秘密のフォルダー
「空君、スマートフォン貸して?」
「あいよ」
躊躇なく、私にスマートフォンを放り投げる。私は、落とすことなくキャッチ。充電をしわすれた私のスマフォは、無用の箱と化していた。空君のIDで、ゲームにログインする。最近、そんなことを二人でして、既知のプレイヤーを驚かせるのを楽しんでいた。
「翼、俺ちょっと飲み物取ってくるね。翼は紅茶で良い?」
さらりと、好みは分かっているクセに。ちゃんと聞いてくれる。
私の手にあるスマートフォンには、もう頓着していない。
それは、信頼の証なんだろうか?
――でも、警戒心があまりにないと思う。
見られても困らないからか。流石にメッセージアプリを起動しようとは思わないけれど。他の子とどんな会話になっているのか、気になるとモヤモヤして。デスクトップをフリックしたら――。
(秘密のフォルダー?)
私の視線は、そのアプリに一点、奪われた。
■■■
タップする。
パスワードを要求する画面。
試しに、空君の誕生日で入力したら、ハズレ。
こういうアプリ、あまりハズレが続くと、完全にロックがかかる場合がある。
考える。
空君が、帰ってくるまでのタイムリミット。
なかったことにするか、解除を試みるか。
(……他の子?)
分からない。
だって、今の私達は宙ぶらりんだ。
空君が、誰を気になっていても、攻める資格、私にはない。
(エッチな画像?)
そっちの方があり得る。空君、意外に〝えっち〟だもん。
――
それは親友のアドバイス。
――
感心する。それこそ、すでに付き合っているカップルの貫禄というヤツなんだろう。妙に納得すると――。
――そういう時は、発散させてあげるの。
うん、聞くんじゃなかったって思ったよ。思い出すだけで、頬が熱い。
パスワード失敗。
もう一回やって、ダメなら諦めよう。そうしよう。
ダメ元で、私の誕生日を入れてみる。
【ロックが解除されました】
へ?
私は目をパチクリさせる。
開かれた、フォルダーからは、私と空君のツーショットの写真だらけ。
空君の机を見る。
親友達と、空君と。四人で撮った写真が。その写真より大きく、私とのツーショットが、フォトレームに収まっていて。
少なくとも、私との関係を大切にしてくれている。それは、肌で感じる。
「……う、これは不意打ちだよ」
私は、スマートフォンを正視することができなかった。
■■■
「おまた――せ? 翼、どしたの? 顔が真っ赤だけどれど?」
「こっち、見ないで」
「へ?」
「恥ずかしいから――」
「あ、うん」
クルッと空君は背中を向ける。
こんな時でも、彼は、素直で。空君は、正直で。
疑った自分が恥ずかしい。
すぐヤキモチを妬く、自分が浅ましい。
「つばさ?」
「――そのままでいて」
背中から、彼に抱きつく。
今は、これが精一杯。
じゃれあっているだけ。
友達として、フザけているだけ。
でも、もうちょっとしたら――。
絶対に、秘密のフォルダーに隠した、この気持ち。
解除するから。
あと、もう少しだけ待って――。
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カクヨムコン創作フェスで思いついた、短編
最初はこれでいこうって思ったんですけどね💦
本編より、ちょっとだけ先の。
とある日の二人でした。
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