第24話 ダリフの疑問






 突然起こった騒ぎに空を見上げてみれば、確かに邪霊が浮かんでいる。


 直前までいやな気配も感じなかったけれど、どこからやってきたんだろうとアルムは不思議に思った。


「邪霊だ。アルム、頼めるか?」

「はーい」


 ヨハネスに言われるまでもなく、さっさと消してしまおうと空に手をかざしたアルムだったが、その前に邪霊の指がうにょうにょと伸び出した。


「うわっ、気持ち悪っ」


 その蛇のような動きに一瞬怯んだアルムの耳に、「なんだあれは!?」という叫び声が聞こえた。

 見ると、馬を連れて戻ってきたハールーンが空を見上げて愕然としている。ハールーンの後ろにはダリフの姿も見えて、異変に気づいた従者は主に駆け寄ろうとしていた。


 生き物のように動く指は、そんなハールーンに向かって伸びていく。


「危なーいっ!」


 アルムの放った巨大な光の刃が十本の指を切断し、そのまま邪霊の本体もまっぷたつにした。


「さすがだな、アルム!」

「おばけ、消えちゃったねー」


 ヨハネスが胸を張り、エルリーがつまらなそうに呟く。

 そのまま何事もなかったかのようにお茶を再開しようとしたアルムだったが、その前に息を切らしたダリフが立ちふさがった。


「……どういうことだ?」

「はい?」


 アルムは首を傾げた。


「何故あんなものが現れた? 貴様ら、なにをした?」


 こちらがなにかしたと決めてかかるダリフに、ヨハネスが眉をひそめながら立ち上がって対応した。


「今のは邪霊だ。どうして現れたかはわからないが、もう退治したから安心して……」

「ふざけるな。そんなわけがあるか」


 追いついてきたハールーンが肩を掴んで止めようとしたが、それを振り払ってダリフは言い放った。


「この辺りで発生した瘴気が寄り集まって邪霊に成長することはあり得ない。すべて渇きの谷にのみこまれるからだ」


 言われて、ヨハネスははっとした。アルムも「そういえば」と頭をかいた。


 瘴気にはより強い瘴気に引き寄せられ吸収される性質がある。渇きの谷の底には始まりの聖女でも浄化できなかったとされる瘴気がわだかまっているのだ。

 それが事実なら、この付近に瘴気が残ることはないだろう。


「じゃあ、あの邪霊は……」


 アルムが呟いた時、荷馬車の方から兵士達が騒ぐ声が湧き上がった。


「おい、なんだこの札? お前が持っていたんだろ?」

「こっちになにか割った後があるぞ!」


 兵士達に詰め寄られて腰を抜かしているのは、例の全裸になったとおぼしき兵士だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る