第13話 巻き込まれた女の子
***
『話はわかった。緊急事態ゆえ牢を開ける許可は出すが、どうやって牢を開けるつもりだ?』
キサラから説明を聞いたワイオネルは深刻な表情で言った。
「そうですね。私が光の刃で鉄格子を斬り落としてもいいんですが」
「え? アルム、そんなこともできるのか? かっこいい」
好きな子の新たな一面に、ヨハネスが胸をときめかせる。
「でも、牢番さんが牢の鍵を持っているかもしれないので、聞いてみてからにします」
『そうか。大神殿に連絡して、塔に神官を向かわせるように言っておく。ヨハネスを頼むぞ、ア――』
「じゃあ、私は四階から牢番さんを連れてきますね」
要らんものを託されそうになったのでそこでリモートを切り、アルムはエルリーをキサラに預けて階段を下りた。五階に下り、四階に下りる階段を目指して通路を通り過ぎようとして――
「ひゃああっ!」
「えっ?」
悲鳴と共に牢の中から人が転げ出てきたのを目にして、アルムは仰天して足を止めた。
年の頃十七、八の下働きの格好をした女の子が、床に尻餅をついてずりずりと後ずさりをしている。
「あわわわわ……」
「大丈夫ですか?」
「ひゃわあっ! ど、ど、どちら様ですかっ!?」
アルムが声をかけると、女の子は大袈裟に肩を揺らして怯えた。
大きな黒縁の丸眼鏡をかけた、見るからにおとなしそうな女の子だ。頭に被った三角巾から、焦げ茶色のおさげがはみ出ている。
(なんで、女の子が一人でこんなところに……?)
アルムは首をひねった。
「いつからいたんですか? さっき通った時は急いでいたから気づかなかったけれど……」
「わ、私、ロージーといいます。牢番小屋で雇われている雑用係なんですけど、先輩の嫌がらせで使っていない牢の掃除を一人でやらされてて……」
彼女の話によると、鈍くさい自分はいつも仕事を押しつけられている。今週は塔の六階と四階以外の掃除を言いつけられたため、仕方がなく五階から掃除を始めたところだったという。
「怖いから早く終わらせたくて必死に床を磨いていたんですけど、急に天井から黒い靄が出てきてびっくりして……」
「そうなんですね。現在、この塔にはたくさんの瘴気が入ってきているんですよ」
「しょ、瘴気!? いやーっ! 死んじゃうっ! 助けてーっ!」
黒い靄が瘴気だと知った途端に取り乱すロージーに、アルムは目を丸くした。
「大丈夫ですから、落ち着いて」
「もう駄目だわ! 私はここで死ぬのよーっ! 死んで塔の中をさまよう怨念の一部になるんだわーっ! 死ぬ前にせめて恋人を作りたかったーっ! わーんっ!」
「大丈夫だって。ほら!」
身も世もなく嘆き出したロージーを落ち着かせるために、アルムは天井からじわじわ染み出してくる瘴気を綺麗さっぱり浄化してみせた。
「私は元聖女で、上の階にも現役の聖女がいるので、瘴気なんか怖がらなくても平気ですよ」
アルムは驚いて泣きやんだロージーに笑いかけた。
ロージーはようやくアルムの格好に気づいたらしく、目を点にして呟いた。
「せ、聖女様なの?」
「元・聖女です。元、です」
大事なことなので、アルムは強く主張した。
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