【第一巻重版御礼ss】幽霊屋敷の謎 3




 ***



 屋敷に足を踏み入れたアルム達は、突如響いた絶叫に硬直した。


「……今のは?」

「お、おばけの声だ!」

「そ、そんなわけないだろ!」


 いぶかしむアルムの横で、兄弟は顔を青くして辺りをきょろきょろ見回している。


「あっちの部屋から聞こえたよね?」

「あ、アルム様!」

「待って!」


 幽霊なんているわけがないし、いたとしても浄化すればいいだけと考えているアルムはずんずんと進んでいく。ヒンドとドミは怯えながらもついてくる。

 叫び声がした部屋を覗くと、暖炉の前に誰かが倒れているのが目に入った。


「大変! 大丈夫ですか?」


 気を失っているのは人相の悪い男だった。


「空き家じゃなかったの? 勝手に入ったの怒られちゃう」

「この人も肝試しなんじゃない?」


 ソファを見たヒンドが「うわっ」と叫び声をあげた。


「なんだこれ? 気味の悪い人形だなあ」


 ソファにはお化け屋敷にありそうな人形が座っていた。誰かがイタズラで置いたものだろう。男性はこれを見て驚いて気絶したのかもしれない。


(肝試しにきた子がこれを見て幽霊屋敷なんて言い出したんじゃない?)


 そう思いながら、アルムは指を動かして魔力で人形と男性を宙に浮かべた。気絶している男性は置いていけないし、人形も片づけておいた方がいいだろう。


「とりあえず、入り口の前で待っていてもらおう。ヒンド、ハンカチはみつかった?」

「まだです。ドミ、探しにいくぞ」

「うん」


 アルムは男性と人形を入り口の扉の前に移動させて、自分達はハンカチを探しに部屋を出た。



 ***



 すごい悲鳴が聞こえた。


「今の聞いた? めちゃくちゃ怖がってるわね!」


 オルラは堪えきれずに「いひひ」と笑った。


「今の、ヒンドリー様の声ですか? それにしては野太くありませんでした?」

「悲鳴なんて変な声が出るもんでしょ」


 侍女は首をひねっていたが、オルラは気にしなかった。

 階段の真下に移動した二人は、荷物から人形の胴体を引っ張り出して床に座らせた。花柄のドレスを着たこの人形は首と胴体がわかれているため、近づいて首が落ちたらびっくりするに違いない。


「お嬢様、申し訳ありません。間違えて男の首を持ってきてしまいました」

「ええ? もうしょうがないわね!」


 本当は髪の長い女の首を乗せるつもりだったのに、花柄のドレスの上に頭から血を流す男の首を乗せる羽目にはってしまった。


「あ、これを頭に乗せておけば女の人に見えるかも」


 廊下の窓辺に飾ってあった造花のデイジーを持ってきて、人形の頭に乗せる。


「これでよし。次は庭よ」

「まだやるんですか……」


 オルラは嫌がる侍女を促して、廊下の奥の裏口から庭に出た。

 扉を開けたままにして、すぐ近くの木の枝にハンカチをひっかける。


「これでよし。ハンカチを取ろうとしたら、あの池が目に入るわね」


 オルラは「くふふ」と笑った。



 ***



「なんだ、今の悲鳴は?」

「コットーの声、だよな?」


 強面で腕っ節の強いコットーがあんな悲鳴をあげるなんて、とヨキとキークは戸惑って目を見合わせた。

 

「おい、様子を見てこい」


 ヨキに命じられたキークは慌てて部屋を出た。

 階下で何があったかわからないが、コットーがやられたなら自分も危険だ。小心者のキークはこのまま逃げてしまおうかと思いながら階段を降りた。

 すると、階段の下に誰かが座り込んでいるのが見えた。一瞬ギクリとしたが、花柄のドレスを着て髪にも花を飾っている後ろ姿を見て、肝試しにきたどこかの少女だろうと思った。少女一人ならどうとでもなると安堵し、キークは乱暴に少女の肩を掴んで凄んだ。


「おい、ここで何してやが――」


 キークが言い切る前に、首がごろんと床に落ちて転がった。

 キークの足下に転がってきた首は少女のものではなく、白目をむいた男のうつろな顔だった。


「ぎゃああああーっ!!」


 絶叫して飛び上がったキークは階段を踏み外し、後頭部を階段の段差にぶつけて気を失った。



 ***



「わっ、また?」


 再び響いた悲鳴に、アルムは目をぱちくりした。


「階段の方からですね」


 ヒンドはドミを背中の後ろに隠すようにして廊下を進んだ。アルムもその後ろについていく。

 階段の下には気絶した男性と、首と胴が分かれた人形が転がっていた。


「こんな悪趣味な人形まで……たちの悪いイタズラをする奴がいるんだなあ」


 アルムはぷんぷんしながら男性と人形を浮かせて入り口の前まで移動させた。入り口の扉の前は、空中に二人の男と二体の不気味な人形が浮かんでいる異様な空間と化している。


「あ、兄ちゃん。あれ見て!」


 ドミが廊下の奥を指さした。

 そちらに目をやると、突き当たりの扉が開いていて、裏庭の木の枝に引っかかった白いハンカチが見えた。


「あれを取ってきてすぐ帰りましょう」


 ヒンドがそう言って駆け出した。



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