第20話 突然の大ピンチ
***
KAMABOKOに想いを馳せるアルムに対して、ヨハネスとキサラは事態の深刻さを思い知って青ざめていた。
最初は幻覚を見せられているのかと思った。
だが、水もサメもどう見ても本物にしか見えない。幻覚というものは必ずどこかに曖昧な揺らぎが出るものだ。
もしも、これが幻覚だとしても、それはそれで深刻だ。敵は本物にしか見えない幻覚を見せられるほどの凄腕の強い魔力の持ち主ということになるからだ。
「……とにかく、どうにかして塔から出る方法を探そう」
ヨハネスはいったん全員を通路に座らせて話し合うことにした。五階の下が海のようになっていると伝えると、ロージーがこの世の終わりのような形相で叫び出した。
「し、下の階に行けないだなんて! もう駄目よ! 私達はここで死ぬのよ! 死んで魂は永遠に五階に縛りつけられるんだわ! いやーっ!」
牢番も「ひぃぃ」と声を漏らしながらガタガタ震えている。
セオドアは相変わらず笑顔のままだ。
「少しは慌てたり怯えているように演技しないと駄目ですよ? 最初から怪しさ全開で、今のところ疑わない要素がなにもないじゃないですか」
「ふふふ。私には後ろ暗いところなんてないから、演技する必要などないということさ」
怪しさを少しも隠す気のないセオドアにアルムが忠告するが、彼はまったく態度を改める気がないらしい。犯人じゃないなら堂々としすぎだし、犯人なら取り繕わなさすぎだ。
ヨハネスはアルムの様子をうかがって眉間にしわを寄せた。
(初めて見たサメもまったく怖がる様子がないな……アルムが一番怖いシチュエーションってどんなだ? アルムが怯えたり不安になる状況……大神殿で俺に会うことか?)
他に思い浮かばなくて、ヨハネスは一人で勝手に落ち込んだ。アルムの不安につけ込んで頼りがいをアピールするのはどう考えても無理そうだ。
「それで、どうやって脱出します?」
腕を組んで悩むヨハネスに、セオドアがにこやかに問いかけてきた。
真剣な表情で悩んでいるので脱出方法を模索していると思ったのだろうが、実際に考えていたのは『好きな女の子をどうやったら怖がらせられるか』という外道な作戦である。しかし、ヨハネスはそんなことはおくびにも出さずに「そうだな」と呟いた。
「明かり取りの窓は小さすぎて人は通れないし、やはり下の階をどうにか元に戻すしか……」
ヨハネスの言葉の途中で、ど、ど、ど、と低い音が聞こえてきて、一同は音のする方――上を見た。音は軽い振動も伴っていて、それが徐々に大きくなっていく。
「なんの音……」
言いかけた次の瞬間、六階の階段から大量の水が勢いよく流れ込んできて一同に襲いかかった。
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