冬のある日

#冬という言葉を使わずに冬を一人一個表現する物書きは見たらやる

(Twitterより)



硝子が霜で覆われて、庭の向こう側が見えない。二人で肩を寄せ合い、ぼーっと見やる。ストーブで少しずつ熱せられて、窓が汗をかいた。そこに君は指を動かして傘を描く。

「え? あいあい傘?」

 fuyuki,yuki。そう書かれていた。




■■■



【コタツ】


「はい、姉ちゃんと兄ちゃんは向き合って座ってね」


 冬は寒いので、コタツをどうしても求めてしまう。でも、そうなるとこの二人が俺の時間まで侵食してくるわけで。ゲームに集中している時ならまだしも。冬休みの課題を消化しないといけない今、姉ちゃんと兄ちゃんが醸し出す空気、その全てが毒でしかなかった。


(こういう時にかぎって、翼が来れないんだよね――)


 カリカリ。シャープペンシルを走らせる音が聞こえる。こう見えて、姉ちゃんは地頭が良い。冬希兄ちゃんは器用なので、課題をそつなくこなしていく。二人で苦手なトコを教え合いながら。


(英語は翼が得意なんだよね。普段なら翼に聞くのに――)


 モゾッとこたつの中で、動いた。と冬希兄ちゃんが耐えられなくなり、笑いを溢す。


「ゆ、雪姫、やめて。く、く、く、くすぐった――」


 何やってんだ、こいつらは。いや、聞かない。聞かないよ。

 真面目に課題に取り組む振りをして、姉ちゃんはどうやったら兄ちゃんとイチャつけるかを真剣に考えていたらしい。我が姉――どうしてこうなった。

 と今度は、姉ちゃんが体をビクンと震わせた。


「へ?」

「ッ。や、やン。冬君、足が長いから。そ、そこはダメ……だからっ」

「ん? 何が? ちゃんと言ってくれないと分からないけど?」

「ふ、冬君のイジワルッ」


 イジワルとか言いながら、何で蕩けた顔になってるのかな、このバカ姉は。

 俺は課題をバタンと閉じて、自分の部屋に戻ることにした。


「へ? 空君?」

「空?」

「……翼と電話するから、部屋に戻るね」


 ニッと笑って見せる。そりゃくっついていたい二人だ。水をさせば、そりゃ反動もひどくなる。ああ見えて、お互いに自制することもできる二人。ただ、周りが見えていないだけ――とつい苦笑が漏れてしまう。


 と、デスクに放り投げた、鳴る予定のないスマートフォンが着信を告げた。

 へ?

 取れば、翼からで。


「空君、今日はごめんね。明日は大丈夫だから! ちゃんと予定空けたからね」

「翼?」


 彼女の声を聞いて、なおさら声が聞きたくなって、会いたいと思ってしまったのは――きっとあの二人のせいだ。


「翼、あのさ」

「ん? なに空君?」

「――声が聞けて嬉しかったよ」

「へ……」


 と翼が固まる。何故か電話の向こう側で、慌てている。あ、何か物を落としたらしい。ガッシャンガッシャ、音がしたり。ぶつかった音がする。


「……と、突然すぎるよ!」


 今日はもう通話もできないと思っていたから。素直に自分の気持ちを言ったのに。何故か翼に怒られた。



※作者注

冬君はスカートのなか、ゆっきの膝裏を足の指でこちょがしていました。だからセーフですよね?





■■■





【雪合戦】



 雪が降って、一面が真っ白になった。

 となれば、することは一つしかないでしょ!


「雪合戦しよう!」


 冬希兄ちゃん、姉ちゃん、俺に翼、彩翔に湊、海崎先輩に黄島先輩に瑛真先輩。音無先輩――よううはフルメンバーに、子ども会のちびっ子達も参戦となって、人海戦術の様相を示した。


「手加減しないよっ」


 と姉ちゃんの雪玉が――俺の顔面に放つ。


「ね、姉ちゃん……チーム俺と一緒でしょ……」

「だって、冬君には投げられないよ」

「イチャつかれるのイヤだから、わざとチーム分けしたのに、意味ないじゃん!」

「よし、じゃぁフォーリンナイト形式で!」


 そう言ったのは彩翔だった。


「バトルロワイヤル形式ってこと?」


 と翼。


「そうそう。誰が生き残るか、戦意喪失するまで試合継続ってこと、で。覚悟、空!」

「へ?」


 なぜか雪玉がマシンガンのように、俺に襲いかかる。


「なんで、俺に集中攻撃?!」

「空っちもイチャついてるしね」


 黄島先輩、それは人を冤罪と言う。


「鈍感はギルティー」


 翼はもう言っている意味わかんない。


「俺達の天音さんを攫ったバツ!」


 いやクラスメート諸君。なんで参加してるの?


「なんか、ムカついたから」


 姉ちゃんが一番、ひどい!?





 と小さな雪玉がぺちっと、翼に当たる。


「へ?」


 見れば、小学2年生の葵ちゃんが、翼に向けて第2、第3の雪玉を投げ放つ。子ども会の行事で、よく俺に懐いてくれた子だった。


「ぽっと出の女なんて、こんなもんだもんね。空君、これで分かったでしょ? あのおばちゃんは、空君にふさわしくないと思うの!」

「はへ?」

「お、お、おばちゃん?!」


 翼がムキになって怒り出した。子どもの言うことだから、ちょっと落ち着きなって。

「そういえば、空っちって小さい子にモテていたもんね」


 黄島先輩、発言の撤回を要求する。モテていない。ただ懐かれやすいだけだからね。


「ざんねんでしたー」


 べーっと葵ちゃんが舌を出す。


「どこの牛の骨か知らないけれど、わたしは空君と結婚の約束をしたんですー」


 馬の骨ね。牛骨って、出汁がよく出そうだけど。


「あぁ、おままごとで?」


 あの翼さん? そこで煽らないで。大人気ないから!


「おままごとじゃないもん。本当に約束したし、チューだってしたんだから!」

「え?」


 ジロリと何故か翼が俺を睨む。してないし。幼女にそんなことをする趣味ないから!


「空君が居眠りしていた時に、ほっぺにチューしたもん」


 へ? いや、それをキスのカウントに入れるのどうかと――。


「そんなの同意ないヤツじゃん。無効だよ、無効!」

「ゆーこうーだもん。今日は唇にチューしてもらうもん。もう赤ちゃんだって、できちゃうんだから!」

「残念でしたー。赤ちゃんは、それぐらいじゃできませんからねー!」

「じゃぁ、どうしたら赤ちゃんできるのか、お姉ちゃんは経験済みなの?」

「はぁ?!」

「何よ?」


 これ、公園の真ん中で話す内容じゃなくなっているから。と、俺は二人に向けてため息をついた。


「ちょっと、二人とも落ち着いて――」

「「空君は黙ってて!」」


 息ぴったりじゃん。


 と二人は俺に向けて雪玉を投げ放つ。

 見事に、俺の額に雪玉が直撃した。


 あのさ……雪玉に石をいれるの危険だと思うんだよね。強度と飛行距離は確かにのびるけどさ。あと同様に氷玉も一緒だからね。


 翼、素手で雪玉を作ってたもんね。だいたい負けず嫌いなんだよ。バスケもそうだけどさ。


(絶対、冷たくなってるでしょ、その手――)


 そんなことを思いながら、俺は意識を手放した。

 



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