tontonton ✕ nyannyannyan EX-Trac(EP 102読了推奨)


 少しだけ前を歩く空君の背中が、ちょとだけ寂しそうに見えたのは、私の気のせいじゃないと思う。


「……空君?」


 声をかけて、ようやく気づいたのか、私の方を振り返る。


(優しいなぁ)


 気付いたら、すぐ歩調を私に合わせてくれるんだ。同年代の男の子は、絶対に見せない姿だった。


「ごめん、なんでもないか――」


 何でもない人がそんな顔をするワケないじゃん。やれやれ、と私は空君の頬をつく。


「へ? 翼?」

「らしくないなぁ。お姉さんのことが心配?」

「べ、別に。俺は、シスコンじゃないし!」

「それは関係ないと思うけど?」


 空君がお姉さんのことを大切に思っているのは事実だ。でも、蔑む理由にはならない。コンプレックスの意味を、周りも空君も誤解している気がする。


(それだけ大切に思っているってことだよね?)


 そりゃ、ね。今まで見たこともない、女の子な表情を目の当たりにしたら、そりゃ戸惑うと思う。


 あれは、お兄さんにしか見せない、恋する女の子な表情カオだって思うから。


 だからこそ。

 お姉さんっていう存在に、私は絶対に負けられないの。


 敵は手強いけど、負けるつもりはない。だって、お姉さんよりも。みーちゃんよりも、彩翔君よりも。誰よりも、私が空君を溶かしてあげるんだ。それは絶対、誰にも譲らないから。


 ――だから、意図的に話題を変える。


「空君も男の子だね」

「……へ?」

「だって、お部屋にあったDVDに視線が向いていたから」

「な、な、な、なに言ってんの! 目のやり場に困ったのは事実だけど、そっちはちょっとしか見て――」

「見てたんじゃん、バカ」


 自分で話題転換しておきながら、ちょっとだけお姉さんの気持ちが分かってしまった気がする。これは……かなり、面白くない。ちょっと許容できない。


「ふぅん。空君って、そういう目でみーちゃんのことも見てるんだ?」

「誰が見るかよ! むしろ見ているのは、翼の方で――」


 とまで、言って空君は慌てて自分の口を手で塞ぐ。私は思わず、目を丸くした。


 他の男の子なら、気持ち悪いと思ってしまうところだ。それなにのどうして、か。空君にそう言われて悪い気がしない。でも、そういう目で見られるのは、やっぱり複雑で。

 だから、彼の背中を追いかける。


「――空君のえっち」


 通り過ぎるその瞬間に、そんな言葉を放り投げて。それから私は彼を追い抜いていく。


「ちょ、ちょっと待って、翼! 誤解だから、本気で誤解だから!」


 私は歩調を緩めてあげない。

 背中に追いすがるように、必死に空君が名前を呼ぶから、つい頬が緩んでしまう。


(仕方ないなぁ)


 くるっと、振り向いてあげて。

 何で妥協してあげようかな?


 クレープ?

 パフェ?


 32サーティーンニャンのアイスをダブル?


 え? 映画?

 それって、デートってこと?


 みーちゃんと彩翔君も一緒なんて、言わないでよ?


 うん?

 私、これでも怒っているんだからね。


 

 うん、うん。

 うん。


 ……。


 うん、分かればよろしい。でも、そんなに落ち込まないでよ。別に本当に怒っているワケじゃないから。


 ただ、ね――。










■■■











 モノであれ、何であれ。誰だって。空君が他の子をそういう目で見るのはイヤなの。ただ、それだけなの。






________________



本編、EP102でmakanoriさんからコメントをいただいて。


>帰り際になんだかんだ空君が無自覚爆弾発言ブッパしてしてくれているのでは?!なんてw


というわけで、物語の行間は読者様にお任せするのが良いと思うのですが、例えば、空君とつーちゃんには、きっとこういうやり取りがあったんだろうなぁ、と。でも本編文字数により割愛したエピソードをなぐり書きしてみました^^;


コメントいただくと、そのお言葉を受けて、つい物語が膨らんじゃう尾岡なのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る