第20話 ふたりの王子
「な、なぜヨハネス殿下までこんなところに……?」
突然現れた第七王子に、使者は青くなりケイナン伯爵は大いに戸惑っていた。
「使者の同行はここまでだろう。ここから先は俺が聖女アルムの警護を務める」
そのために来たのだとでも言うように胸を張るヨハネスに、使者はうろたえて言い募った。
「し、しかし、ヨハネス殿下まで砂漠に赴くなど危険です! お考え直しください! もちろん、聖女様も! ご一緒に王都へと戻りましょう!」
兵士達でさえ砂漠まで行くのを嫌がって、物資を運ぶ志願者がほとんど出なかったほどなのだ。命令で仕方がなく、以外の理由で砂漠に行きたい者などいるはずがないと使者は思っていた。
「控えよ。そなたの任務は物資を引き渡した時点で終わっている」
ヨハネスは冷たい声でわざと王子らしい言い方をした。使者は王子の決定に異を唱えられる立場ではない。
「大儀であった。王都まで道中気をつけて戻れ」
「……はっ」
使者を黙らせた後で、ヨハネスは部屋の隅にうずくまって震えているハールーンに向き合った。
「お初にお目にかかる、アーラシッド殿。私はシャステル王国大神殿神官のヨハネスだ。故あって、聖女アルムと共に砂漠まで同行させてもらいたい」
「もう駄目じゃ……シャステルの王族まで現れた……傍若無人な王子と聖女の魔の手によって我が一族の平穏はぶち壊され、無力なわしは細切れにされてサソリの餌にされるに違いない……」
「はーるん、よしよし」
なにやら恐ろしげな想像をしちえるハールーンの頭を撫ぜて慰めるエルリーが、ヨハネスに向かって頬をふくらませる。
「よーねる殿下、はーるんいじめたら、めっ!」
「いじめていないが!?」
とんだ濡れ衣を着せられて、ヨハネスは助けを求めるようにアルムを見た。
「おい、俺が来る前になにかあったのか? 何故、彼はこんなに怯えているんだ?」
「なにかあったかと言えば……兵士がひとり全裸になったそうですが、それとは関係なくハールーンさんは繊細で落ち込みやすいようです」
「全裸に!? いったいなにが……」
余計に困惑するヨハネスと、頭を抱えて嘆くハールーンとの間に、すっとダリフが立った。彼はハールーンを背中にかばうようにして口を開く。
「いきなり同行を申し出られても、こちらは受け入れられない」
強い敵意を含んだ声だった。
ダリフは切れ長の目に嫌悪の色を隠さずにヨハネスを睨みつけた。
砂漠の民がシャステルの王族であるヨハネスに悪感情を持つのは当然のことなので、ヨハネスは怯まなかった。普通ならこれだけの敵意をぶつけられたら少なからず動揺するであろうが、ヨハネスは普段から主に聖女達から敵意とかあれやそれやを向けられることに慣れていた。
「もちろん、無理を言っているのは承知している。……私はアーラシッド殿に申し出ている。返事をお聞かせ願いたい」
言外に「従者の出る幕じゃない」と言ってやれば、ダリフが口元をひきつらせる。
ふたりの男の間に火花が散った。
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