第42話 アルムとヨハネスと豆類
「あれ?」
黒い塊の大部分は消し飛んだが、エルリーを膜のように包むわずかな瘴気は残った。
アルムは呆然として目を瞬いた。
「馬鹿なっ……アルムが浄化しきれないだなんて!」
ヨハネスが喫驚する。
「どうしたアルム!? お前の力はこんなもんじゃないだろう! 大神殿から出て力が弱まったのか!? やっぱりお前は大神殿で俺のそばにいるべき——」
「うるさい! ちょっと黙っててください!」
どさくさにまぎれて勝手なことをほざきだしたヨハネスにぽこぽこぽこっと落花生をぶつけて、アルムは耳をふさいだ。
力が弱まっているわけではない。むしろ、大神殿を出て以来絶好調だ。
それなのにエルリーを包む瘴気が残ってしまったのは、アルムに迷いがあったからだ。
ここで完全に浄化してしまったら、エルリーをどうするか決めなければならなくなる。
(エルリーの今後はどうなるんだろう……)
今のエルリーは廃公園で結界を張って過ごしていた時のアルムと同じではないか。
どこにも行く場所がなくて、でも閉じ込められていた場所に戻るのも嫌で、誰かに傷つけられないように自分の力で作った結界に閉じこもっている。
もしもあの時の自分が、全然知らない誰かに結界を吹き飛ばされて引きずり出されていたら、きっと恐怖で我を忘れて力を暴走させてしまっていただろうとアルムは思う。
(私の場合は、お兄様が来てくれた。私にも居場所があると安心させてくれた)
力ずくで結界を壊すのではなく、「出てきても大丈夫」と安心させてやらなければいけないのではないか。
そう考えたアルムは、エルリーが安心して過ごせる居場所を想像した。
(闇の魔力が暴走する可能性を考えると、やっぱり神殿か強い光の魔力を持つ人間のそばじゃないと……)
「……あの、ヨハネス殿下」
アルムが振り向いた拍子に地面からぽこっと飛び出した落花生がヨハネスの額に当たった。
「あ、すいません。つい、うっかり」
「気にするな! それより何だ? 俺に話があるのか!?」
アルムから話しかけられた喜びで興奮したヨハネスは勢い込んで尋ねた。アルムに話しかけてもらえるなら落花生も大歓迎だ。豆類なんか怖くない。大豆も小豆もどんとこい。
「エルリーを、大神殿で預かることってできますか?」
アルムがそう質問すると、レイクが小馬鹿にする口調で声を張り上げた。
「やっぱり閉じ込めるつもりじゃねえか。大神殿で一生飼い殺しにされるよりは俺達に預けた方がマシと考えた伯爵のほうが、神官や聖女より人道的だなあ」
アルムはレイクの声は無視してヨハネスの答えを待った。彼は少しの思案の後に口を開いた。
「それは可能だが、その子供を聖女に近づけることはおそらく無理だ」
ヨハネスの言葉に、アルムは目を見開いた。
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