第4話 兄と王子の攻防




 茶を淹れ終えたミラが下がると、談話室にはアルムがページをめくる音とウィレムが手紙の束を整理する紙の擦れる音だけが響いた。

 静かで平和な夜だ。

 ゆったりと流れる時間に身を任せてくつろぐ兄と妹。


 しかし、その憩いの時間を切り裂くように、玄関の呼び鈴がジリリジリリと鳴り出した。


「こんな時間に誰だ?」


 怪訝な表情をしたウィレムが使用人を待たずに自ら玄関に向かって扉を開ける。

 扉の外に立っていたのは、深く被ったフードで顔を隠した男だった。

 不審者かと身構えかけたウィレムの前で、男はフードをずらして顔を見せた。


 そこにいたのは、濃緑の髪と金色の瞳を持つ精悍な面構えの青年――若き国王代理ワイオネルだった。


「夜分にすまない。頼みがあって」


 ばたん。


 皆まで聞かず、ウィレムが扉を閉めた。


「何故閉める!?」

「うちは王子お断りだ!」

「嘘を吐け! 今日の昼間、ガードナーが来てアルムと庭で茶を飲んでいたのを知っているんだぞ!」


 扉を押し開けながらワイオネルが怒鳴る。

 ウィレムとしては王子は全員出禁にしたいくらいなのだが、第二王子ガードナーは高笑いと共に現れて呼び鈴も鳴らさずに勝手に入ってくるのだ。


 ただ、強引に侵入してくることを除けば、茶を飲みながら世間話と筋肉自慢をするだけで特に害はない。アルムも突撃訪問に慣れたのか怯えることなく相手をしている様子なので、たまに遊びに来るくらいは許している。


「悔しかったら第二王子になって出直してこい!」

「急いでいるんだ! どうしてもアルムに頼みたいことがっ……」

「こんな時間に押しかけてくるような常識のない男にアルムは渡さんぞぉぉっ!!」

「ちょっと待て! 今日は求婚しにきたわけじゃない! 話を聞け!」


 扉を開けようとするワイオネルと閉めようとするウィレムの戦いが繰り広げられる。

 その戦いをはらはらと見守っていたアルムは、おそるおそる兄に近づいた。


「お、お兄様。話を聞くくらいなら……」


 なんの話か知らないが、聞くだけ聞いてとっとと帰ってもらった方がいい。そう考えたアルムの耳に、ワイオネルの叫びが響いた。


「頼む、アルム! ヨハネスを助けてくれ!」


 ばたん。


 アルムは思わず兄に加勢して扉を閉めていた。


「お兄様。扉を開けられないように結界を張りましょう」

「それがいい」


 アルムが提案すると、ウィレムもグッと親指を立てて賛成した。

 だが、それを実行に移す前に扉の向こうでワイオネルが叫んだ。


「このままでは、ヨハネスが殺されてしまう!」


 アルムは思わず兄と顔を見合わせた。




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