第6話 冤罪の危機






 自分を酷使した男を「守れ」と言われても、やる気など起きようはずもない。

 だがしかし、相手は第七王子で、依頼主はまもなく正式に即位する国王代理だ。「なんであんな男を守らなくちゃいけないんだ」などと口に出したら、自分はともかく男爵である兄の立場が悪くなる。

 そう思って、アルムはぐっと口をつぐんだ。


「なんでアルムがあんなパワハラ勘違い野郎を守らなくちゃいけないんだ! 守りたいなら自分で守ればいいだろう! そのくらいの権力持ってるだろうが!」


 アルムが兄のためを思ってのみ込んだ台詞を、当のウィレムがなんのためらいもなく言い放った。


 とても国王代理へ向ける態度ではないのだが、ワイオネルは咎めることもなく話を続ける。


「もちろん、俺はあらゆる手を使ってヨハネスの無実を証明するつもりだ。だが、それまでの間、ヨハネスは牢で過ごさねばならない」


 アルムの脳裏に、鉄格子を掴んでこちらを威嚇するヨハネスの姿が思い浮かんだ。犯罪者というよりは凶悪な珍獣みたいだ。


(ヨハネス殿下が捕まっちゃったなら、大神殿も大騒ぎだろうなあ。エルリーが不安になっていないかな?)


 明日にでも様子を見に行こうかと思案するアルムだったが、それをさえぎるようにワイオネルが椅子から腰を浮かして身を乗り出してきた。


「今回の暗殺未遂、もしも犯人の真の狙いが俺ではなく、ヨハネスだとしたら?」

「え?」


 アルムは目を瞬いた。


「ヨハネスを警備の厳重な大神殿から連れ出すために、暗殺の黒幕に仕立てて牢に入れられるように仕向けた。そうだとしたら、牢の中のヨハネスに暗殺者が差し向けられるかもしれない」

「そんな……」


 顔を青ざめさせたアルムは身を守るようにワイオネルから距離を取り、叫んだ。


「わ……私は無実です!」


『ヨハネスを狙う動機になりそうな因縁のある相手』として自分の名前が捜査網に挙がるのではないかと危惧したアルムは、兄の後ろに隠れてぶるぶると震え出した。


「ど、動機があるからって、私に罪を着せようって言うんですね!? お、王族って奴はこれだから! 人の命をなんだと思ってるんだ!」

「そうじゃない! 俺が真犯人をみつけるまでの間、ヨハネスの牢に結界を張ってもらいたいんだ! ヨハネスを傷つける者が侵入できない結界を!」


 アルムはウィレムの背中から顔を出してワイオネルを見た。


「キサラ様達に頼めばいいじゃないですか」

「というか、そもそも結界など張らなくても、牢の警護を固めれば済む話でしょう」


 わざわざダンリーク家にまで来なくても、聖女なら誰でも結界を張れると主張するアルムに対して、ウィレムは信頼できる者に牢を守らせればいいだけだとワイオネルに向けて言う。


「牢の中なら怪しい者が近づけないから、逆に守りやすいはずだ」

「……捕まったのがヨハネスでなければ、そうしていた」


 ワイオネルが少し肩を落として「ふう」と短い息を吐いた。




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