直後にだいきぼなドレイガリが発令されたのも気になるな、ショウカンと何か関係があるのか?)
ナキは図書館で今まで集めたディオール王国の情報をまとめていく内に、国王と神官長が何か隠しているのではないかと考えていた。
するとそこに、訓練を終えたのであろう優が王太子の同伴のもと同級生数名と共に図書館へとやってきた。
優はナキの姿を確認すると、必ずと言っていい程に話し掛けてくるのだ。
「ナキ、またべんきょうしてるの?
僕達これから王都にあそびに行くんだ。
せっかくイセカイに来たんだからナキも勉強なんかしないであそびに行こうよ」
「俺からすればひつような事なんだよ。
こっちの世界の事何も知らないんだ、お前らも少しは読み書きができるくらいの努力をしろよ」
しつこいくらいに自分を誘ってくる優に対し、ナキは邪魔だと言わんばかりに睨みつける。
ナキが優や同級生達と異世界のディオール王国に召喚されてからの待遇は、ナキの予想通りかなりの差があった。
ナキに割り当てられた部屋は城で働く使用人に与えられる部屋で、食事なども普通の物であったのに対し、同級生達には貴族などが使用する来客用の部屋が割り当てられたようだった。
弟の優に至っては、勇者という事もあり一人だけ広々とした部屋が用意されただけではなく、優専用の付き人に優が欲しいと言った物は何でも揃えられるという王族並みの待遇を受けているようだった。
自分には余裕がないという事を理解していたナキには優達の待遇に羨ましいなどと思う事はなかった。
「なんだよ、せっかく優くんがさそってくれてるのにそのたいどは」
「大体アンタにはテキセイないから女神様のかごもらえなかったじゃない。
サイノウナシなんだから大人しく言う事聞きなさいよ」
「本当にサイノウナシのくせにむかつくたいどだな」
「月の至高神様と勇者様の好意のおかげでここにいられる事を忘れたのか?」
相変わらず、同級生達に理不尽な理由で絡まれたり文句を言われているナキは、これまでのように冷たい態度で無視していたのだが、そこにディオール王国の王太子も加わってさらに面倒くさい事になっていた。
「勇者様、このような者に構う必要などありません。早く王都に行きましょう」
「ん~、しかたないか。王都に行きたくなったら僕に声をかけてね」
王太子に言われそのまま王都に行く事にした優は、そのまま王太子と同級生達と共に図書室から出て行った。
ディオール王国に召喚された初日に、死んだ祖父の姓を名乗った事と生まれつきの眼力のおかげもあり、優とは双子の兄弟であるとは思われてはいないようだ。
もし最初から才賀と名乗って優の双子の兄弟だと知られていたら、今よりもっと冷遇されていた可能性が高いため、ナキはできる限り優との接触を避けていた。
これは噂でしかないのだが、元いた世界同様に優の周りに人が集まり始めたらしく、その中には先程の王太子やナキ達と歳が近いディオール王国の王女も紛れ込んでいるようだ。
(少しはききかん持てよアイツら、王太子は大人だからまだだいじょうぶかもしれないけど、王女に手を出したとなるとぜったいただじゃすまないぞ!)
その事に対して腹を立てていると、ふとこれまでの流れを思いだした。
元いた世界では優本人が起こした問題は全てナキに押し付けられてきた。
現在ナキがいるのは異世界の王国、しかも王族が暮らしている城に居候状態、もしこんな場所で優達が起こした問題を立場が悪い自分のせいにされてしまえば今までのようにはすまされない。
そこに王太子と王女も加わり、これまでの王太子の様子を観察した結果、王太子たちも優を優先している様子だった。
これは国王と神官長とは違った意味で警戒する必要があった。
「あいつら、ここでもんだい起こさないよな……」
そんなナキの思いも空しくディオール王国に召喚されてから数日がたったある日、その事件は起きた。
自分に割り当てられた部屋で起きたナキは、用意された寝間着から昨日の内に洗っておいた自身の服に着替え、そして時間を確認するための懐中時計を服の中に隠すように首にかけ、私物が入った鞄を手に朝食をとるため食堂へ行こうとしたが国王から呼び出しがあった。
不審に思いながらもそのまま召喚以来訪れなかった謁見の間へ向かうと、そこには国王と王太子、何故か同級生全員に大勢の騎士や兵士達の姿があったのだが、優と王女の姿は見当たらなかった。
すると兵士の一人が耳を疑う事を話し始めた。
「貴様は勇者様と月の至高神様の恩恵で衣食住を与えられているにも関わらず、勇者様に危害を加えようとした、身の程を知れ!」
「はぁ⁉」
自分が優に対して危害を加え等とした事になっていると知ったナキは、身に覚えのない罪に酷く驚いていた。
何故子供の自分がそんな大ごとを起こさなければならないのかわからなかったが、目に入った同級生達を見た途端、その理由が分かった。
同級生達はクスクスと笑いながら自分の方を見ていたため、ナキは自分が同級生達に嵌められたのだという事がすぐに分かった。
恐らく共に行動している王太子に何かしらの嘘を吹き込んだのだろう。
そしてその嘘を王太子が真に受けて国王に報告し今の状況になったと分かったのだが、その段階で国王も王太子もしっかり裏付けをとっているとは思えなかった。
「こいつは優くんと自分のあつかいがひどすぎるって一人でブツブツと言ってました!」
「それでこのサイノウナシは、優くんの事ぜったいに許さないって言ってるのをまちがいなく聞きました!」
「このように証人もいます。
陛下、いくら子供でも我が国と神子を救う勇者様に危害を加える輩には重い罰を与えるべきです!」
ナキが発言する暇もなく周りは勝手に話を着々と進めていき、無実だというのに子供であろうとも罰を与えるべきだという騎士の発言にナキは最悪な事態を予想した。
しかしそこで口を挟んだのは、意外にも王太子であった。
「本来なら奴隷に堕とすべきだろうが、身近に危害を加えようとした不届き者がいると知れば勇者様も心が休まらないでしょう。
陛下、この者は森の奥深くに追放するべきです」
「うむ、神子救出を兼ねているからな。その方がよかろう」
ナキの処罰が森への追放に決まり、周りの騎士や兵士達はざわついていたのを見たナキは、その森が魔法を扱える者でも危険な場所だという事を否でも自覚した。
そしてナキは抵抗する事も出来ずに懐中時計以外の私物を取り上げられ、子供だというのに理不尽にも縄で縛り上げられた。
「待ってくれ! なんで俺が優にきがいを加えなきゃいけないんだ!
それ以前に優は今の状況知ってるのか⁉」
「お前が優くんにひどい事しようとしたのを知って落ち込んでるんだよ!」
「今は王女様がかんびょうしてくれてるけど、すごいショックうけてたんだぞ!」
「優君をうらぎった事、こうかいしなさい!」
同級生に言いくるめられ、ナキは取り上げられた自分の私物の返却を求めたのだが兵士はナキの言葉に聞く耳を持たず、何処からともなく取り出したハンカチで口と鼻を押さえつけられた。
ハンカチを押し当てられると同時に急に意識が朦朧とし始め、ナキが大人しくなったのを確認すると他の兵士が持って来ていた麻袋にナキは詰め込まれた。
(ちくしょう、なんで俺がこんな目に。俺が何したっていうんだよ!)
ただ生きて帰るために努力していただけだというのに、優と同級生達のせいで国外追放になると思っていなかったナキは心の中でそう思いながら、そのまま意識を失った。
*****
次にナキが意識を取り戻した時には、どれだけの時間が流れていたのかわからなくなっていた。
(俺、どれだけねてたんだ? それになんか、ゆれてる気がする)
大分城から離れたという事はわかったのだが、懐中時計が見れないため正確な時間がわからなかった。
麻袋に詰め込まれているせいで外の様子を確認できなかったが、ガタガタと自分の周りが揺れているため自分が馬車か何かに乗っているのではないかと考えていると、突然揺れが止まった感じがした。
そして荒々しく扉が開くような音がした途端、ナキは袋詰めの状態で持ち上げられると同時に放り出されるような衝撃を受けた。
それからすぐに、近くで話声が聞こえてきた。
「おい、早く戻るぞ。この森は上位種の魔物が出る筈だ」
「そうだな、ずっとここにいたらただじゃ済まなさそうだ」
「勇者様を手に掛けようとした罰をその身を持って償えよ罪人」
袋からナキを出さないまま不吉な言葉を残して兵士達は去っていった。
兵士達が去っていった事を確認したナキは、今自分がいるのは王太子が言っていた森であると知ると、このままではいけないと脱出するために麻袋の中で暴れまわった。
(早くロープをといてふくろから出ないと、いつマモノにおそわれるかわからない!)
先程の兵士の会話で上位種の魔物という単語が出てきた事から、ナキがいる森にはそれなりに強い魔物がいるようだ。
このままではいけないと悟ったナキは、麻袋からの脱出を試みた。
だが、ナキが確実に魔物や獰猛な獣の餌食になるように兵士達は麻袋の口とナキの両手足を縛る縄をきつく結んでいたようだ。
麻袋の中で暴れている内に疲れが溜まっていくだけで半場諦めそうになった時、両手首を縛る縄が緩くなった気がした。
(両手首の部分が軽くなった? もしかして!)
そう感じたナキは、もしかしての可能性に掛け両手首に力を込めると、両腕を縛っていた部分が完全に解けた。
それを皮切りにナキは自分自身を縛る残りの縄を解き始めた。
自分自身を縛っていた縄が完全に解けたのを確認したナキは身の安全のために急いで麻袋の口部分を探し始めた。
手探りで麻袋の中を確認していると、何の前触れもなく袋の口が相手ナキは何時間ぶりに袋の中から出る事が出来た。
「出られた⁈ アイツら、あわててたからちゃんとかくにんしてなかったのか…?」
麻袋の口が開いた事に驚いていたが、ナキは自分の状況を思い出し、急いで周りの確認を行った。
王太子が言っていたように、ナキが置き去りにされた場所は森で言う深い場所のようだ。
ナキは追放される前に集めた情報からこの森に関する事を必死に思いだし、ここはディオール王国もフェリーティア王国も手を付けていない未開拓の地である事を思い出した。
隠すように首から下げていたため、唯一手元に残った懐中時計を手に取り壊れていないのを確認すると、城からここに来るまでの時間を確認した。
「午後四時十七分。たしかつかまる前にかくにんした時は、午前の七時三十分ピッタリだったはず。
予想よりかなり時間がたってる……!」
自分が予想していたよりも時間がたっている事に驚いたナキは、空を見上げて日が暮れ始めているのを確認し、懐中時計が正確な時間を刻んでいる事を思い知らされた。
そんな深刻な状況を裏切るようにぐぅっとナキの腹の虫が鳴いた。
朝から何も口にしていない事を思いだしたナキは、気持ちを落ち着かせて周りの音に耳を傾けた。
(本当はその場を動かない方が良いんだけど、今は安全な場所と食料のかくほが先だ。
今日何も食べれなかったとしても、せめて水だけでも見つけないと)
サバイバルで一番重要なのは、その場を動かずに助けを待つ事、その次に安全な場所の確保と食料であると教わったナキは何処かに川などがないかを音で確認した。
しかし水が流れるような音はせず、近くにはないのだと確認すると近くに引き返したような馬車の車輪後を見つけたナキはその反対方向に向きを変え安全な場所を探すために動き始めた。
車輪跡が示しているのは、ディオール王国の方角。
今更ディオール王国に戻ったとしても余計に命の危険に晒されるのが目に見えているため、逆に確実に森を移動した方がまだ生き残れる可能性があった。
(じいちゃんから教わったサバイバル術が役に立つ時が来るとは思わなかったけど、生きのこれるかのうせいはまだあるな)
安全な場所を探している道中、自生しているキノコを見つけたナキはそのキノコが安全に食べれるかを確認するため収穫しようとした時、ナキの耳に召喚される前に聞こえた鈴の音が聞こえて来た。
召喚される前の時と同様、笛と鈴が重なるような音は激しくなり続ける。
驚いたナキは周りを確認するが誰もいないにも関わらず、ずっと聞こえている笛と鈴の重なるような音に困惑した。
ディオール王国にいる間は聞こえていなかったため、一時的な物だと思い気にしていなかったのだが、今になって再び聞こえて来た事に対して恐怖を覚えた。
「なっなんでまたこの音が⁉」
何もない森の中で聞こえて来た笛と鈴の音に恐怖を覚えたナキはキノコの収穫を諦め、急いでその場を離れた。
すると不思議な事に、激しくなり続けていた笛と鈴の音が鳴りやんだ。
鈴の音が聞こえなくなった事にも驚いたナキは、一体自分の周りで何が起きているのか分からずもう一度周りを確認していると、今度は野苺を発見した。
「あれは、野イチゴ? いちおうかくにんしてみるか……」
そう思いナキは近くに何もいない事を確認すると、そのまま野苺が生っている木に近付いた。
見かけはナキが知る木苺のような見た目をしており、ほんのりと甘い香りもした。
恐る恐る、野苺を一粒手に取り、口の中に入れる。
すぐにでも吐き出せるように軽く噛んでみると、意外にもみずみずしく、果汁も甘かったためためらう事なく飲み込んだ。
これは食料になると確信したナキは、着ていたパーカーを脱ぐと地面に広げ、持ち運んでも問題ない量の野苺を収穫し始めた。
「じゅんじょはちがうけど、食料が手に入った! これでなんとか……あれ?」
必要な分の野苺を収穫していると、ナキは笛と鈴の音が重なるような音が聞こえてこない事に気付いた。
(今度は音が聞こえない。なんでだ?)
最初に見つけたキノコの時とは違い、野苺を見つけて口に入れるまでの間、笛と鈴の重なるような音が聞こえなかったのだ。
その事に対して疑問を抱きながらも、今は身の安全を確保するために考える事を後回しにして自分が進んだ方向を確認すると再び移動し始めた。
それからしばらくして水の音が聞こえてきたため、近くに川が流れているのではないかと思ったナキは、小走りで音が聞こえる方向に進んだ。
暫く走り、目の前には小さな川が流れているのを確認したナキは、心の底から喜んだ。
それだけではなく、近くに寝床として使えそうな場所があったためナキは野苺が入ったパーカーを置くと、近くで落ち葉を拾えるだけ拾い集め寝床となる場所に置いて行った。
次に枯れ枝や枯葉を集め、火を起こすのに適した木の皮と枝を見つけると枝を見つけると、子供ながらに火種を作り始めた。
「上手く行ってくれよ~」
ナキ自身まだ子供だという事もあり火種を作るのにかなりの時間を消費したが、辛うじて火種を作る事に成功した。
完全に消えてしまう前に集めておいた彼はで火を大きくしていき、無事に焚火が完成した。
焚火が完成すると、ナキは喉の渇きを潤すために川の方へと向かい水をすくい上げ、川の水を口に含むとそのまま水分補給を行った。
川を見つける前に収穫した野苺を大切に食べながら、ナキは今後の事を考えた。
(一時はどうなるかと思ったけど、なんとか安全に使えそうなねどこと川を見つけられた。
本当にじゅんじょはちがうけど、食料が手に入ったのはきせきだ。
だけど問題なのはこれからどこへ向かうかだ)
すっかり暗くなり、上を見上げて夜空に輝く星を頼りにナキは方角を確認し始めた。
しかし、この世界の天文学に詳しい訳ではなく、それどころが元いた世界と同じとは限らないためあまりあてにはならない。
正確な方向を確認するには朝早くに起きて太陽が昇る方角を確認するしかない
(太陽がのぼり始める方角さえわかれば、せいかくな方角がわかる。
そうすれば移動するにしても問題はないはずだ。
向かうとすれば、神子がいるっていうフェイリース王国なんだろうけど……)
神子がいるフェイリース王国は、ディオール王国の東に位置する国なのはすでに把握済み、なので東の方角に向かえば必然的にフェイリース王国領に着く。
だが、身分証明書となるような物など持っておらず、何より追放されたとはいえ自分がディオール王国から来たと知られればどうなるかわからない。
とはいえフェイリース王国に行ったとしても、いずれはディオール王国が攻めてくるのは目に見えているため安全とは言えない可能性の方が高い気がした。
それ以前に、全ての不幸の元凶ともいえる優とはもう二度と関わりたくないという気持ちの方が勝っていた。
(ディオールとフェイリース、この二つ以外にも国はあるはずなんだ。
それならしんでんだってあるかもしれない、もしかしたら神子救出以外でも帰れる方法が見つかるかも!)
「そうと決まれば、今日は早くねて朝日が出る前に起きないと……」
あえてフェイリース王国には向かわず、ディオール王国とフェイリース王国以外の国に着く可能性に掛けるため、野苺を何粒か残すとナキはそのまま寝床で眠りについた。
次にナキが目を覚めたのは肌寒さを感じた時だった。
目をこすりながら起き上がると、外にいる事に対して一瞬驚いてしまったが自分が追放されて森に捨てられたのだという事を思い出した。
「そうだ、今何時だ⁉」
時間の確認のため懐中時計を手に取り蓋を開けると、元いた世界で言う午前七時前くらいでもうすぐ日の出が昇る頃合いだったためナキは方角の確認をするために空を見上げたのだが、周りは薄い霧で覆われている状態だった。
慌ててナキは周りを確認し、近くに背が高い木を見つけると急いで登り始めた。
木の頂上付近に着く頃には霧はすっかり晴れており、丁度日の出が昇り始める時だった。
日の出を見たナキはようやく正確な方角を知る事ができた。
(太陽ののぼり具合からしてあっちが東、それでディオールは北の方角に位置している。
北に向かうのはじっしつふかのう。
西にもりょうちが広がっていた筈だから、進むとすれば南しかない)
進む方角が決まったナキは、何が何でも生きて元いた世界に帰る事を誓い、森でのサバイバル生活を覚悟した。
「ぜったいに生きのこって、元いた世界に帰ってやる……!」
同級生達に無実の罪を着せられた挙句追放され、追放先の森を南下する事になったナキの冒険が始まるのであった。
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