第48話 移動と裏取引




 ***


「とりあえず、近くの村に移動して休みませんか」


 レイクが消えた後、いささかぐったりした様子のマリスがそう提案した。

 いろいろありすぎて疲れているのはアルムも同じだったので、マリスの意見に賛成した。

 男性陣は先に馬で村へ向かい、女性陣はキサラの馬車に乗せてもらうことになった。


「なるほど。ヨハネス殿下とキサラ様は瘴気の発生原因を調べるためにいらしたんですね」

「ええ。殿下には別のよこしまな企みもあったようだけれど……まさか、こんな可愛い子が隠されていたなんてね」


 村へ向かう道中、馬車の中でヨハネス達が訪れた理由を聞いたアルムは、疲れたのかうつらうつらしているエルリーの頭を撫でて眉を曇らせた。


 具体的にエルリーをどうするのか、まだ決まっていないのだ。オスカーが後見人になると言ってはくれたものの、彼がエルリーを育てることはできない。


 エルリーの力を抑えて使い方を学ぶためには大神殿で暮らすのが一番だが、大神殿――特に聖女の住まう聖殿に入ることができるのは限られた者だけだ。オスカーの後見があっても、エルリーが聖殿で暮らす許可を得るのは難しいかもしれない。

 さりとて、聖殿以外の場所でエルリーが暮らすとしたら、あの小屋のように護符や結界で閉じ込めないといけない。


 マリスは何か考え込むように外を眺めて黙っている。何か声をかけて励ましたかったが、アルムにはなんと言えばいいのかわからなかった。


 ほどなくして村に到着すると、馬に乗って先に行っていたヨハネス達が村人に歓迎されているところだった。


「まっ、魔物様!? 何故、殿下達と一緒に……っ」

「おい馬鹿、黙れっ!」


 馬車から降りてきたアルムを見るなり怯え出した村人達だったが、リヴァーがすっと歩み寄ってきてアルムに耳打ちした。


「わかっていますよ、魔物様。人間のふりをして王子に近づき、意のままに操るおつもりですね?」


 全然そんなおつもりじゃないのだが、否定するのも面倒くさいのでアルムは黙っていた。


「さすがですな、魔物様。……これは例のものです。お納めください」


 リヴァーが大きな包みを二つ、すっと差し出してきた。

 アルムは無言で包みを受け取ると、バッグの中に押し込んでから何事もなかったようにキサラの後をついていった。



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