第49話 話し合い



 ***



「アルム! お前も疲れただろう! ゆっくり休むといい!」


 村の寄合所となっている作業小屋を借りて休息を取ることになり、アルムがエルリーと手をつないで建物に入ると、大股で歩み寄ってきたガードナーがエルリーを無造作に抱き上げた。


「あ」


 アルムは急に見知らぬ大男に抱き上げられたエルリーが泣き出すかと思った。

 だが、エルリーはガードナーの腕の中で目を丸くしてぱちぱち瞬いていて、泣き出しはしなかった。


「うむ! おとなしい子だな! 一緒に筋トレするか?」


 筋トレと言いつつ、ガードナーはエルリーを高い高いした。高く持ち上げるたびにエルリーが「ふわ、ふわ」と声をあげるので怖がっているのかと思ったアルムだが、いっこうに泣き出す様子はなく、むしろ手をぱたぱたさせて楽しんでいるように見えた。


(意外と子供と相性がいいのかな?)


 アルムの中でガードナーの好感度が上がった。


「しかし、偶然もあるものだ。俺がアルムを連れてきた場所に、エルリーのような存在がいるとはな」


 ガードナーがエルリーを肩車しながら言った。


「もしかしたら、アルムとエルリーは出会う運命だったのかもしれないな。そう考えるとおもしろいではないか」

「おもしろくねえよ。まだ何も解決してないんだぞ」


 ほがらかに笑うガードナーに突っ込んだヨハネスが、オスカーに視線を向けた。


「本当にいいんだな?」


 念を押されたオスカーは迷わずに頷いた。


「闇の魔力さえ抑えられれば、エルリーは普通の子供と変わらないのでしょう? 私はアルム様を信じます。彼女が見守っていれば、エルリーが闇に染まることはないでしょう」

「素晴らしいですわ、オスカー様! アルムへの信頼といい、誠実な態度といい……どこぞの第七王子とはえらい違いですわ!」

「ええい、うるさい! 引っ込んでろ!」


 自分を煽るキサラの軽口に憤然とするヨハネス。

 その時、ずっと無言で座っていたマリスが何かを決意したように立ち上がった。


「ヨハネス殿下! やはり私がエルリーの後見人になります!」


 マリスが拳を握ってそう主張する。


「マリス! そんなことをすればお前の人生がっ……」

「なんの関係もないオスカー様に責任を押しつけることなんてできないわ!」


 ジューゼ伯爵が娘を止めようとするが、マリスは頑なに言い張った。


「マリス嬢……私は神官長として、キラノード小神殿が守護する地で起きた出来事に無関係ではいられない。エルリーのことも、私が責任を持つのは当然のことだ」

「いいえ! エルリーは私の叔母様の子供だもの! 身内が責任を負うべきだわ!」


 マリスとオスカーが互いに自らが責任を負うべきだと言い合う。

 アルムは「マリスの気持ちもわかるな」と思った。


「マリス嬢は十六歳だろう? そもそも成人でなければ後見人にはなれない」

「そんなっ……」


 ヨハネスに説得されて、マリスが泣きそうな表情になる。

 そこへ、エルリーを肩車したままのガードナーが口を挟んだ。


「だったら、二人で後見人になればいいではないか」

「へ?」


 皆がガードナーに注目した。


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