第17話 ありきたりでオリジナリティーが感じられない。
***
十体以上の女の姿をしたものが結界を取り囲み、「中に入れろ」とでも言うように不明瞭な呻き声を漏らす。
「わあ~。ねえねえ、これも私の仕業と思ってる?」
怯えて叫んで腰を抜かすロージーと牢番とは対照的に、セオドアは愉快そうにアルムに尋ねてきた。
それには返事をせずに、アルムは結界の外の女達をじっとみつめた。
女の姿をしているけれど、これは瘴気で作られた使い魔だ。使い魔はたいていの場合、鳥や小動物の姿をしているため、人型の使い魔は初めて見る。
人型の使い魔を複数体作ることができるなど、敵が練達の闇の魔導師である証拠だ。
アルムはぐっと唇を噛んだ。
「もったいない……っ!」
「へ?」
首を傾げるセオドアに、アルムは力説した。
「これだけ魔力があるなら、もっとかっこいい使い魔を作ってくれればいいのに! 甲冑を身にまとい黒馬を駆る『闇から生まれた暗黒騎士』とか、伝説の獣フェンリルのごとき『巨大な闇色のオオカミ』みたいな!」
勇者や聖女の前に立ちふさがる敵がしょぼくては誰も物語を楽しんでくれない。敵が強大でかっこいいからこそ、それに立ち向かい打ち倒す主人公がきらめくのだ。
そして、敵であってもかっこよければ人気は出る。
闇の魔力のイメージが『恐ろしいけどかっこいい』となれば、闇の魔力を持つヒーローが現れても民衆に受け入れてもらいやすいかもしれない。
「もっと格好良くて、登場しただけで盛り上がるようなキャラにしてください!」
使い魔のビジュアルに駄目出しするアルム。
「そうだそうだ! こんな女どもに取り囲まれたぐらいでアルムが怖がると思っているのか!? もっと気合い入れて恐ろしい化け物を作れよ!」
ヨハネスもアルムに加勢して使い魔をこき下ろす。
ただの瘴気の塊であり、意思はないはずの使い魔達が、若干戸惑ったような気配を見せてずぶずぶと床に沈んでいった。
しばしの沈黙の後、再び床から黒い影がずずず……と盛り上がる。
今度は黒い馬に乗った鎧兜姿の騎士が一人だけ現れた。
「うん。こっちの方がずっといいです。でも、塔の中に馬に乗った騎士が出てくるのはちょっと違和感があるかな? こんな狭い場所に馬に乗って現れたら『怖い』より先に『邪魔!』って思っちゃうかも」
「言われた通りの格好で出てくるんじゃねえよ! こっちを驚かせようっていう気概はねえのか? 手を抜くんじゃねえよ!」
アルムの指摘とヨハネスの罵倒を受けた騎士は再びずぶずぶと床に沈んでいった。
ややあって、今度は床から骸骨の大群が現れた。ロージーがひきつった悲鳴をあげる。
「骸骨っていうのもありきたりですね……観客の想像を超える展開が来てくれないと盛り上がらないっていうか」
「闇の魔力を持っているだけで皆が怖がってくれるとか過信してるんじゃねえぞ! 怖がってもらいたかったら日々精進を怠らず、聖女が悲鳴をあげるくらいの恐怖を生み出してみせろよ!」
骸骨が床に沈み、少しの間を置いて黒い球体に数本の腕が生えたものが現れた。球体には無数の目があり、ぎょろりとこちらを睨んでくる。
ロージーが泡を吹いて失神した。
「うーん……『こうすれば怖くなるだろう』っていう作り手の慢心が透けて見える気がします。意外性を狙ったようでいて、無難な線を選んでいますよね」
「この程度かよ、がっかりだぜ! こんなんなら塔を出てお化け屋敷で作り物を見る方がマシだな!」
「二人とも、いい加減にしなさい」
駄目出しを続けるアルムとヨハネスに、倒れたロージーを介抱しながらキサラが冷たい目を向けた。
「遊んでいる場合ではないでしょう。アルムはともかく、わたくしと殿下は魔力が残り少ないのですから、一刻も早く塔から脱出するべきです」
キサラに至極まっとうな意見を述べられ、アルムは我に返って恥じ入った。
「すいません。つい、闇の魔力のプロデュースに熱中してしまいました」
反省したアルムは目玉だらけの球体に光を当てて綺麗さっぱり浄化した。
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