第41話 アルムの戸惑い
***
空に浮かんだ黒い塊はどんどん巨大化していく。
そろそろ領民達が異変に気づいて騒ぎ出している頃だろう。そう考えたヨハネスがおそるおそるアルムに近づいて言った。
「アルム。瘴気が大量に集まりすぎている。とりあえず、あの塊を浄化してくれ」
「え……あ……」
天敵のヨハネスが近づいてきたというのに、アルムの反応は鈍かった。目をぱちぱちと瞬いて戸惑う様子を見せるアルムに、ヨハネスが首を傾げる。
「アルム?」
「あ、えっと、はい! 浄化します!」
気を取り直したように空に手をかざしたアルムは、塊に引き寄せられてきた瘴気に向けて光を放った。空を覆っていた瘴気があっさりと浄化される。
(次は、あの塊を浄化してエルリーを助け出す……)
アルムはエルリーを覆う塊に手のひらを向けた。だが、その手から浄化の光が放たれる前に、レイクが声を張り上げた。
「いくら浄化しても、あの子の闇の魔力がなくなるわけじゃないぞ! お前達は瘴気が消えさえすればいいんだろうが、あの子は魔力の使い方を身につけない限り自由になれない!」
アルムはびくっと震えて動きを止めた。
(そうだ。私が浄化しただけじゃあ、エルリーは私がいないと駄目ってことになっちゃう……そうじゃなくて、エルリーが自分で魔力を使いこなせるようにならないと……)
ジューゼ伯爵が何故エルリーを闇の魔導師に引き渡そうとしていたのか、理由がわかった。
闇の魔導師。それは闇の魔力で瘴気を操り、時に人に害をなす者達のことだ。
そんな彼らに子供を引き渡せば、強い魔力を利用されるかもしれないとは伯爵も考えたはずだ。
だが、それ以外に方法がないと思ったのだろう。エルリーを、護符に囲まれた小屋ではなく、外の世界で生きられるようにする方法が。
伯爵がそう考えたのも無理はない。闇の魔導師なら、エルリーに魔力の使い方を教えることができるはずなのだから。
(私は光の魔力を持っているからエルリーのことが怖くなかったけれど、普通の人にとってはエルリーのそばにいるだけで危険で、怖いって感じるんだ……)
エルリーを自由にしたくても、それがとても難しいことだとアルムにもわかった。
「王宮の偉い人達がどうにかできないの? 魔力に詳しい人とかいるでしょ?」
レイクの台詞を聞いたマリスがおずおずと尋ねるのが聞こえた。
「この国では闇の魔力を持つ者はずっと迫害されてきた。特に貴族は光の聖女信仰が強く、闇を穢れと嫌っている。エルリーを連れ帰っても、受け入れられるのは難しいだろう。魔力の大きさを恐れられ、今より厳重に閉じ込められるだけだ」
ヨハネスはふっと短い溜め息を吐いた。
重たい沈黙がしばし辺りを支配する。
とにかくまずは瘴気を浄化しなくては、と気を取り直したアルムが空に向けて光を放った。
エルリーを包んでいた瘴気がすべて消し飛ぶ——はずだった。
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