第15話 犯人はお前だ! …ってやってみたい
「それでは、このまま脱出するということでいいのかな?」
ヨハネスを牢から出し、全員をアルムの結界の中に入れたところでセオドアが首を傾げてそう尋ねた。
「ちょっと待ってください。その前に」
アルムはセオドアと牢番、ロージーの三人を一列に並べて前に立たせ、彼らをびしっと指さした。
「犯人はお前達の中にいる!」
「えー?」
「うへぇ」
「はわわ」
なにかの小説の主人公が推理を披露するシーンを思い出してやってみたのだが、指をさされたセオドアはおもしろそうに笑みを深め、牢番は叱られたように首をすくめ、ロージーはきょろきょろと落ち着きなく視線をさまよわせた。
「アルム、突然どうしたの?」
「キサラ様。こんなに大量の瘴気が塔の中に入ってくるということは、瘴気をおびき寄せている闇の魔導師がどこかにいるはず……怪しいのは間違いなくこの三人です!」
ワイオネルの様子から、塔以外の場所では異変は起こっていないようだったこと、そしてこの尋常ではない瘴気の量からして、この塔の中のどこかに闇の魔導師がいるはず。アルムはそう考えた。
「この三人の中では、元侯爵が断然怪しく見えますが……」
「ふふふ。心外だなあ」
心外と言いつつ、セオドアはひどく楽しげに微笑む。
「もし私にこんなにすごい闇の魔力があったら、すぐに脱獄しているよ。というかそもそも捕まらないよ」
「それもそうか……じゃあ」
アルムはちらりと牢番に目をやった。
牢番はぶんぶん首を振って否定した。
「とんでもねぇ! オラそったら恐ろしいことできねぇだよ!」
「と、見せかけて実は、的な……正体を隠して牢番のふりをしているのかも」
「とぉんでもねぇっ! オラなんかが闇の魔導師と間違われるなんて……母ちゃん、都会は恐ろしいところだべ~」
手を合わせて祈り出してしまった牢番から目をそらすと、ロージーと目が合った。
「一人で掃除をしていたっていうのも、怪しいといえば怪しい……」
「はわわ! わ、私が闇の魔導師ということにされて、ここで口封じされちゃう!? いやーっ! お父さんお母さん! 先立つ不孝をお許しくださいーっ!」
ロージーは頭を抱えてうずくまってしまった。
「アルム、犯人捜しは外に出てからにしよう」
ヨハネスが結界の外の様子をうかがいながら言った。
「これだけの瘴気……並の闇の魔導師にできることじゃない。この中に犯人がいたとしても、他にも仲間がいる可能性が高い」
ヨハネスの意見に、アルムも頷いた。その時、キサラに抱っこされていたエルリーがぱちっと目を開けた。
「あら、エルリーが起きたみたい」
急に目を覚ましたエルリーは、なにかを気にするように視線を動かした。キサラが床に下ろしてやると、たたたっとアルムに駆け寄って抱きつく。
「エルリー?」
「……あーるぅ、なにか来る」
エルリーが不安げに呟いた次の瞬間、結界の外の床からずずず……と黒い影が盛り上がってきたかと思うと、それはたちまち人の形となり長い髪を振り乱した女の姿となった。
その女の後ろに、同じように影が盛り上がり、長い髪の女が二体、三体……と増えていく。
ロージーが悲鳴をあげた。
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