第5話 国王代理からの依頼







 ヨハネスの名前を聞いて反射的に扉を閉めてしまったアルムだったが、さすがに「殺される」という物騒な台詞を無視することはできなかった。


「で、どういうことなんです?」


 扉を開けて招き入れたワイオネルに尋ねると、彼は真剣な表情で切り出した。


「これは一部の者しか知らない極秘事項だ。三日前に俺の命を狙った暗殺者が、黒幕の名前を吐いた……俺の命を狙った者は――ヨハネス・シャステルだ、と」

「ええっ!?」


 アルムは思わず素っ頓狂な声をあげた。「まさかあの人が」という衝撃に目を見開く。


 ヨハネス・シャステル。第七王子にして大神殿に仕える神官であり、アルムが聖女を辞める原因となったパワハラ野郎である。


「ヨハネス殿下がそんな……なにかの間違いです!」


 アルムは力強く訴えた。


「アルム……ヨハネスを信じてくれるのだな?」


 ワイオネルがアルムの反応に感動して目を細める。


「だって、キサラ様が言ってました! ヨハネス殿下が隠れて私に会いに来たりしないように、ここ一ヶ月ほどは仕事の後に『ストーカー更生プログラム』を受けさせているって!」

「更生プログラム!?」


 被害者の気持ちになって考えられるように、悪質なつきまといや一方的に手紙を送りつけるなどの行為がいかに迷惑で気持ち悪いかを教え諭しているそうだ。

 その甲斐あってか、ここしばらくは手紙も送られてこず、アルムは快適に過ごしていた。


「だから、ヨハネス殿下はこの一ヶ月間は仕事以外の理由で大神殿の外に出たことはないはずです。暗殺者に接触する機会もなかったと思います」


 アルムはヨハネスのことは信じていないが、キサラの手腕は信じている。彼女がヨハネスのプライベートな時間をきっちり管理してカリキュラムを組んでいるのだから、暗殺など企む余裕はないはずだ。


「もちろん、俺もヨハネスが犯人だなどと信じていない」


 ワイオネルが目を伏せて言った。


「誰かがヨハネスを陥れたんだ。無実を証明するために、真の犯人をみつけなければならない」

「まさかとは思いますが、アルムに犯人捜しに協力しろというのではないでしょうね」


 ウィレムが眉をひそめた。暗殺だの冤罪だのといった王家のごたごたにアルムを巻き込もうというのなら、国王代理だろうがなんだろうが家から叩き出してやると言いたげな表情でワイオネルを睨んでいる。


「そうではない。アルムには、ヨハネスを守ってもらいたいのだ」


 ワイオネルの切実な訴えに、アルムは反射的に「嫌」と答えそうになった。





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