第47話 後始末2
全員がオスカーに注目した。
「オスカー殿? 何を言ってるんだ」
「キラノード小神殿の神官長がたまたま強い魔力を持つ子供をみつけて引き取った——ということにできませんか?」
マリスがぽかんとした顔でオスカーを見上げた。アルムはオスカーを見て「そういえばこの人誰だろう?」と思ったが、空気を読んで黙っていた。
「できるかもしれないが、それでは何か起きた時にオスカー殿に責任が……」
「そうだぜ! なんの関係もない奴がなんでそんな危険を背負い込まなきゃいけねえんだ?」
戸惑うヨハネスに便乗して、レイクがオスカーに問いかけた。
オスカーは向き合ったレイクに静かに答えた。
「私は、名ばかりとはいえキラノード小神殿の神官長だ。この地もキラノード小神殿の守護下にある。ここで生まれた闇の魔力を持つ子供を放ってはおけない」
オスカーは迷いなく言い切った。そして、アルムに向かって笑顔を見せる。
「聖女アルムが、エルリーは闇に染まらないと断言した。ならば、何も心配はいらない。私はアルム様の言葉を信じます」
力強い言葉と共にまっすぐにみつめられて、アルムはぽっと頬を赤く染めた。
「んなっ……!」
それを見たヨハネスが声にならない呻きを漏らした。
アルムの目にはオスカーからきらきらした『好青年オーラ』が放たれているように見えた。知り合いの青少年がだいたい残念な人物であるアルムにとっては、誠実そうなオスカーの態度がまぶしく映る。
「私、頑張ります!」
「おい待てコラ! 勝手に二人で盛り上がるな」
アルムがオスカーに明るい笑顔を向けたのが気にくわなくて、ヨハネスが二人の間に割り込んだ。
「お、俺だってアルムを信じているが、立場上軽々しくものを言えないってのに……俺の目の前で点数稼ぎやがって……っ」
「害虫は外ー!! 聖女の怒り炸裂スペシャルバージョン!!」
オスカーに向かって八つ当たり気味に私怨を吐き出そうとしたヨハネスに、横手から何か堅いものがばらばらと投げつけられた。
「アルムに会いたいという自分の欲望のためにオスカー様を利用しておきながら逆恨みとは、見下げ果てたクズですわ! 害虫の分際で嫉妬などおこがましい!」
「あっ。キサラ様だ」
「とうとう出やがったな! ゆっくり来いって言ったのに!」
「ふん!」と胸を張るキサラに、ヨハネスは投げつけられた何かを拾って怒鳴った。
「人に豆をぶつけるのはやめろって言っただろうが……って、豆? 豆かこれ!? デカっ!! なんだこれ!?」
普通の豆の何倍も大きなそれに、ヨハネスが驚愕する。
「藻玉ですわ」
「モダマ!?」
聞いたことのない名前の豆に戸惑うヨハネスを後目に、キサラはアルムに微笑みかけた。
アルムはこてん、と首を傾げた。
「キサラ様、いつからいたんですか?」
「瘴気が一ヶ所に向かって行くのが見えたから追いかけてきたのよ。そしたらアルムがヨハネス殿下に落花生をぶつけていたから、あそこで皆と一緒に見守っていたの」
キサラが少し離れた場所を指さす。そこにはキサラが乗ってきたらしい壮麗な馬車が停まっていて、その前に聖騎士と護衛の兵士達が一列に並んでぽりぽり落花生を摘んでいた。その中に、何故かガードナーも混じっている。
「アルムよ! 話は聞かせてもらったぞ!」
落花生を噛み砕いたガードナーが、「むん!」と胸の筋肉を張って近づいてきた。
「伯爵がいなくなったのでヨハネス達と合流しようと思って来たのだが、邪魔になりそうなので見学させてもらっていた!」
ガードナーがのしのしと歩いてきたのでエルリーが怖がるかと思って身構えたアルムだったが、エルリーは初めて見る大男に驚きすぎたのか目を丸くしてぽかんとしていた。
「兵士はともかく聖騎士は俺の身を守るのが仕事だろうが! 主君が藻玉をぶつけられているのに堂々と見学してるんじゃねえっ!!」
「すいません。豆類ならいいかなって思って……」
聖騎士に食ってかかったヨハネスがぎゃあぎゃあ騒ぐのに思わず気を取られたアルムの背後で、不意に闇の気配が膨れ上がった。
『覚えておけよ、聖女アルム』
木で拘束していたレイクの姿が、黒い靄に包まれて消えていた。
『いつか必ず後悔するさ。その子供は闇の中でしか生きられないと後悔する時がくる。その時は、俺を呼べばいい』
声だけを残して、闇の魔導師レイクは去っていった。
「……あーるぅ」
腕の中のエルリーが名前を呼んでしがみついてくる。
アルムはその小さな体をぎゅっと抱きしめた。
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