文芸部性癖モニタリング


「それでは、第135回文芸部性癖モニタリングを開催しま~すっ!」

「どんどんぱふぱふ♪」


「司会は今をときめく、光の乙女。芥川媛夏と!」

「主人公を寝とってなんぼの、悪役令嬢。猫田クララ!」

「「Death」」


 見事に息があう二人に、ドン引きだった。


「……毎回、思うけどテンションすごいねぇ」

「彩音! 感心している場合じゃないから!」


 と部長は頭を抱えている。瑛真ちゃんはまるで自覚ないけれど、音無先輩とタッグを組んだ時のウチの部長も大概だからね?


 隣で、当の生徒会副会長はニコニコ笑っているけどさ。135回も性癖について、語り合ってないよね?


「……皆さん、性癖を軽視していませんか?」


 真面目な顔でクララが言う。うん、真顔で性癖を語るの止めてもらって良いかな?


「性癖とは作者と読者の相互タッチポイントです。突き刺さることで、突き刺すことでその作品の愛着が高まることは間違いありません。そのためにも、読者層のリサーチは必須ですし、仮想読者ペルソナをたてて書くことは作者としては、有益なことだと思います」


 たまに、クララは核心をつくから油断ならない。その後、予想だにしないことを放り込んでくるから、油断ならない。


「例えば、海崎先輩の足フェチです!」

「「「ぶほっ」」」


 ほら、油断ならない。ひかちゃん、あんまり言わないけれど、綺麗な足を好む傾向にあるのは分かっている。すらっと、のびて。見えるか、見えないか。ひかちゃんが、派手だけれど、実は主人公に一途なギャルっ子が登場する、ラノベを好んでいることもリサーチ済みで。


 だから――というワケではないけれど。

 意識して服を選んだし、コーデした。垢抜けたねって言われたし、綺麗になったと声をかけてもらえることも増えた。でも、それも正直どうでも良くて。


 ――彩音、今日の……かわいいね。

 ぼそっと、聞こえるか聞こえないかの音量。鈍感マンの最大の譲歩。聞き逃してあげるワケない。と、それは今は良いとして――。


「皆さん、落ち着いてください。近しい人から、サンプルを取る。これは有益な研究です」


 クララは真顔である。うん、知ってた。君はいつでも全力投球だたちょ。


「足フェチな海崎先輩ですが、胸フェチでもあると思うのです」

「「「ぶほっ」」」


 何を言い出すの、この子?!


「純粋なデーター収集の結果です。海崎先輩は本当に時々ですが、瑛真先輩と下河先輩、そして黄島先輩のお胸に目がいっています」

「……」


 ひかちゃんが、他の子をそういう目で見ているのは、やっぱり少し複雑で――。


「……猫田さん、私を除外したのはどういうことなんでしょう?」


 音無先輩が激怒ゲキオコモードだった。

 口には絶対に出せないが、音無先輩がA。クララがB。私と媛夏がC。ゆっきがD。そして瑛真先輩がG。


 なお、瑛真先輩に対して「おっぱいちゃん」なんて言おうものなら、マッハで怒りを買うこと必至。周りの男子が、胸しか見なかったのに対して、上にゃんは紳士的に振る舞うから――瑛真先輩が、上にゃんを好きになったんだろうなぁ。そう、しみじみと思う。


「ちなみに、海崎先輩は、かなり黄島先輩を意識していますね。AIによる個人別視認分析データーでは、78%が黄島先輩。ダントツですね。次点が下河先輩で――」


「セキュリティーシステムへのハッキングは止めろって言ったでしょう」


 クララはポカリと瑛真先輩に、頭を叩かれていた。


(……そっか。ひかちゃん、ちょっとは意識してくれてるんだ?)


 でも、そういう目で見られるのは複雑。自分以外の子を、そういう目で見ているのはもっとイヤ。でも、私だけを見て欲しい。こう思うのは、ワガママなんだろうか――。


「なお、視認データでは、大國先輩がダントツのガン見ですね」

「Kゴリ、最低」

「圭吾、良くも悪くも素直だからね」

「大國君はどうでも良いかな」

「大國君、星伶奈せれなちゃんに言いつけますよ~」


 まあ、男子が思う以上に、視線って分かっちゃうだよね。


「……しかし分からないのは、上川先輩ですよね。ブレない。だいたい、下河先輩しか見ていないんですよね。ある意味、一番変態と言えるのでは――」

「他の子のことは、見なくて良いの」


 にっこり笑って、ゆっきが言う。

 その目がまるで笑っていない。正直、怖い。我が意幼馴染みながら、こんなに独占欲が強い子だったんだなって今さらながら思う。上にゃんは、それで幸せそうだから良いんだけどさ。


 流石のクララも、戦慄を感じたのかちょっとだけ、体が震えている。媛夏、相方を助けてあげなさいよ。なんで、逃げ腰になってるのよ?


「……あ、それじゃぁ。下河先輩の性癖って、何ですか?」

「あ、バカ――」


 媛夏の呟きに、私も深く頷く。そして、もう遅い。だって、ゆっきの性癖なんて、たった一人しか見ていないに決まってる。


「んー。どうだろう? 冬君の指先は好きだよ」

「指フェチ? それは、またマニアックな――」

「冬君の、ね。他の人はどうでも良いから」


 言った。本日、二回目のどうでも良い宣言。

 そして、思う。ゆっき、上にゃんに手櫛で、髪を撫でてもらうの好きだもんね。


「いや、その個人限定は分かりにくいといいますか……。もっと広義な意味での性癖をですね……」


 文芸部1・2を争う個性、猫田クララと芥川媛夏がタジタジになっている。これはもう、ゆっきの凄さかもしれない。


「それは性的って、意味で?」

「えぇ、まぁ……え? 性的?」


 媛夏、止めて。それ以上はダメ。上にゃんに片想いしていた、瑛真先輩が死んじゃう!


「んー。やっぱり、大きいことかな?」

「「「「大きい?」」」」


「うん。大きくてね、奥まで届くの。いつも思うけど、そういう時の冬君って、ワルい子になるから。止めてって言っても、なかなかヤメてくれなくて――」

「ゆっき、ストップ! ストップ! ストップ! すとーっぷっ!」




 上にゃんの好きなことを、ノンストップで話し続けられる子なのだ。ノロケ100物語なんて、百害あって一利なし。暴走したゆきを止められる人は、上にゃんしかいないけれど、今この場に、その王子様は不在。


(どうするのよ、この状況?!)


 媛夏は知らない振り。

 クララは興味津々に、メモをとって――。






 ――本当に、どうしよう?


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