第0話 孤独な少年

 元々の名前は才賀サイガナキ。

 ナキは何処にでもいる普通の小学五年生で暖かい両親に育てられ幸せな生活を送っていた筈なのだが、そうはいかなかった。

 その原因は、双子の弟である才賀優スグルにあった。


 優とは二卵性の双子の兄弟だったが、優は容姿端麗な両親の遺伝子をしっかりと受け継いでおり、周りがどう見てもわかる美少年。

 それだけではなく何でもできてしまうという、いわゆる天才少年でもあったため優の周りには常に人がいた。


 対して兄であるナキは鋭い目付きで周りが見ても悪役顔の印象が強烈につき、周りから避けられる傾向にあった。

 優に負けじとナキは勉強も運動も人一倍努力し、同年代の子供よりも成績が良かったが、周りはナキよりも優を優先しナキの周りには誰もいない状態だった。


 怒られるのは必ずナキだけで優は怒られず、小学校に上がってからも周りは優の方に集まり、学年が上がってクラスが別々になってもナキの同じクラスの同級生や担任の教師は優を優先した。

 それだけではなく周りはナキが優の兄であると言う事が気に喰わなかったらしく、何かある事に全てをナキのせいにした苛めに発展してしまった。


 唯一の救いは母方の祖父だけはナキをちゃんと理解しており、自分の持てる知識の全てをナキに教えてくれた事だろう。

 そんな祖父も、ナキが小学五年生に上がる前に亡くなってしまい、ナキは完全に周りから孤立してしまった。



*****



 現在ナキは、一泊二日の林間学習の帰りのバスの中におり周りが騒がしい中で十歳の誕生日に祖父から贈られた懐中時計を握りしめられ一人外の景色を眺めていた。


 優を優先するという理不尽な環境で育ったナキの性格は少々ひねくれており、いまだに孤立状態だった。不意にナキの隣に座る誰かがナキが持っている懐中時計に触れようとした。

 それを感じたナキはすぐに懐中時計を持つ手を動かした。


「……なんのつもりだよ、優」


「何って、時間をかくにんしたかっただけだよ?」


 隣にいたのは双子の弟である優であり、ナキは声を掛ける事無く懐中時計に触れようとした優を睨みつける。

 だが優は当たり前というような表情でナキの懐中時計を見つめていた。

 優はさも当たり前の様にナキが持っている物をそのまま自分の物にしてしまう事があるため、ナキはそれを警戒したのだ。


「今の時間はごごの十三時十四分。学校に着くまであと一時間十六分ある」


「おい、優くんは時間をかくにんしたいんだからお前の時計かしてやれよ」


「そうよ、大体そんな古くさい時計持って来てるのさいのうなしのアンタだけよ」


「はぁ? こいつは時間を知りたいと言っただけでかせとは言ってないだろうが」


 前の席に座っている同級生が理不尽な文句を言ってきたため、ナキは優が懐中時計を貸してほしいと言っていない事を主張し、同級生を睨みつけた。

 大切な懐中時計を盗られる危険があるかもしれないという事もあるが、それ以前に古臭いと言われた事に腹を立てた。


 ナキに睨まれた同級生は怯んでそそくさと引っ込んだ。

 ナキへの苛めもいまだに続いているが、そこは持ち前の鋭い目付きと祖父直伝の護身術で対抗していた。


「だめだよナキ。ナキの顔は人よりこわいんだから、他のみんながこわがっちゃうよ」


(だれのせいでこうなったと思ってんだよ……)


 自分に話し掛けてくる優の存在を無視してナキは再び窓の外を眺め始めた。

 ナキとしては全ての元凶である優とは極力関わりたくないため、一方的に優の話を無視しようと決め込んでいた。


(家に帰ったらしっかり休んで、明日はじいちゃんのはかまいりに行こう……)


 そんな事を考えていると耳元でピリィン、と笛と鈴の音が重なるような音が聞こえてきたため、優が嫌がらせをしてきたのかと思ったが、ナキは優が鈴も笛も持っていない事を思い出した。


 鈴と笛のような音は次第に荒々しくなり始めたと思いきや、ナキが乗っているバスが大きく揺れるのを感じ、これにはバスに乗っている優達も反応し、自分達が命の危機に晒されている事をはっきりと感じ取った。

 不意にナキの目に外の様子が飛び込んできたが、それを見たナキはその光景を疑った。

 バスを取り囲むように謎の光が発生していたのだ。


 確認しようにも、今は自分の身を守る事が最優先であるためなきは必死に目の前にある手すりにしがみついた。

 バスが安定する様子はなく、寧ろバスの揺れは激しくなる一方で謎の光もだんだんと強くなって行きバスに乗っている全員が完全に混乱していた。

 その時、バスの座席に座っていたナキの体がフワリと浮くのを感じたナキは今まで感じた事が無い不安に襲われた。


「なっなんだ⁉」


「何これ、何これぇ⁉」


「えっえっ? 体が、ういてる⁉」


(ういてるのは俺だけじゃないのか⁉)


 自分だけではなく隣に座っていた優や同級生の何人かが同様に浮いている状況にある事を知ったナキは、自分達が何かとんでもない事に巻き込まれているのではないかと思った。

 そして次の瞬間、浮いた体が一気に吸い込まれるような浮遊感に襲われ、予想外の事態にナキは手すりを掴んでいた手を放してしまった。


 そのせいで混乱パニック状態に陥ったナキは強く目を瞑り、そしてそのまま意識を手放した。

 次に、ナキが意識を取り戻して目を覚ました時、またしても信じられない状況を目の当たりにした。


「……え?」


 ナキの目の前にはまるでゲームに出て来るような登場人物の服を着た数人の大人達が立っていて歓喜していた。

 意識を失う前までバスに乗っていた事とその中で起きた事を思い出したナキは、すぐに周りの状況を確認した。


 周りには優や同級生全員がおり、優達も現在の状況に混乱しており、更には担任教師と運転手とバスガイドの大人がいないという最悪な状況である事に気付かされた。

 すると歓喜する大人達の中でいかにも貴族だという事を証明している服装をした二十代の男性が、ナキ達を目にした途端、驚愕した表情を露わにした。


「神官長、どういう事だ! ここにいるのは皆子供ではないか!?」


「うぅむ、どうやら神に使わされた勇者様はまだ子供だったようです。

 他の子らは恐らく、召喚の際に巻き込まれたのやもしれませぬな……」


 神官長と男性が何か話している中で、勇者という言葉を聞いたナキは呆然とその様子を見守っていた。

 優達に至ってはナキと違い、バスから見ず知らずの場所にいた事と担任教師がいない事で不安に襲われていた。


「それで、誰が勇者様になるのだ?」


「神託では、勇者は稀なる美貌と強き魔力を持つという内容でございます」


「稀なる美貌、それならばこの少年に違いない!」


 神官長から信託の内容を聞いた男性は、同級生達を見回して確認すると迷う事無く優のもとまで歩みより、優の前でひざまずいた。

勇者と呼ばれた優は、突然の事過ぎて困惑した。

それは周りにいる同級生達も同じなのだが、ナキは自分達の身に何が起きたのかという説明をして欲しいと思った。


 ナキは自分達が何処にいるのかという確認のために改めて周りの様子を見回すと、今いる場所が教会のようなの部屋という事だけはわかった。

 さっきまでバスに乗っていた自分達が、知らぬ間に見知らぬ部屋に移動した事にナキはすぐとんでもない事に巻き込まれた可能性に思い至った。


(バスで起きたいじょうげんしょうがからんでるのか?

 カメラ持ってる人間がいないからドラマのさつえいってかのうせいはないだろうから、こいつらはテロリストか何か?

 それに勇者ってなんの事なんだ?)


 子供の自分が思い至る限りの可能性を考えている中で、優の方では勝手に話が進んでいるらしく勇者と呼ばれた優は少し照れ臭そうにしている様子を見たナキは、もう少し危機感を持てよと心の中でぼやいた。

 不意に得体のしれない不快感を感じ、ナキは今度はなんだともう一度周りを見たが、特に変化はなく、自分の勘違いだと思い近くにいた神官であろう大人に声を掛けた。


「あの、ここはどこですか?

 勇者がどうとかって、俺たちにもわかるように説明してほしいんですけど……」


 ナキに話し掛けられた神官らしき大人は、神官長に話しかけて指示を仰ぎしばらく考え込み、神官長は優の前で跪く男性に話し掛けた。

 どうやら男性は王太子と呼ばれるかなりえらい人間であるらしく、ナキ達は一度他の場所へと移動する事になった。


 部屋の外には動物の耳と尻尾をつけた獣人と思われる人々や騎士と思われる鎧を着た男性陣、メイド服を着た娘達の姿がちらほらと目に映り、優や同級生達は驚いていたが、ナキは亡くなった祖父から教わった教えを守り、注意深く周りを確認していた。


 騎士やメイド達は皆綺麗な身なりをしていたが、獣人達は何処か怯えたような様子で、服もそんなに良い物ではないようにも見えた。

何よりナキが気になったのは首に鉄製の首輪がつけられていた事だ。


 そうこうしているうちにナキ達は王太子に案内された部屋に辿り着くと、高い位置に設けられて気品のある椅子に座った中年男性がいた。

 ナキ達は同行していた騎士達に跪くように言われその通りにし、優だけはそのまま立っている事を許された。


「よく来てくれた、神託の勇者よ。

 私はこのディオール王国の国王、我らは其方が我々の元に来る事を心待ちにしておったのだ」


「えっと、その、ありがとうございます。ところで僕が勇者って一体……?」


「ここは私が納めるディオール国。

 そして其方達は我が国に繁栄と救済のために召喚されたのだ」


 ディオール王国の国王から自分達が召喚されたという事聞いた優は、信じられないという表情を見せた。

 それはナキや他の同級生達も驚いていた。


「我が国は現在、ある窮地に陥っている。隣国のフェイリース王国が神に愛されし神子と呼ばれる存在を保護した。

 しかし、実際は保護としたという名目で自分達の手中に収めたのだ。

 神子はそうとは知らず、フェイリース王国の人間達に捕らわれている。

 その時、我が国の神官が神の神託を聞き、異世界の勇者を召喚するに至ったのだ。

 神託の勇者というのは、其方に違いない。

 是非とも神子を救うために力を貸してほしいのだ」


(ショウカンって、あのライトノベルに出て来るあのショウカンのことか?

 じゃあ、俺達は今いせかいにいるってことになるのかよ⁉)


 ナキは一人冷静に状況を確認し続けていたため、自分達がディオール王国の大人達によって召喚されたという信じがたい現実を知った。

 しかもその理由が自分達の国の繁栄と救済という、ナキ達小学生からすれば無茶すぎる要求であるため、何考えているだという気持ちになった。


 何より元いた世界の常識からみれば、ディオール王国の大人達が言ったのは繁栄と救済のための召喚というよりも異世界の大人達による小学生集団誘拐事件を引き起こした犯罪者集団とも思える行動だ。

 しかし、先程からの話の流れからすると、どうやら大人達が求めていた勇者は一人だけで、ナキや同級生達まで召喚されたのは想定外の事だったようだ。


「勇者は稀なる美貌と強気魔力を持つという神託が下された。

其方を導いた神の加護によりその強き魔力を宿したに違いない。

是非とも我が国のため、神子を救うために力を貸してほしいのだ」


「でも、僕はまだ子供だし、それに他のみんなはどうなるんですか?」


「ふむ。神官長よ、その事に関してはどう思う?」


「その事に関しては、今はまだフェイリース王国に仕掛ける時では無いという意味ではないかと思われます。

 他の子らに関しては、きっと勇者には仲間が必要であるという神の緒も示しに違いありません」


 勇者として召喚された優と違い、ナキを含めた同級生達がどうなるのかという質問を問いかけたところ、ナキ達は優の仲間として召喚されたに違いないと神官長は自信を持って言った。


 そのためナキ達の衣食住は保証されるらしく、その事に関してナキは少し安堵した。

 そんな時、ナキはディオール王国の問題が解決した後、自分達が元いた世界に帰れるのかという可能性があるかを神官長に訊ねた。


「すみません、ぶれいをしょうちで聞きたいことがあります。

俺達がこの国をすくえた後、元いた世界にかえれるのでしょうか?」


 ナキの質問を聞いた神官長は、国王の方を向きひそひそと話をした後、ナキの方に向き直りなんの問題もないように言った。


「其方達は神に使わされた者達なのだ。

ディオール王国と神子を救った暁には、神が其方達を元いた世界に返してくれよう」


 ディオール王国と神子を救った後、無事に元いた世界に帰る事ができるという神官長の言葉を聞いた優達は喜んで国王の願いを受け入れた。

 しかし、優達とは対照的にナキは自分の質問にはすぐに答えず、国王に確認をとるような仕草を見せた神官長の言葉を素直に信じる事が出来なかった。

 ナキは上手い話には裏がある、見知らぬ相手の話には疑心暗鬼の心を持てという祖父の教えを思い出していたのだ。


 この国で一番権力があるのは今目の前にいる国王であり、その次が王太子やまだ見ぬ王妃ではなくその隣にいる神官であるような気がしたため、この状況で警戒するべきは国王と神官長。

 ナキ達の召喚に関わった王太子はしばらく様子を見てどう警戒するべきか判断しても問題はないとナキは考えた。


(どっちにしろ、子供の俺じゃかないっこない。

 神に使わされたって言うなら何かしらくんれんをうけることになるはず……)


 できれば優やクラスメイト達に警戒するべきだと進言したいがそうなると目の前にいる国王の怒りを買い、罪人として捕まりかねない。

 どちらにしてもこれまで通り自分の言葉には耳を傾けてはくれないだろうと考えながら、ナキは優や同級生達と共に再び神殿に戻り、降臨の間と呼ばれる部屋でディオール王国に神託を下し、自分達が召喚されるきっかけとなった神との会合を果たした。


「よくぞ来てくれました、勇者とその仲間である子供達。

 私は月の至高神、このディオール王国を守護するものです」


「お会いできてコウエイです、月のシコウシンさま」


 その神はディオール王国を守護する月の至高神と呼ばれる女神で、青い髪と黄色の瞳は元の世界では見た事が無い程に綺麗であり、その容姿は普通の人間よりも美しかったため神と名乗っても違和感はない。

 しかしながら、月の至高神を見た優やクラスメイト達は目の前にいる女神が本物だと信じているのに対し、ナキは神だと理解したが何故か違和感を感じた。


 そうこうしている内に話は進み、月の至高神はナキ達一人一人にあった加護を与えてくれる事になり、最初に勇者と呼ばれた優は神官長に名前を尋ねられ、その後に月の至高神から勇者の加護が与えられた。

 早速魔法を使ってみると、光と神聖と呼ばれる魔法が使えるようになっていた。


 それを見た同級生達は我先にと神官長に名前を伝えた後に月の至高神から自分にあった加護が与えられた。優や同級生達は自分が授かった加護の力に夢中になっている中、先程の流れで一番最後に加護を受ける事になったナキが神官長の前に立った。


「其方が最後じゃな。少年、名は何という?」


「……神座カムクラ、ナキ」


 この時ナキは、この世界でも双子の弟、優と比較されるのは嫌だという事もあり、思わず元々の才賀という姓ではなく亡くなった祖父の姓を名乗った。

 後々この神座という偽りの姓がナキがこの世界で生きていく際に名乗る正式なものとなるのだが、その時のナキは大変な目にあう事になった。


「カムクラナキですね。それでは貴方に我が月の加護を与えます」


「あの、その前にもう一度だけかくにんさせて下さい。

 神子を救出したら本当に元いた世界にかえれるんですよね?」


「えぇ。月の至高神であるこの私が約束しましょう。では、改めて貴方に加護を与えます」


 そういうと月の至高神はナキに自らの加護を与えようとしたのだが、ここで予想外の事が起きた。

 優や同級生達が加護を与えられて時には体が自分にあった属性の光に包まれるのだが、何故かナキだけその光が現れる気配が無いのだ。

 困惑するナキはいたたまれない不安に襲われた。

 それは神官長と月の至高神も同じだったようだ。


「これは一体、どうした事か。月の至高神様、この少年の身に何が起きたのでしょう?」


「神官長よ、慌ててはなりません。今からその原因を調べます」


 そういうと月の至高神は、原因を探り始めた。

 自分が授かった加護に夢中になっていた優や同級生達も事の異変に気付き始め、ナキ本人に至っては一体何が起きているのかわからない状況下で不安ばかりが膨れ上がった。

 しばらくして、月の至高神がナキの目の前から掌を下すと少し困った表情である事実を告げた。


「どうやら、貴方には適性がないようです」


 ナキには適性がないという月の至高神の発言を聞いた優や同級生達は何を言っているのか理解していなかったが、王太子や神官長、他の神官達が動揺しているため、ナキは自分が最悪な状況になっている事を悟った。


「あの、テキセイってなんのことですか?」


「適正というのは、この世界で魔法と私の加護を使用する際に必要となる、いわば証のようなものです。

 魔法と加護を扉に、適正を鍵に例えるなら勇者スグルは勇者の加護や魔法を使用するために自分が持つ鍵で扉を開ける事で、その力を使用する事ができます」


「つまり、他のドウキュウセイもぜんいんそのテキセイがあるんですよね?

 だったら、なんで俺だけテキセイがないんですか?」


 優や同級生達には適性があって、何故か自分だけ加護を得るための適性がないのか理解できなかったナキは顔色を悪くさせながら月の至高神に訊ねた。

 正確に言うと、訊ねずにはいられなかった。


「神官長よ、貴方方が描いた召喚魔法の陣に問題はありませんでしたか?」


「はい、召喚のための魔法陣は適性がない物が巻き込まれないための機能はしっかりと働いておりました。

 なので本来ならこの少年はここにいる筈がありません」


「しかし神官長、それだと矛盾してしまうぞ。どういう事だ?」


 月の至高神、神官長、王太子のやり取りを呆然と聞いていたナキは、神官量の言葉を聞いて担任の教師を含めた大人達には自分と同じように適性がなかったためここにいないのだという事を理解した。

 その時、ナキは召喚される時に自分の隣には優がいた事を思い出した。


「俺、ショウカンされる直前まで、優のとなりにすわってた。

 もしかして、それと関係があるんじゃ……」


「勇者の隣に? それなら説明がつきます。

 この中で一番適性が高い勇者の隣にいたのなら、その影響で適性がないにも関わらずこの世界に召喚されてしまったのでしょう」


 つまり、ナキは勇者である優と同じ席にいたため適性がないにも関わらずディオール王国に召喚されてしまった事になり、いつものように優が原因で完全なとばっちりを受けたのだ。

 それを聞いたナキは自分が望まぬ答えが出たため絶望した。


(俺だけテキセイがないのにまき込まれた?

 つまり俺だけ役立たずってことかよ? 俺は、どうなるんだ……?)


 ディオール王国と神子を救うために召喚されたにも関わらず、実際は優に巻き込まれる形で召喚されたという事実を知ったナキが真っ先に思い浮かんだのは、役立たずという事で自分の安全だけ保障されないという考えだ。


 流石に召喚した本人達も適性がないナキが召喚された事に関しては完全に想定外だったらしく、王太子と神官長はその場でナキの事を話し合った結果、月の至高神の好意と勇者の友人という事もあり、ナキの身の安全は保障された。


 自分の安全が保障される事がわかり安心するところなのだが、ナキは王太子や神官長達の自分を見る目が元いた世界の大人達や同級生と同じ冷たいものだという事に気付いていた。


 その事に気付いていたナキは、安全が保障されてもその待遇は勇者である優や、適性があったために加護を得る事が出来た同級生達とは違い冷遇される可能性があるのが目に見えた。


(考えなきゃ、自分が生きのこる方法を。

 学ばなきゃ、この世界のちしきとじょうしきを。

 そうじゃなきゃ、テキセイがない俺はかくじつに死ぬ、それだけはぜったいにさけなきゃ!)


 ナキは自分が一番不利な状況である事を自覚し、そのうえで生きていく方法を考えなければいけない事を悟っていた。

 そうでなければ自分が死んでしまうかもしれない可能性があるからだ。

 この世界の知識は必要不可欠である事は明らかで、元いた世界の常識は通じる筈がないのだ。

 こうして、ナキの異世界での生活が始まったのだった。

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