ポッキーゲーム 1ON1 EDITION



「今日って、ポッキーの日なんだっけ?」


 中学2年の秋。

 文化祭が終わって一息ついた11/11。空君が何気なく呟いたあの日のこと、私は忘れないからね。





■■■





「なぁ、湊」

「なによ、空?」

「ポッキー……ゲームしようぜ」


 教室の喧噪に紛れて、よく聞こえなかった。

 思わず、教科書を落としたのもどうでも良いくらい、空君を二度見した。


 (……ポッキーゲーム?)


 え?

 それって、両端をそれぞれ囓って、キスしちゃうパーティー定番のゲーム?


 みーちゃん、ウソだよね?


「珍しー。良いけど、さ。空、後で悔し泣きしないでよ?」

「むしろ、湊を泣かせてやるって」

「ふぅーん。現役バスケ部に勝てると思ってるの? ひーひー言わせちゃうからね?」


 ひーひー?

 え?


 それって、キス以上ってこと?

 ダメだよ、湊ちゃんには黄島君っていう、彼氏がいるじゃん。空君、そういうのダメだと思う――。


「なんなら、彩翔も誘う?」

「むしろ、誘わないと、彩翔あー君はすねちゃうよ?」


 黄島君、そんなに空君とポッキーゲームしたいの?


 思わず、空君と黄島君がポッキーゲームして、ひーひー言っている所を想像してしまって――。




「そんなの、絶対にダメぇっっ!!」


 思わず、感情を破裂させてしまい、教室は静まり返り――そして、空君とみーちゃんは目を丸くする。


「……えっと、天音さんも1 ON 1やる?」

「え?」


 私は目をパチクリさせる。瞼を瞬きさせること、数回。


「ほぉーん」

 みーちゃんが、ニヤニヤ笑うのが見えた。







 ――私と空は、ポッキーを賭けて、1 on 1バスケをしようって言っていたんだけどさ。つーちゃんは何を想像したのかな?






 みーちゃんの囁きに、私は言葉にならず口をパクパクさせるしかなくて。

 それなのに、空君は――。





「良いね。それじゃ、天音さんも、一緒にゲームしよう?」


 ポッキーの箱をフリフリしながら、そんなことを言う。


 そんなつもりで言っていないの、分かっているのに。

 コクコク、反射的に頷いた。


 みーちゃんが笑いを堪えるのに必死なのを尻目に。

 でも、私にとっては、笑い事なんかじゃないんだ。


 ゲームでも。

 ウソでも。

 おふざけでも。

 たわむれでも。

 架空でも。

 もしも、例えifの仮定でも。










 空君が、他の子とキスするの、

 絶対、絶対に。






 ――イヤなの。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る