明日まで待てない


twitterのお題botで「彼(彼女)が帰ってしまって、寂しくて明日まで待てない」というお題があったと思ったのですが、ブックマークし忘れて詳細不明。確かそんなお題があったという仮定のもと、殴り書き。時系列としては、EP6~EP9の後ぐらい。弟君視点。



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「はぁ……」


 姉が小さく息をつく。ゲームしながらそんな姉を盗み見る。ダイニングでスマートフォンを見ながら、何度目かのため息がまた漏れていた。






 時は数日前に遡って。

 クラスメートがプリントを届けにきた――。


 インターフォン越しにそう聞いた時、つい身構えてしまった。コイツらまた姉ちゃんを傷つけに来たのか。すぐに追い出してやる、そんな暴力的な気持ちをかろうじて抑えて。


 姉ちゃんが玄関に出た。それすら、ありえなかったことなのに――姉ちゃんが過呼吸にならなかった。俺はそれが信じられない。


 と、姉ちゃんの体がふらつく。


 姉ちゃんは食欲がなく、ココ最近まともに食事を摂っていなかった。よろめくいて倒れそうになった。そんな姉ちゃんを抱きしめるようにアイツは支えた。


(おい、コラ離れろ。気安く触るな)

 そんな俺の心の声が届くはずもなく。


「イヤじゃなければ、だけれど。何か料理しようか?」

 アイツ――冬希兄ちゃんはそう呟いた。

 こうして物語は動き出したのだった。





 最初、冬希兄ちゃんはバカなのかな? と思った。大見え切った割にオムライスは失敗に終わったのだ。でも、飾らないその姿が姉ちゃんには良かったらしい。


 冬希兄ちゃんは、良くも悪くも素直だった。深く入り込まないし、急かさない。強制的に意思決定をさせない。姉ちゃんの言葉を待つし、不安になりそうになったら寄り添ってくれる。


 昔の姉ちゃんを知る人たち誰もが、そんな対応できなかったんじゃないかと思う。


 だから――姉ちゃんからの口から微笑が零れて。

 つい、俺は見とれてしまった。


 そしてふと我に返る。

 一番バカなのはソファーの陰から二人を見守っていた俺だったのかもしれない。

 でも、今さら出るわけにもいかず、息を潜め続けた俺を少しで良いから同情して欲しい。


 心配性? 過保護? シスコン? うるさいよ。


 さっきシスコンって言ったヤツ。そこは断固抗議するからね。家族として心配だっただけで、決してシスコンじゃないから。そこは間違えないように。コレ絶対だから!






 姉ちゃんが何度目かのため息をついた。悩んでいるというより、甘い吐息とでも言えば良いか。


 俺が近づいたことすら、気付いていなかった。


 見れば、スマートフォンに映る冬希兄ちゃんと猫の写真を見ていた。兄ちゃんが自撮り写真を送ってくれたらしい。


 この白猫が噂のルル君か。でも、と首を捻る。俺、この猫をドコかで見たことある気がするんだよね。一体どこで見たんだろう?

 と姉ちゃんが兄ちゃんの写真――その頬のあたりを触れる。


「……会いたいなぁ。早く明日にならないかな」


 吐息を漏らして。

 俺は衝撃を受けた。姉ちゃんを知る人たちは、きっと俺の反応をしてくれるはずだ。


 だってあの姉ちゃんが、だよ?


 少女漫画なんか、てんで興味がないあの姉ちゃんが。

 アクション物にある恋愛描写は、むしろジャマだって言っていたあの下河雪姫ですよ?


 好きとか恋とか、そういう感情はまったく理解ができないと言っていた、姉ちゃんが。

 だから告白されても、断った姉ちゃんが、だよ?


 これを衝撃と言わずして、何を衝撃と言うのか。最早、俺の辞書には衝撃と言う文字しかない。


 とりあえず落ち着け俺。

 このままま姉ちゃんを放っておけないので、声をかけた。


「上川先輩、明日も来るって言ってたじゃん」

「……そうなんだけどさ。夜が長いもん。明日まで遠いよ。早く冬君に会いたいんだもん」


 上川君と呼んでいたと思うのだが、どうやら心のなかで【冬君】呼びをしていたらしい。

 と、姉ちゃんが硬直した。


「そ・ら?」


 目をパチクリして――はっと我に返る。慌てて、スマートフォンを隠そうとするが、時すでに遅しだ。姉は顔を真っ赤に染めて、涙目で俺を睨む。


「の、覗くなんてひどい! デリカシーがない! 空のえっち!」

「いや、何回声をかけても、姉ちゃんが返事をしないからでしょ? こっちは気分悪くなってないか、呼吸苦しくなってないか心配してたのに」


 プイッとそっぽ向く。流石に悪いかと思ったのか、姉ちゃんはごめんと言葉を漏らす。でも、視点のその先にあるのは、スマートフォンの待ち受け画面で――俺は眩暈を憶えた。


「……」

(待ち受け画面、上川先輩にしてるの?!)


 心の声を漏らさなかった俺を褒めて欲しい。

 冬君呼び。そして明日まで待てないほど焦がれて、上川先輩を待ち受け画像に?


 恋なんかよく分らない、恋愛なんか興味ない。推しは二次元と言っていた姉はドコに行ったの?


 もうすでに、恋しちゃってるじゃん。決定打じゃん!

 呆れて声が出ない。


「あ、あのね」

「へ?」

「空、勘違いしているかもしれないけど。違うからね?」

「ん?」

「か、上川君とはただの友達だから。そ、空が想うような関係じゃ無いからね」

「……」


 顔を真っ赤にして、蕩けてしまいそうな目で。スマートフォンに映る上川先輩をチラチラ見ている姉ちゃん――何の説得力もないから!


「……ま、姉ちゃんが幸せそうで良かったよ」


 俺の言葉に、ぽけっと間の抜けたような表情を浮かべ――それから姉ちゃんは満面の笑顔を咲かせた。


「うんっ」


 スマートフォンを抱きしめながら、全力で頷く。

 こんなに笑顔を咲かせる姉ちゃんを見たのは、何年振り――いや、むしろ初めてかもしれない。

 姉ちゃんって、こういう表情カオをするんだなぁって、としみじみ思う。


 でも申し訳ないが、一言だけ言わせてくれ。



 ――うちの姉ちゃん。それでも、友達って言い張るんだけどさ。コレどうしたら良いのさ?











■■■





おまけ。

Twitterでのハッシュタグ(創作系)に便乗。EP35以降。

(一部改稿)



#ウチの子が寝言を言った




雪姫「ふゆ君……ふゆ君……」

冬希「雪姫……」



空「……寝ていてもイチャつくのかよ!」


リビングのソファーでうたた寝する二人。自然と相手の手を求め合っている。空君は無視を決め込むものの、つい反応してしまうのでした。どうもお疲れさん。


自覚したら、自覚したなりに弟君の受難は続くのであった。まる。


to be continued……。(では次回)

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