第45話 語られた動機




 しばらくすると少し広い空間に出た。小部屋のようになっているその場所を突っ切ると、また細い通路を進む。その通路の先は外に通じているらしく、光が見える。


「あそこだ」


 ハールーンが足を早める。アルムはエルリーを抱っこして小走りについていった。

 通路を抜けた先は崖の中腹にせり出した岩が広い足場を作っていて、見知らぬ男女がマリスを捕まえ、ダリフがヨハネスを縁に立たせてナイフを突きつけていた。


「マリス! 大丈夫? 怪我してない?」


 アルムはマリスに声をかけた。


「アルム! やっぱり私がヒロインよ!」

「ぐうっ……!」


 マリスが勝ち誇ったように笑みを浮かべ、何故かヨハネスが悔しげに呻いた。


「ダリフ! やめろ!」

「……もうきたのか、ハールーン」


 振り向いたダリフはハールーンを見てふっと笑った。


「お前はここにいてはいけない……俺の復讐の邪魔をするな」

「復讐?」

「そうさ。教えてやろう、シャステルの王子。俺は闇の魔力を持っていたために、実の親に砂漠に捨てられた。運よく砂漠の民に拾ってもらえたが、過酷で貧しい暮らしにはうんざりだった」


 谷の底からは瘴気を含む強い風が噴き上がってくるが、この岩場の上には瘴気が流れてこない。まるでなにかに守られているようだ。

 ダリフが風の音に負けないように声を張り上げる。


「オアシスから出て盗賊になった連中が王都で捕まったと聞いた時、聖女アルムの噂を聞いた! 聖女アルムはなにもないところにでも食物を生み出せると! そんな存在を手に入れれば、食うに困らないどころか金になると思ったのさ!」


 ダリフは喋りながらヨハネスの首元にナイフを突きつける。


「ついでに聖女を餌にして、光の魔力を持っていて神官をやっているとかいう王子を殺してやろうと思った! 闇の魔力を持つ子供を捨てるシャステルへの復讐だ!」

「ダリフ……もうやめろ……」

「ハールーン! お前は砂漠で惨めな暮らしを続ければいい! お前のお守りにももううんざりしていたところだ! 俺は聖女アルムを使って楽な暮らしを――」


「それはおかしいですね」


 アルムはダリフの言い分の途中で口を挟んだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る