第46話 後始末



 アルムはエルリーを抱き上げて「ふう」と息を吐いた。


 エルリーを落ち着かせて瘴気が集まるのを止めたものの、まだ問題が解決したわけではない。

 やれやれ疲れた~とベンチに寝ころびたいのをぐっと我慢して、アルムは一同の顔を見渡した。


「はっ! そういえば、俺の顔を見てもアルムがウニ化しない……! よっしゃあっ! 一歩前進だ!」


 ヨハネスが急に歓喜の声をあげた。


(そういえば、ヨハネス殿下の顔を見ても吐き気がわいてこないな。それどころじゃなかったからか……)


 アルムも別に積極的に吐きたいわけではないので、平気になったのならそれはそれでかまわない。


「そんなことよりも……エルリーのことですよ!」


 アルムは地面から木を生やし、伸ばした木の枝を絡みつかせてジューゼ伯爵とレイクを拘束した。


「なっ、何をする!」

「くっ……」


 もがく二人の前に立ち、アルムはエルリーの頭を撫でて言った。


「エルリーは闇の魔導師にはなりません。普通の女の子と同じように、可愛い服を着て、お菓子を食べて、綺麗な花を摘む。そういう暮らしをさせたいです」


「はっ!」とレイクが口の形を歪めて笑い飛ばした。


「無理だって言っているだろう! 夢物語もいい加減にしろ!」


 レイクの瞳に憎悪の炎が宿った。


「この国の人間は腐っている。闇の魔力を持つ俺達を見下し、追いつめた……その子供も俺達と同じ想いをするさ」


 レイクの口調は確信に満ちていたが、アルムは怯まなかった。


「エルリーの心は絶対に闇に染まらないって、私は信じます! だって、ずっとひとりぼっちで閉じ込められていたのに、エルリーは誰のことも恨んでいない優しい子だもの」


 エルリーは瘴気を引き寄せはしたが、それを誰かに向けようとはしなかった。もしもエルリーに誰かを傷つけたいという感情があったら、瘴気は人を襲っていたはずだ。


 アルムの言葉を聞いて、ジューゼ伯爵がガクリとうなだれた。


「だが、どこでその子供を育てるつもりだ? 責任をとる人間がいないって、さっきも話していただろうが」

「それは……」

「わ、私がっ……引き取りますっ!」


 アルムとレイクの会話に、マリスが口を挟んできた。


「私は従姉妹だもの! 私に責任があります!」

「待つんだ、マリス嬢。これだけの闇の魔力の持ち主を野放しにするわけにはいかない。……残念だが、監視をつけて生活することになるだろう」


 ヨハネスが思い描くエルリーの暮らしは、護符や結界の張られた場所での監視付きの暮らしだ。そこに時々ヨハネスや他の神官が通って魔力の使い方を教えることになるだろう。


「誰か、後見人になる人間がみつかれば、ある程度の自由は得られる。王都に戻ったら、隠居した神官などに声をかけてみよう。神殿関係者が後見人になれば、何かしら理由をつけて大神殿で暮らせる可能性も——」

「——だったら」


 ヨハネスの言葉を遮って、オスカーが口を開いた。


「だったら、私が後見人になります」


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