第8話 監獄塔
「あ~あ。やだなあ……」
アルムは目の前にそびえる塔を見上げて重い溜め息を吐いた。
王都の北東部に威容を誇る監獄塔は、周囲を堅固な壁に囲まれている上に壁の外側には堀が張り巡らされており、塔というよりまるで要塞のようだ。実際に、この壁の中にはかつては王の居城があり、建国したばかりでまだ小さな国だった頃のシャステル王国はこの要塞のような城を中心にして敵と戦い、領土を広げていったと言われている。
しかし、長年の戦いで城はぼろぼろになり、面積を増した王都の中心に新たな城が建てられると古い城は解体され、巨大な塔だけが残された。
新たな城ができて王がそちらに移った後、城の跡地に建つ塔は『監獄塔』として国事犯を収容する場所として使われるようになった。高い壁に囲まれているため、侵入も脱出も容易ではないからだ。
「とにかく、結界だけ張ってすぐに帰ろう」
弟を案じるワイオネルの真剣さに負けて承諾してしまったが、ヨハネスに会うのはやはり気が進まない。
まあ、場所が大神殿ではないし、ヨハネスは鉄格子の向こうなので今回はウニる心配はないだろう。
気は進まないながらも堀にかかる橋を渡り、門番に声をかける。ワイオネルから持たされた面会許可証を見せてしばらく待っていると、目の前で軋むような音を立てて重厚な門が開いた。
ちなみに、囚人との面会理由を『聖女による慰問』としたため、アルムはかつての職場の制服である法衣を着用している。
門をくぐると、塔の手前の低い建物から牢番らしき男が一人、こちらへ向かってくるのが見えた。
「面会の聖女様だべか? オラが扉開けるんで、ついてきてくれっぺか」
訛りのひどい牢番は中肉中背のこれといって特徴のない男だった。若いのか歳を取っているのか、いまいちわからない。
猫背の背中を向けて先に立って歩き出す牢番に、アルムは小走りについていった。
まばらに草の生えた地面の、広大な敷地の中に、ぽつんと建つ古い塔。
煉瓦を積み重ねた六階建ての塔は最上階が王族用の牢で、王位をめぐって争った敗者や陰謀に陥れられた悲運の王子が囚われて憤死した場所だという。
牢番は腰につけた鍵束を握ると入り口の鍵を開ける。重々しい軋み音を立てて扉が開いた。
足を踏み入れると、古くて重苦しい空気がまとわりついてくるような気がした。
牢番はその場に残って入り口を守るつもりなのか、扉の前に立ちアルムを見送る。
(早く済ませて帰ろう)
アルムは肩をぶるっと震わせてそう考えた。
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