第14話 怪しい囚人の正体



「えー? そんなことあるわけないじゃない」

「本当だっぺよ! オラの友達の知り合いの叔父さんの従兄弟が上手くいったって言ってただ! 嘘だと思うなら試してみればいいだよ!」

「うっそー、信じらんなーい。夢でも見たんじゃないのー?」


 四階に下りると明るい話し声がして、何故か牢番と囚人が鉄格子越しに楽しげに笑い合っていた。雰囲気がなんとなく女子会っぽい。


「おや、聖女様。今、牢番の彼から異世界の未知の魔物を呼び出すおまじないを教わっていたところだよ。聖女様も聞きたいかい?」


 なんとも怪しい誘い文句に、アルムはふるふると首を横に振った。


「あれ? お掃除の子じゃないか。そうか、上の階にいたんだっけ」


 たった今思い出したとでもいうように、囚人がぽんっと手を打った。いかにも怪しい態度だ。


「掃除に来ている姿を見かけたことは何回かあるけれど、話すのは初めてだね。お嬢さん、お名前は?」

「はわわっ。ロージーといいます!」


 ロージーがアルムの背中に隠れながら名乗る。年上だけどなんとなく小動物っぽいなとアルムは思った。

 ロージーを背中にひっつけたまま、アルムは牢番に牢の鍵を持っているか尋ねた。


「へぇ。鍵ならここに」

「よかった。避難のために囚人を一時的に牢から出す許可をもらったので、鍵を開けてもらえますか」


 アルムがそう言うと、牢番は「えらいこっちゃ」と言いながらあたふたと牢の鍵を開けた。


「ふふふ。まさか聖女様に牢から出してもらえるとはね」


 囚人の男は相変わらず胡散臭い笑みを浮かべて牢から出てきた。

 出してやったのは瘴気から避難するためであって、別に自分のおかげじゃないと思いながら、アルムは新たに自分達の周りに結界を張り直して三人を連れて六階へ戻った。



「アルム! なんか増えたな……ん?」


 戻ってきたアルムを見て喜色を浮かべたヨハネスは、アルムの後ろに続く男を見て息をのんだ。


「お前は……ガブリエル侯爵!?」

「やあ、ヨハネス殿下じゃないですか。おひさしゅうございます。いかにも、セオドア・ガブリエルにございます」


 ヨハネスだけではなくキサラも驚いている。高位貴族同士、見知った相手だったようだ。


「六階に入った囚人はヨハネス殿下だったんですね~」


 高貴な身分の者を護送する際は人目に触れないように顔を布で隠すのが決まりだ。ヨハネスもここに入れられた時は六階に着いてから顔の覆いを外されたので、四階に侯爵がいることを知らなかった。


 アルムは驚いて囚人の男を見上げた。


「侯爵なんですか」

「元、だよ。我が家は没落したからね」


 元、を強調して男――セオドア・ガブリエルが言った。


「私以外の一族の者は辺境に追放されたのに、何故か私だけ『まだなにか企んでいそう』だと言われて取り残されているんだよ。ふふふ、ひどいよね」

「逮捕される前から『笑顔の裏で絶対に悪いことを考えている』とか『腹に一物があるようにしか見えない』と噂されていたからな。『悪いことしていそうな貴族ランキング』ではクレンドールを押さえて毎回一位だった」


 ヨハネスの言葉を聞いたキサラが頷いている。セオドアの笑顔を胡散臭いと感じるのは自分だけではないようだとアルムはほっとした。




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