第18話 森へ
「瘴気だ!」
護衛の誰かが叫んだ。
空に広がるそれは足を止めた一行の頭上を通り過ぎていく。森の上で動きを止めた瘴気は、しばらくの間上空にとどまっていたが、やがて森の中心に吸い込まれるように消えていった。
それを目にしたアルムは首を傾げた。
「瘴気はより強い瘴気に引き寄せられる性質があるんですけれど、森の中に死体でもあるんでしょうか?」
「さあ?」
マリスも警戒する目つきで森を睨んでいる。
ガードナーは自身の護衛にキラノード小神殿へ瘴気の発生を報告するように命じてからマリスの横に馬を並べた。
「どうする? 村に向かうか」
「そうですね。森には近寄らないようにして——っ!?」
言葉の途中で、マリスが息を飲んだ。
「お父様っ!?」
アルムは「え?」と思ってマリスの肩越しに森を見た。
馬に乗った人物がちょうど森へ入っていくところだった。ちらりとしか見えなかったが、馬上の人物は確かにジューゼ伯爵であるように見えた。
あれほど南の森へ近づくなと娘に念を押していた伯爵が、何故自らその森へ入るのか。
「森の中には瘴気が……危ないわ!」
マリスがさっと馬から降りて、アルムへ手を差し伸べた。
「アルル! 降りて!」
「え? はい」
素直に馬から降りると、マリスは再び素早く馬にまたがった。
「殿下! アルルをお願いします!」
言うが早いが、マリスは森へ向けて駆け出した。
「ああっ! お嬢様、お戻りください!」
伯爵家の護衛は悲鳴のような声をあげて慌てる。
「うろたえるな! 全員、その場で待機!」
マリスを追おうとする者、それを止める者、足並みの乱れかけた護衛達をガードナーが一喝した。
護衛を制したガードナーはアルムに手を伸ばす。
「アルル! 乗れ!」
「ええっ?」
マリスを見送ってぽかんとしていたアルムは驚いてガードナーを見上げた。
「早く乗るんだ! マリスを追わねば」
「うう……」
促されたアルムは逡巡した。さっきはマリスにしがみついていたからよかったが、ガードナーだとしがみつけないし豪快な男の馬に乗るのは少女にはちょっと怖い。
(でも、マリスが……瘴気を浄化できるのは私だけだし……)
辞めたとはいえ、アルムは聖女と認められた身。マリスを見捨てるわけにはいかない。
覚悟を決めたアルムはガードナーの手を掴んだ。
ガードナーはアルムを引っ張り上げて馬に乗せると、護衛達に向けて命じた。
「お前達はここにいろ。三十分経っても戻ってこなかったら一人は伯爵家へ報告、残りは森の中を捜せ」
ガードナーの前に乗せられたアルムがおっかなびっくり手綱を掴むと同時に、馬が走り出す。
「行くぞ、アルル! 瘴気が襲ってきたら頼むぞ!」
「ふぁいっ」
急に走り出した馬の振動に舌を噛みそうになりながら、アルムはなんとか返事をした。
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