第43話 無力感
アルムはこう考えたのだ。エルリーが自分の魔力をコントロールできるようになるまで、大神殿で預かってもらおう。キサラ達に頼んで魔力の使い方を教えてもらうのだ。もちろん、アルムも協力する。
光と闇の違いはあれど、魔力を制御する方法はさほど変わらないはずだ。
しかし、ヨハネスは首を横に振った。
「聖女は大神殿の中で守られる存在だ。俺達神官は聖女を守る盾となるのが役目。闇の魔力の持ち主を聖女に近づけるわけにはいかない」
「でも……」
「もしも何かあった時に、誰も責任をとれないだろう?」
アルムの頼みならなんでも頷いてやって好感度を上げたいところだが、ヨハネスは立場上こう言うしかなかった。
「責任なら、私が……」
「アルム。何かがあった場合、責任を取るのはまだ十五歳のお前ではなく、お前を庇護するダンリーク男爵だぞ」
ヨハネスの指摘に、アルムは口をつぐんだ。
「ニムス侯爵家もジューゼ伯爵家もあの子供の存在を認めていないんだ。得体の知れない孤児を聖女と共に寝起きさせることはできない」
ヨハネスがちらりとジューゼ伯爵に視線を送ると、彼は黙って目を逸らした。
「お父様!」
「あの子にジューゼを名乗らせるわけにはいかん……闇の魔力を持つ子を産んだ血筋だと知られたら、ジューゼ伯爵家は終わりだ」
「そんな……」
エルリーの存在が明るみに出れば、ジューゼ伯爵家とニムス侯爵家の血縁者は周りから『闇の魔力の持ち主を生んだ血筋』という目で見られることになる。マリスの結婚にも支障が生じるだろう。だからこそ、ジューゼ伯爵はどうあってもエルリーの存在を隠さなければならなかったのだ。
ジューゼ伯爵の言い分を聞いて、アルムは唇を噛んでうつむいた。
ジューゼ家もニムス家もエルリーを受け入れない。エルリーはエルリー・ジューゼにもエルリー・ニムスにもなれないのだ。エルリーの居場所が、ない。
(お兄様にお願いして、ダンリーク家でエルリーを育てる? でも、それも結局「責任が取れるのか?」という話になっちゃう……お兄様にこれ以上、苦労と迷惑をかけるのは……)
アルムはエルリーの魔力を抑えたり発生した瘴気を浄化することはできるが、魔力の使い方を教えるのは上手くやれる自信がない。アルムには魔力の使い方を指導した経験も指導された経験もないのだ。
普通は新人のうちに先輩聖女から魔力の使い方を学ぶものなのだが、アルムの場合は最初から感覚的に魔力を使えていたので、魔力が必要な場面で特に困ることがなかった。そのせいで学ぶ機会を逸していたのだ。
アルムのやり方——手をかざして念じたら割となんでもできる——では駄目だろう。どうしても、キサラ達に頼らなくてはならない。
「エルリーを大神殿で養育するためには、後見人が必要だ。しっかりとした立場の、大人の後見人が」
ヨハネスが厳しい口調でそう告げた。
その時、うつむいたアルムの耳に、ヨハネスとは別の声が届いた。
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