第46話 ダリフの目的
闇の魔力を迫害するシャステルへの復讐のために光の魔力を持つ王子を殺す。
過酷な暮らしから抜け出すために便利な能力を持った聖女を誘拐する。
確かにありそうな動機ではあるが、アルムからすると聞いていて違和感を覚える。
「復讐がしたいだけなら、わざわざこんなところまでヨハネス殿下や私を連れてくる必要がないじゃないですか」
アルムを人質に取ってヨハネスを呼び出し殺すだけなら、なにも渇きの谷まで来なくとも、王都の人気のない場所でもよかったはずだ。
「ここは瘴気が濃い、お前達にとっては危険な場所だが、闇の魔力を持つ俺にとっては有利な場所だ。だから――」
「でも、この岩場は光の魔力で守られているのを感じます。――もう大分薄れてはいるけれど」
アルムがそう言うと、ハールーンが大きく息を吐いて、きっと顔を上げた。
「ここは、もともとは聖域だった。アーラシッドの民にとっての。ここはかつて、緑あふれるオアシスで、わしらの祖先が平穏に暮らしていた。だが、シャステルに攻められ、虐殺された民の恨みと嘆きが瘴気となり谷底にわだかまった……神聖な場所は穢され、生き残った民は瘴気に怯えて暮らさねばならなくなった」
ハールーンの語る話は、またまたアルムには初耳だった。
渇きの谷はもともと呪われた場所で、始まりの聖女によって瘴気が邪霊となって谷の外に出てこないように封印された、と歴史や伝説ではそうなっている。
「瘴気が強くなれば谷底から吹き上がる風も強くなる。風は砂漠を広げ草木を枯らし、オアシスをどんどん小さくしていった。だから、風を生む瘴気を抑えるために――」
「ハールーン!」
ハールーンの訥々とした語りを、ダリフが遮った。
「余計なことを喋るな! お前はオアシスに帰れ!」
「――なるほど。やっぱりか」
黙って聞いていたヨハネスが、溜め息混じりにそう言った。納得したとでも言いたげな表情で、ダリフとハールーンを見据える。
「俺をここに連れてきた目的がわかった。――生け贄だな」
「生け贄……?」
アルムは思わずヨハネスとマリスを見比べた。
物語で化け物や邪神に捧げられる生け贄はたいてい美女だし、自分がもしも邪神だったら、やっぱり捧げてもらうならヨハネスよりマリスの方がうれしい気がする。
「おい、アルム、今なにか失礼なこと考えただろ?」
「いいえ、滅相もない」
アルムはぷるぷると首を横に振った。
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