第16話 吊り橋効果的なものがあるといいなあ





「犯人はお前達の中にいる!」


 アルムの放った芝居の台本のような台詞を聞いた時、ヨハネスの脳裏にある考えが閃いた。


 塔の中という滅多にないシチュエーション、迫り来る瘴気、怪しい元侯爵……姿の見えない敵に立ち向かうアルムの心は不安でいっぱいのはずだ。

 物語によくあるではないか。不安と恐怖の伴う苦難を共に乗り越えたヒーローとヒロインの間に愛が芽生えるという展開が。


(協力して塔から脱出すれば、少なくとも親密度は上がるはず! 脱出するまでにできる限りアピールを……)


 できればアルムがピンチの時に颯爽と助けに入りたいが、アルムがピンチになるのが想像できない上に、ヨハネスの魔力の残量で助けられるはずもない。


(だが、いきなり塔の中に閉じ込められては、いくらアルムでも心細いだろう。その心に寄り添って、励ましたり元気づけたりして、アルムから頼られる男になるんだ!)


 ヨハネスの心が熱く燃えた。情熱の炎を燃やした恋する男は、どこかにいるはずの敵に向かって願った。


(どこの誰だか知らないが、アルムを少しは怖がらせられるように死力を尽くしてくれ!)


 身勝手な願いを抱きながら、ヨハネスは三人の中から犯人捜しをするアルムを止めて脱出を促した。

 三人の中に犯人がいたとしても、しっかり見張っておけばそうそう妙な真似はできないだろう。今はとにかく脱出を目指して力を合わせて進むべきだ。その道のりで、アルムと距離を縮められれば、とヨハネスは考えた。


 しかし、この作戦には重大な欠陥がある。筆頭聖女キサラの存在だ。

 彼女は普段からヨハネスがアルムに近づくのを邪魔している。『ストーカー更生プログラム』とかいう訳のわからない授業まで強制的に受けさせられ、ヨハネスがアルムに会いに行くための時間と気力を奪う悪魔のような女だ。塔の中でも絶対に邪魔してくるに違いない。


(だが、俺は負けないぞキサラ・デローワン! 塔の中で俺とアルムが心を通わせていく光景を指をくわえて見ているがいい!)


「……何故かむしょうに光の矢を放ちたい気分なのですけれど、この状況で魔力の無駄遣いはできないので堪えますわ」


 ジト目でヨハネスを睨むキサラの腕の中で、エルリーがぱちりと目を開けた。

 目を覚ましたエルリーがアルムにしがみついたとほぼ同時に、床から髪の長い女が生えてきた。




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