冬君パスポート(回数無制限/即時対応/使用者:雪姫限定)※EP94近辺読了推奨
――知ってるか? クリスマスを巡って、50%のカップルが、ケンカ別れするんだって、さ?
■■■
「メリークリスマス!」
チン、グラスがそれぞれ鳴って。
一年前には、想像できないくらい、賑やかな面々が、Cafe Hasegawaで響いて。
雪姫の顔を見やる。
溢れるような、笑顔。
呼吸を気にしていたのが、遠い昔のようで――ふと、雪姫と目と視線が交わって。
笑顔なのに。
どことなく、消化不良。
そんな、どこか。心に引っかかる表情が焼きついた。
――クリスマス前に別れるカップルって多いらしいぜ?
冬休み前――教室での雑談。大國のニヤつく顔が、腹に立つ。アイツなりのジョークと分かっていても、妙に胸がざわついてしまった。
雪姫を見れば、黄島さんや大國、光との笑いがつきなくて。
大地さんにお酌をしつつ。
この喧騒が無音に感じるくらい。
雪姫との距離が遠かった。
■■■
(
目を開ける。いつもの定位置に、
帰り際、雪がちらついていたと言うのに、うちの相棒は今夜は一晩中パーティーらしい。
隣で眠っている雪姫との距離に、少しだけ隔りがある。
別に、何があるワケでも無いのに、悪いことばかり考えてしまって――。
(バカみたいだな)
そう思うのに、考えが止まらない。
ちょっと水を飲もう――そう、立ち上がった瞬間だった。
口を塞がれた。
「んっ――雪姫?」
常夜燈に、影が揺れる。酸素を貪られるように。息が――息ができない。
雪姫が俺に跨る。
髪が垂れて。
妙に、艶かしいと思ってしまう。
その目が潤んでいた。
「……雪姫?」
「今日の冬君、とても遠かった」
絞り出すような、雪姫の言葉に胸が疼く。
「クリスマス前に別れる確率が高い? それがどうしたの?」
雪姫の言葉に、思わず目を丸くする。
「……聞いていたの?」
「聞こえるよ。だって、いつも一緒にいるんだよ?」
ぎゅっと、抱きしめられた。
「クリスマス前日だけど、私たちは別れていないよ?」
「ん。それは、分かって――」
「私、言ったもん。みんなで祝うクリスマスも良いけれど。冬君と二人で、クリスマスは過ごしたいって――」
言った。
雪姫はそう言った。
それでも、みんなの「一緒に過ごしたい」を優先したのは、俺で。
大國の、何げない言葉に、勝手に囚われてしまったのも俺だ。
「……冬君はね、もっとワガママ言って良いと思うんだ」
さらっと、髪を撫でられる。
「すぐ我慢しちゃうもんね?」
キスが降ってきて。それが、暖かいって思ってしまう。そうか、って思う。俺、我慢していたの? そう思考を巡らすと、妙に納得してしまって。意外にそういうことって、自分じゃよく分からない。
「だからね、私からおねだりしちゃうね? プレゼントは、もうもらったけれど。良いよね?」
真っ直ぐ、雪姫が俺を見る。
「私、冬君年間パスポートをリクエストします」
俺は目をパチクリさせた。
「……な、なにそれ?」
「返事は、『はい』か『イエス』『合点承知』でお願いします」
「がってんしょうち?」
雪姫のテンションに思わず巻き込まれてしまった。
「うれしい」
クスッと笑む。
「ワガママ言いたい放題だね。私、いつも言ってるけれどね?」
「雪姫のお願いだったら、そんなパスポートなくても、何でも――」
「うん、分かってるよ。でも、これはパスポートでお願いしたいの」
雪姫が唇の箸を綻ばす。
「ちゃんと、キスマーク、私の首筋につけてね?」
「へ?」
思わず、固まってしまた。
「私もちゃんと、首に刻むから」
「ま、待って! 雪姫、俺は明日、バイト――」
「うん、知ってる。私も一緒だもん」
「だから、なおさらマズ――」
「冬君の認識がマズいよ? 私の冬君だもん。大國君は改めてシメるとして。冬君には、ちゃんと分かってもらわないと」
「分かってる、分かって――」
「全然、分かってないよ。折角の性夜だもん。一晩中かけて、伝えるからね?」
「それ、女の子が言っちゃダメなヤツ!」
「それじゃ、女の子に言わせちゃう冬君は、やっぱりバッテンだね?」
雪姫が、妖艶に笑って。
「メリークリスマス」
首筋に歯を立てられた。
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