#うちの子の恋愛ゲームがあったら誰を攻略したいですか


「むー」


 公園のベンチでに座って。

 スマートフォンを片手に、真剣な表情で思い悩む翼に俺は首を捻った。もしかすると、俺が知らない誰かなのかも――そう思いながら、思考を打ち消す。

 翼が、誰と仲良くなっても、俺に口出しする理由なんか無い。



 ――下河は、天音さんと距離が近すぎる!お前、身の程をわきまえろよ!

 今にも、そんな声が飛んできそうだ。


 以前の俺なら、そんな奴らが面倒で、迂回して行動していた。

 でも、今はそんな遠慮もバカらしくなってしまって。


 ――どうして、好きな人に遠慮しないといけないのかな?


 冬希兄ちゃんの言葉は、いつもストレートだ。

 誰がなんて言っても。

 どう、考えても。どう反応しても。

 その好きがどんな意味合いの好きであっても。


 ――関係ない。

 そう言い切っちゃう。

 今の現状、関係ないと言い捨てるには、自分は弱くて。


 スマートフォンの画面の向こう側。

 翼の視線の先で、誰を見ているのか。それが、気になって仕方なく俺は――。


「空君?」


 翼が顔を上げて、俺を見――る、その距離が近い。


「な、な、な、な、何……?」


 どうして俺だけ狼狽しているんだろう。


「空君はどう思う?」


 そう言って、スマートフォンを見せる。

 SNSに書かれていた、ハッシュタグだった。



 #うちの子の恋愛ゲームがあったら誰を攻略したいですか



「……こ、これって、創作系の人に向けたハッシュタグなんじゃない?」

「そうだね」


 ニッコリ笑って、そう言う。俺、創作とかしないから、良く分からないし。むしろ、そういうのは姉ちゃんの領域で――。


「身近な人に置きかえても良いかもね?」


 クスッと笑う。


「空君は、誰? 誰を攻略したい?」


 じっと、翼が俺を見る。

 なんだか、安堵する。俺の知らない――俺の知っている誰かじゃなくて。


 でも、なんでだろう?

 鼓動が早い。


(恋愛ゲームだったら、誰を攻略したいって……そんなの……)


 かぁっと頬が熱い。

 そんなの。

 そんなことを言われたら。


 目を逸らす。


 だって、そんなことを言われたら。

 翼しかいない。


 でも、口が裂けても、そんなこと言えるワケがない。

 と――翼が、俺の目を覗きこむ。


「私は、空君一択なんだけどね」

「……は?」


 目をぱちくりさせて。口をパクパクさせてばかり。上手く次の言葉が出てこない。


「また、翼は……俺のことをからかって」

「それは、どうかな?」


 ニコニコ笑って、翼はそう言う。

 それから、次に紡いだ言葉は――。

 公園の外を走る車のエンジン音でかき消された。


「……え?」

「なんでもないよ」


 クスッとやっぱり笑みを溢して。

 ほんの少しだけ、翼が距離を詰める。


 そっと凪いで。

 紅葉を舞い上げる。


 翼の髪が、俺の頬をくすぐって。

 この微妙な距離感。


 秋風で体は冷えるのに。

 体の芯に灯った熱は、なかなか消えてくれなかった。





■■■




 ――仮に恋愛ゲームだとしても。誰にもログイン、させないけどね。

 そんな彼女の声は、秋風と一緒に溶けた。





________________


X(Twitter)のハッシュタグ

#うちの子の恋愛ゲームがあったら誰を攻略したいですか

より。


皆さんは、誰を攻略したいですか?(笑)



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