第17話 とある兵士の心情
なにやら聖女がすごい奇跡を起こしたとかで、荷馬車を修理していた兵士達もそちらを見学に行ってしまった。
「お前も行こうぜ」
「ああ。後から行くよ」
そう言って仲間を見送ってひとり残った兵士は、軽く舌打ちすると荷馬車の列に近づいた。
「なんで砂漠の民なんかに物資を運ばなきゃならねえんだ……砂漠まで行くなんて冗談じゃねえ」
この援助に大いに不満を抱いて彼は、慎重に辺りに人気がないことを確かめると懐に手を入れた。
「だいたい、ちょっと前に王都で騒ぎを起こしたのは砂漠の連中じゃねえか。盗賊団とは関係ないなんて嘘に決まってらあ」
盗賊団を捕まえた時に、砂漠の民も一網打尽にしてしまえばよかったのだとひとりごちる。
「なのに、なんで罰を与えるんじゃなくて援助になるんだ。あんな蛮族、滅びたっていいだろ」
王都で生まれ育った彼が砂漠の民に抱く印象は未開の蛮族、食いつめて盗賊になる迷惑な存在といったろくでもないものだ。
そんな連中のために食料を与えるだけでも業腹なのに、砂漠までそれを運ぶ役目まで負わされたことに我慢がならなかった。
兵士は懐から取り出したマッチを擦って火をつけた。
闇市で怪しい露天商から買った呪具を仕掛けて出発を阻止するつもりだったのに、たまたまそばにいた聖女に邪魔された。
ではこれなら、と荷馬車を壊したのに、何故か同行していた聖女が荷馬車を浮かせて運ぶという荒技で対処されてしまった。
「こうなったら燃やしてやる……」
積み荷が火に包まれてしまえば、聖女にもどうすることもできまい。
そう考えてマッチの火を積み荷に近づけようとした時、背後に人の気配を感じて慌てて振り向いた。
すると、小さな女の子がじっとこちらを見上げているのが目に入った。
確か、聖女が連れていた子供だ。まずいところを見られた。
どうやって誤魔化そうかと考える兵士が口を開くより先に、女の子が肩からぶら下げてた小さな喇叭を口に当てて「ぷーっ」と音を鳴らした。
その瞬間、ぱぁんっと軽い音を立てて、兵士の着ていた衣服がすべて木っ端微塵に吹き飛んだ。
「火遊びは、めっ!」
女の子はきっと眉をつり上げて、頬を膨らませて兵士を叱ると、とことこと歩き去っていった。
後には呆然と立ち尽くす全裸の兵士と、彼の手の中で吹き消されたマッチの棒だけが残された。
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