プレゼントフォーユー



「このスニーカー、ちょっと派手だと思うんだけど?」

「そう? 雪姫にピッタリだよ」


 目の前のバカップルが、そんな会話を繰り広げている。姉ちゃんが、こうやって外出できるようになったことも感慨深い。何より、冬希兄ちゃんはこうやって姉ちゃんをコーデしていく。COLORSでステージ演出をしていた経歴はダテじゃないと思ってしまう。


 と、俺はショーウインドーに飾ったあったバスケットシューズに目がいった。NBAプレイヤー、マイケル・スカイウォーカーとのコラボ・シューズだった。


「空君、気になるの?」


 翼に言われて、慌てて目を逸らす。だって、バスケはもう辞めたんだ。興味ない、そんな素振りをしながら、翼に似合うシューズを物色することにした。






■■■




 起きたら、あのバスケットシューズが、俺の机の上に置かれていて目を丸くする。


「へ?」


 クリスマスには、まだ当分早い。こんなことするのは――。

 慌てて、階段を駆け下りる。


 キッチンで冬希兄ちゃんと姉ちゃん。それから翼が、エプロンをつけて、朝食を作ってくれているところだった。冬希兄ちゃんは俺の部屋で。そして翼は姉ちゃんの部屋でお泊まりをしたのだった。


「そうそう、そのタイミングでくるっと回していったら、綺麗な卵焼きになるよ」


 姉ちゃんのレクチャーに翼がコクコク頷いている。


「空、おはよう」

「起こさなくても起きるなんて、偉いね」

「空君、おはよう。もう、私が起こしてあげようと思ったのに」


 あの、父ちゃん、母ちゃん。それから翼、俺の尊厳というものをもう少し尊重してくれないだろうか。


「いや、そうじゃなくて、これ、これ……」


 とシューズを持ち上げてみる。すると嬉しそうに、冬希兄ちゃんが笑うのだ。


「見てくれた? どうかな」

「いや、どうかなって。これ限定モデルで、メチャクチャ高いヤツじゃ――」

「お金は気にしないで。母さん経由で、ちょっと値切ったから」


 芸能プロダクション社長、上川小春に何をさせているのさ?! 思わず目眩がする。


「普段、お世話になっているからね」


 そうにっこり笑う。いや、お世話になっているのは俺の方で。むしろ姉さんのことで、どう感謝してもしきれないくらいで――。


「気になるんだったら、雪姫のことをたくさん教えてね」

「別に私、冬君に隠し事してないよ?」


「弟君ならではの視点があるかもでしょ?」

「……そんなこと言われても、姉ちゃんが読んでるR-18小説ぐらいしか情報提供は――」

「空?!」


 怖い。メチャクチャ、睨まれた。


「あれは、過激でした……」


 翼が真っ赤になっていた。そうか、姉ちゃんの部屋に泊まっての、ほぼ女子会だっただよね。


「翼ちゃんもストップ! ちが、違うからね、冬君!」

「うん、分かってる。大丈夫だよ」


 ニコニコ笑って、それ以上言わないのは、本当に冬希兄ちゃんの美点だと思う。必要以上に騒ぎ立てないし、引き際を心得ている。そっと寄り添える人なんだよな、この人。同年代の人を何人も見ているけれど、大人だと感じてしまう時がある。

 思わず、嘆息を漏らしてしまった。


「……あのね、空君」

「え?」


 遠慮がちに言う翼に、首を傾げてしまう。


「実は私もバスケットシューズをもらって……」





■■■





 翼が持ってきたのはNBAバスケットボールプレイヤー、スナイパー・エンジェルをモチーフにしたバスケットシューズだった。


 この限定商品は、それぞれスタープレイヤーのイメージを基調としながら、ストロベリー色をベースカラーで統一している。


 いわゆる、リンクコーデ。カップルと言われる人達が着用することをターゲットにしているコラボ商品で。値段とともに、そんなコンセプト。なおさら手が届かない一品だったわけなんだけれど――。



(何してくれてんの?!)


 兄ちゃんも、姉ちゃんも!

 これを俺と翼が履いていたら、カップル認定じゃん! 変な誤解を招くじゃん! ただでさえ、学校で翼のファンクラブ会員の執拗な妨害が面倒くさいのに、どうするんだよコレ?!




「嬉しい、本当に嬉しいっ」

 素直な翼の一言に、思わず頬が緩んでしまった。



 やったね、と言わんばかりに。後ろで兄ちゃんと姉ちゃんがハイタッチをしていた。確信犯だと思った瞬間である。


「ほら、シューズは置いてきて、ご飯にしよう。空、翼ちゃんの卵焼きだよ?」

「お姉さんから、ダシをきかせた方が好きって聞いたから。その、頑張ってみたの。感想、教えてね?」

「あ、うん、うん……」


 やばい。もう、これだけで唇が綻んでしまって――。




「「現役夫婦より、夫婦感強いね」」


 父ちゃんも母ちゃんも、食べたらさっさと仕事に行って! 喉元まで、出かかった、そんな言葉が霧散してしまったのは――。



「空君、今度一緒に体育館でバスケしよう!」


 そんな翼の笑顔を見てしまったせいなんだと思う。

 今度は俺から、翼に何かを贈りたい。

 そう思ってしまった俺は、かなり兄ちゃんに毒されている気がする。





 ――贈り物ってさ。もっとその人を喜ばせたい、感動させたいって思うから、なおさら考えこんじゃうよね。大事にしてもらったら、本当に嬉しいし。俺がその笑顔を引き出したいって思っちゃうから、なおさらね。


 寝る前に、兄ちゃんが言った言葉が忘れられない。


 俺は、翼に何を贈れるんだろう?

 答えのない迷路に、入り込んでしまった気がする。あの笑顔以上を。今度は俺が贈りたいと思ってしまっていて――いったい俺は何を考えているのか。


 頬が熱い。


「空君?」

「な、なんでもない! なんでもないから!」


 誤魔化しながら。

 でも、やっぱり今度は俺から贈りたい。

 あの笑顔以上、自分の手で引き出したい。そんな考えから抜け出せられなくて。



 完全に、答えのない迷路に迷いこんでしまったんだ――。

 





________________


※1

R-18小説は未成年が閲覧してはいけません。

(まぁ作者が同年代の時は、そうは言いながら本を購入してたね!)


※2

今回のお話はTwitterで毎月開催されている毎月300字小説様の

R5.4月度お題「靴」が忙しくて参加できなかったので、遅刻サイレントリベンジと思っていたのですが、そもそも300字にならなかたっという顛末(笑)


まぁ、これはこれでということで(^^ゞ


 

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