第16話 私を砂漠に連れてって
干し肉中心の晩餐メニューを見て、アルムは野菜の少なさが気になった。
(水が貴重って言ってたし、野菜もあまり採れないのかな。今は冬だし、余計に手に入りにくいのかも)
食卓に着いているのはケイナン伯爵、ハールーンとダリフ、使者、アルムとエルリーの六人だが、先ほどから誰も喋らない。食器の触れ合うかちゃかちゃという音だけが耳に届く。
(会話がない……どうやって切り出そう)
アルムは硬い肉を噛みながら悩んだ。
「私を砂漠に連れてって」なんて気軽にお願いできる雰囲気ではない。そもそも、ハールーンを吹っ飛ばしてしまった件でダリフからは敵認定されてしまっている可能性が高い。
となれば、残された道はハールーンと仲よくなってお願いするしかない。
アルムは覚悟を決めて口を開いた。
「あのぅ……」
「ひっ……なんだ? わしの食事のマナーが見るに堪えないこれだから蛮族は砂漠に帰れとでも言うつもりか? わしだって砂漠に帰りたい……いや、シャステルの民にあざ笑われたわしなど、同胞の元に帰る資格はないのやもしれぬ……生き恥をさらすぐらいならいっそ埋まりたい」
ちょっと声をかけただけで怒濤のネガティブ台詞を吐いて落ち込み出すハールーンに、これと仲よくなるのは前途多難と悟ってアルムは溜め息を漏らした。
「はーるん、元気だしてー」
エルリーが席を立ってハールーンをよしよしする。
エルリーの皿を見るとほとんど手がつけられていない。硬い肉が食べづらいのだろう。
後でリンゴでも実らせて食べさせようと考えて、アルムははたと思いついた。
(そうだ! これなら……)
アルムは全員が食事を終えたタイミングで勢いよく立ち上がった。
「あの! 私にデザートを用意させてください!」
警戒心たっぷりの砂漠の王子とその従者とうちとけるためにデザートを用意する。
名案を思いついたアルムは早速皆を連れて屋敷の外に飛び出した。
「まずはリンゴと、ブドウイチゴオレンジ~」
地面に手をかざして適当に思い浮かんだ果物を次々に実らせる。
ぽこぽこと荒れた地面から飛び出してきた芽がぐんぐん成長して木になり果実が実る様子を、アルムとエルリー以外は呆然と眺めていた。
デザート用の果物とは別に、一宿一飯の御礼に新鮮な葉物野菜も育てて収穫する。アルムが腕を一振りしただけで、実った作物が枝や根から離れて宙を飛んでひとつところに集まった。
あっという間に、ケイナン伯爵家の前に果物と野菜の山ができあがった。
「ふう。こんなもんかな」
アルムは誇らしげに振り返った。
「さあ、どうぞどうぞ!」
好きなものを食べてくれ、と勧めるのだが、誰一人としてその場から動かない。エルリーだけがちゃっかり果物の山の前に座り込んでイチゴを頬張っている。
「……これが、聖女アルムの力……」
ダリフが小さく呟くのが聞こえた。
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