第25話 元ホームレスの性



 例の全裸になったとおぼしき兵士略して全裸兵士を問いつめたところ、砂漠の民への援助を快く思っておらず荷を運べなくして王都に引き返すために呪具を使用したことが判明した。


 これに対し、ダリフが激怒した。


「援助はシャステルの側から言い出したことだろう! 嫌ならば王都から出ぬままでいればよかったのだ! なによりも、貴様らはハールーンを危険にさらした! ハールーンが傷のひとつも負っていたら、アーラシッドの民はシャステルの民を決して許さぬ!」


 お怒りはごもっともなので、ヨハネスは神妙な顔つきで頭を下げていたし、アルムも黙って聞いていた。


「貴様らシャステルの民は闇の力を嫌い迫害するくせに、自分の都合のためには考えなしに闇の力を使おうとするのだな!」


 ダリフは嫌悪感をたっぷりに吐き捨てた。主の身に危険が及びそうになったのがよほど許せないらしい。


 ハールーン本人はむしろそんなダリフをなだめていたのだが、結局は怒らせたまま進行を再開することになり、一行の空気は非常に気まずいものとなった。


 ちなみに、全裸兵士は腕を縛った上で他の兵士の見張りつきで歩かせている。


(まずいなあ。砂漠に着いた途端に「もう帰れ」って追い返されそうな雰囲気だ)


 友好関係を築く目的の援助だったのに、ワイオネルもこの事態を知ったら頭を抱えるだろう。


 ぎすぎすした雰囲気のまま旅は進み、日暮れ頃に今日の野宿予定地であるテライナ山脈の麓にたどり着いた。


 テライナ山脈はごつごつした茶色い岩山の集まりだ。辺りになにもない中にぽつりとそびえるその姿から、昔は『神の腰掛け』とも呼ばれていた。その名のとおり、山々の頂上付近は風に削られて平らになっている。

 足場が崩れやすいことに気をつければ荷馬車を牽いても越えられるくらいのなだらかな低山だが、ここに山がなければ王都の砂害は非常に深刻なものとなっていただろう。


「おやまー!」


 太陽は山の向こうに沈んで、宵闇に浮かぶ黒い巨魁と化した岩山を見上げてエルリーがはしゃいでいる。

 兵士達と砂漠の主従は野宿の準備に取りかかり、ヨハネスも馬の背から荷を下ろしながらアルムに問いかける。


「アルムとエルリーは俺の天幕を使うか?」


 自分は他の兵士の天幕に入れてもらうと言うヨハネスに、アルムは「結界を張るので平気です」と答えるとベンチの周りに結界を張って寝転がった。


「ひさびさの野宿だーっ!」

「仮にも男爵家の娘が野宿ではしゃぐんじゃない」

「すいません。元ホームレスの性で」


 ヨハネスの苦言をやり過ごして、アルムは空を眺めた。まだ少し薄明るい空に、すでにちかちかと星が瞬き出している。

 さえぎるもののない荒野では、空が途方もなく広く見える。

 朝日が昇るとすごくまぶしそうだな、と思ったアルムは、木を一本生やして頭上の高い位置で枝を絡み合わせて簡単な日よけの屋根を作った。


 そのアルムの様子を、少し離れたところからハールーンがじっとみつめていた。



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