第23話 ヨハネスの決意
***
護衛に囲まれた二台の馬車が街道を走っていた。
前の一台にはヨハネスが乗り、もう一台にはオスカーとその従者が乗っている。
揺れる馬車の中、ヨハネスは逸る気持ちを抑えきれなかった。
筋肉男に連れ去られたアルムのことが心配で仕方がない。強引に腹筋をさせられたり無理やり腕立て伏せをやらされて泣いているのではないか。怪しいプロテインを飲まされて苦しんでいるのではないか。そんな想像をしては「早く助けにいってやらなければ」という使命感が湧き上がる。
「ガードナーめ……万が一、アルムの力こぶが盛り上がっていたりしたらただじゃおかねえ……」
アルムの精神と筋肉が無事であることを祈ると同時に、ヨハネスの本能はこれがチャンスだと告げていた。
(今のアルムは見知らぬ土地で筋肉男に囚われている状態……心細いに違いない)
ヨハネスは膝の上で拳をぎゅっと握りしめた。
(そこへ俺が現れれば、さしものアルムもウニったりしないはずだ)
「ウニる」とは、アルムがヨハネスの姿を視界からシャットアウトするために真っ黒い球体状の結界に閉じこもることを指す動詞である。一時期、聖女達が流行語のように使っていたため、ヨハネスにも移ってしまった。
(なにより、今ここには邪魔者(聖女×3)がいない!)
自らに与えられた最大のアドバンテージに、ヨハネスは天を仰いで歓喜に打ち震えた。
馬車の中にヨハネス以外の人間がいないからいいものの、誰かに見られていたらさぞかし不気味がられる光景だろう。後ろの馬車に乗るオスカーも車間距離を広げたくなるに違いない。
「キサラが到着する前にアルムを口説き落とす! 俺の全力をもって!」
ヨハネスは力強く決意して、ふと窓の外に目をやった。
青空を、何か大きな物体がひゅんっと馬車を追い越していくのが見えた。
「……ベンチ?」
一瞬だったが、確かにベンチが空を飛んでいた。
言うまでもなく、アルムの元へ飛んでいく途中のベンチである。
「何やってるんだ、アルム……」
ヨハネスはアルムの身に何が起きているのか知らないが、ベンチが空を飛ぶというあり得ない現象はアルムの仕業以外に考えられない。
「早く行ってやろう。待ってろ、アルム」
ヨハネスはそう呟いた。
***
一方その頃、王都の大神殿では。
「キサラ様! グラスにヒビが!」
「壁に掛けてあった額縁が落ちました!」
「不吉ね……やはりあの害虫は何かおぞましき企みをしているに違いないわ。清らかなる光が悪しき魂の行く手を阻むように祈りましょう」
害虫不在の大神殿で、聖女キサラは自身も一刻も早く後を追おうと決意を新たにした。
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