第5話 誘拐犯と犯行動機
***
「いやあ、すごい光だったな! まだ目がチカチカするぞ!」
誘拐の現行犯は悪びれる様子もなく豪快に笑った。
ウィレムは背中の後ろに隠れてすんすんとぐずるアルムの頭を撫でながら、誘拐犯こと第二王子を睨みつけた。
「なんのおつもりですか? いくら王族といえど、やっていいことと悪いことがありますよ」
「はっはっは! 実はとある悩みを抱えていてな。たまたま通りかかったところにアルムがいたので、協力してもらおうと思って」
馬車が光を発して停まった後、中からアルムを救出したウィレムはカフェのテラス席でガードナーを問い詰めていた。
突然、誘拐されて怯えたアルムが発した金色の光のせいで「目がぁ、目がぁ」と悶えていた兵士達は、視力の回復した順に護衛するためテラス席をぐるりと囲む。華やかな大通りの一角がそこだけ物々しい。
「アルムは王族の便利屋じゃないんですよ。悩みだろうが問題だろうが御自分で解決してください。……まったく、どいつもこいつも」
王宮を包む瘴気を祓ったことで、王都では「聖女アルム」の名声が高まった。
そのため、ここのところあらゆる方面から「アルムに会わせてくれ」だの「聖女様の善行のお手伝いをしたい」だのという申し出ばかり舞い込んで、うんざりしていたところだったのだ。
中でも腹が立つのは高位貴族からの縁談やら茶会への招待やらだ。
もともと彼らは高位貴族の中に現れることの多い聖女に男爵家のアルムが選ばれたことをおもしろく思わず、「男爵家の分際で」と陰口を叩いていた連中だ。
「アルムがすごい力を持っているとわかった途端に手のひらを返しやがって」と、ウィレムは苦々しく思っている。
「まあ、そう言うな。実はこれから見合いに行かねばならぬのだ」
ガードナーは急に難しい表情になって事情を語り出した。
曰く、この国に筋肉の素晴らしさを広めるために福祉に力を入れるガードナーを目障りに思った宰相クレンドール侯が、さる領地貴族の令嬢との縁談を押しつけてきた、らしい。
クレンドールはガードナーをしばし王都から遠ざけておきたいだけであろうから、婚約自体は成立しようがしまいがかまわないようだ。ガードナー本人も、今のところ誰とも婚約するつもりはない。筋肉の普及活動で忙しいからだ。
「なので、見合いに行くつもりはなかったのだが、やり手のクレンドールにさっさと日取りを決められてしまってな! 行くほかになくなってしまった」
宰相はよっぽど第二王子がうざかったんだろうな、とアルムは思った。
「というわけで断りに行くのだが、俺はあまり貴族の令嬢と関わったことがない。そもそも、たいていの令嬢は俺のことを怖がるのであまり近寄らないようにしている」
そう言いつつ、ガードナーはムキッと腕の筋肉を見せつけてきた。
「……でも、私の前には堂々と現れて筋肉を見せつけてきたじゃありませんか」
初対面の時も筋肉を見せつけて迫ってきたのを思い出し、アルムは首を傾げた。
「廃公園でベンチに寝転がっている時点で普通の令嬢ではないし、一筋縄ではいかない相手だと聞いていたからな! 第一王子が倒されたと聞かされたし」
ガードナーはそう言うが、アルムには心当たりがない。第一王子なんて倒した覚えがない。
「とにかくそういうわけで、こんな物々しい一団で押しかけると相手に怯えられるかもしれないだろう。アルムのような無害そうな少女が一緒にいた方が空気が和らぐと思ってな」
「俺の妹を緩衝材代わりにしないでいただきたい。アルム、帰るぞ」
ウィレムは付き合っていられないという態度で席を立とうとした。
そのウィレムを制して、ガードナーが気になる言葉を発した。
「おっと、待て待て。もう一つ理由がある。アルムはしばらく王都にいない方がいいと思ってな」
「……どういうことです?」
眉をひそめたウィレムに、ガードナーは声を低めて囁いた。
「もしかすると、国王代理と強引に婚約を結ばされるかもしれないぞ」
聞き捨てならない台詞に、ウィレムは椅子に座り直した。
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